第33話
砦の上でリヴァイスは魔法陣を完成させると、自分の主人である神の分身と向き合う。
「我が主人、準備が整いました。始めましょう」
「・・・・・・ああ」
神の分身はそう言うと魔法陣の真ん中へ立ち、両手を広げた。
「数がいれば勝てると思っている様だが間違いだ。俺の力と闇の魔石があればいくらでも兵をかき集められるのに・・・・・・お前も馬鹿な者達だと思わんか? リヴァイス」
「左様です。しかし油断しないでください。もしかしたらエルライナが来ているかもしれません」
「そうだな。もし見かける事があるのなら、この手の礼を返さねばな」
魔人の王はそう言いながら、エルライナによって切られた指を見つめると口元を吊り上げた。
「人間にしておくには惜しいヤツだ」
「以前彼女を勧誘したのですが、断られました」
「そうだろうな。あの女には他の者達とは違うプライドの様なものを感じるからな」
「プライド・・・・・・ですか?」
「ああ、それよりも召喚魔法を始めるぞ」
神の分身はそう言うと、目を瞑り両手に魔力を込めてから魔法陣に触れる。
「我が配下となる者達よ。我が呼びかけに答え、姿を表せ。【サモン】!」
彼がそう言うと、魔法陣の中から魔物達が次々と姿を現していく様子を見た彼は、口元をニヤけさせる。
「この様子なら二百体。イヤ・・・・・・五百体は揃えられそうだ」
「はい・・・・・・ところで、例の件は大丈夫ですよね?」
「例の件?」
「お忘れですか? 我々が貴方様に協力をする代わりに、滅んでしまった我が王国の再建に協力すると」
「ああ、覚えている。その前にヤツらを止めなければならな・・・・・・ッ!?」
突然自分の元に走ってぶつかって来た事のに対して、神の分身は驚きを隠せなかった。そして、なによりも驚きなのは自分の腹部から血を流している事だ。
「なんのマネだ?」
神の分身はナイフを刺した張本人。リヴァイスを睨みながら言うが、リヴァイス自身もナイフを片手に彼を睨んでいる。
「なんのマネ? そんな事はアナタ自身が知っているでしょう? 身に覚えがないなんて言わせはしない」
「身に覚え・・・・・・お前まさか、あの時の真実を知った?」
「はい。かなり前から知ってました。お前が他の国をけしかけて我が国を意図的に滅ぼした事もな」
・・・・・・その昔、レーべラント大陸の南の端にオルタス王国という国が存在していた。
その国は一年を通して涼しい日が多く、国の規模自体は大きくはないが住みやすい国として知られていた。三国が戦争する大きな戦争が始まり、その戦火に呑まれて国は滅亡してしまった。その残った土地は連合国の領土になっている。
「中立派を掲げていた我が国を、貴様が他の国に嘘の情報を開示して滅ぼした。そして、私達を助けるフリをして下僕に仕上げた! 国王である俺の魂と・・・・・・王女である私の魂と共に一つの身体に閉じ込めた! 魔力を上げる為ってだけにっ!!」
「・・・・・・そうか、お前らは真実を知ったのか。知らずにいた方が幸せだったのだがな」
「ウソだな! 自分の良い様に使い、使い物にならなくなったら捨てる! それがアナタの考えていた事でしょ? それに、我々の国の再建なんて頭の隅にもなかった! 現に私達に国を建てる話なんてしなかったものっ‼︎」
リヴァイスの言葉を受けた神の分身は、腹を手で押さえながらゆっくりと立ち上がると、リヴァイスを見つめ直した。
「ああ、そうだな。俺はお前達の国を再建させるつもりは微塵もなかった」
「やっぱりな! 私達をどうするつもりだったの?」
「俺がこの世界を征服したら、お前を側近として俺に使えさせるつもりだった。右手としてな」
その言葉を聞いたリヴァイスは、怒りを感じたのか手に持つナイフを握りしめた。
「・・・・・・捨て駒の間違いだろ?」
「そうだな。所詮はお前も元は人間。俺に縋りつき、浅ましい知恵しか持たない者達を俺の好きに使ってなにが悪い?」
「ゲスがっ!! アナタを私の手で地獄に落とすわっ!!」
リヴァイスはそう言うと、魔法紙を取り出すと魔力を込めて神の分身へと投げた!
「【爆破】の魔法紙か。他愛もない」
神の分身はそう言って魔法紙を掴んだその瞬間、リヴァイスの口元が吊り上がった。
「掛かったわね! それは【拘束】の魔法紙だ!」
「なにっ!?」
神の分身がそう言った瞬間、魔法紙から鎖が伸び出て神の分身に絡みついた!
「ウフフッ!? 神の分身がこんなのも見抜けないなんて、情けないわね」
「クソッ・・・・・・解けリヴァイス!」
「俺が解いた瞬間、お前は俺に襲いかかってくるのが見え見えだ。だから解くわけがないでしょ?」
「クッ!?」
神の分身は悔しそうな顔でリヴァイスを睨むと、もがいて鎖を解こうとする。
「さて、同胞や亡き国の民達の無念を晴らす為、お前をこの場で殺す!」
「ま、待て! そんな事をしたら、お前は居場所をなくしてしまうぞ! それでも良いのか?」
「私・・・・・・いえ、私達はアナタに殺されてからは元から居場所がなかったも同然。だから俺達はお前を殺して因縁に終止符を打たせて貰う!」
リヴァイスはそう言うとナイフを構える。
「消えろ、邪神!」
リヴァイスは神の分身に向かって駆け出し、喉元に向けてナイフを突き出した! のだったが、喉に当たる瞬間ピタリと止まってしまった。
「・・・・・・えっ?」
リヴァイス自身が不思議に感じている最中、リヴァイスの身体が一瞬宙に浮いた後、地面に座り込んでしまった。
「キサマは馬鹿か。俺にだって防御壁の魔法を使えるぞ」
神の分身がそう言っている中、リヴァイスは自分が蹴られたのだと気づいた。
「そう、だったわね・・・・・・でも魔法は得意ではなかったから、これならどうだ!」
リヴァイスはそう言うと、両手を前に突き出して詠唱を始めた。
「風よ、我が
神の足元に風が集まると、激しい竜巻となって神の分身の身体を切り刻む!
「ウグッ!? グオッ!?」
神の分身はなんとかしようとしているのか、身体を捩ったりするがその行動が逆に傷を増やす原因になってしまっている。
「いくら魔力量が高いアナタでも、流石にこの魔法を凌ぐ事は不可能でしょう!」
「キサマ! やはり俺が召喚魔法を使った後を狙っていたなぁ!」
「ああ、それしかお前を倒すチャンスがなかったからな!」
神の分身の身体に傷が増えて行く様子を、リヴァイスは嬉々迫る様子で見つめる。
「滑稽ですね。自分を裏切らないと思っていた者に、こんな風に裏切られた上に追い詰められているのですから」
神の分身にリヴァイスの話し声が聞こえているのかどうか分からないが、力尽きかけて来たのか床に膝を着いてしまった。
その様子を見たリヴァイスはチャンスと思い、【エアストーム】を解いて神の分身に近づく。
「止めは俺達の手で刺してやる! その罪をその命で償えっ!!」
リヴァイスが神の分身に向かって再びナイフを振り下ろした瞬間、リヴァイスは吹き飛ばされ、壁にぶち当たった。
「〜〜〜ッ!?」
痛みに耐えながら立ち上がる中、神の分身がリヴァイス駆け寄り、腹部を突き刺す様に蹴りを入れる!
「カハッ!?」
神の分身は、再び床に座り込んだリヴァイスを見下ろしながら語り始めた。
「俺を追い込んだのに残念だったな。うぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!?」
その掛け声と上げながら全身に力を込めていくと、鎖からメキメキと悲鳴じみた音が聴こえて来た。
「ま、まさかっ!?」
鎖に亀裂が走った瞬間、弾ける様に壊れてしまった。
「これが俺の実力だ。リヴァイス」
見下ろしている神の分身に、恐怖を感じるリヴァイスであった。
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