第31話

キャンプをそのまま待機組の影の者達に任せて、ネネちゃんと共に向かう影の者達について行く様にして砦へと向かう。


「そう言えば、私砦の事についてあんまり知らなかった。ネネちゃん構造とか教えてくれる?」


「はい、お姉様。元々は三国戦争の時に帝国軍が建てた砦なのはご存知ですよね?」


「まぁね」


まぁ、そこら辺しか聞いてないからなぁ。


ネネちゃんは俺の隣にやってくると、地図を広げて説明を始めた。


「当時の帝国は重要な拠点として死守命令を出していたそうです」


「死守? 結構重要なポジションだったの?」


「はい。侵攻の拠点並びに防衛の拠点として作ったそうです。そして侵攻が無事に出来たら、補給物資積み下ろしや、兵士達を前線に送る為の一時的な休憩所としても使うつもりだったそうです」


当時の帝国は、そこまで考えていたのか。


「じゃあ逆に敵軍に攻め込まれそうになった時は、そこで耐え凌ごうと考えていたんだね」


「はい。ですが、完成してから一ヶ月後に、別大陸から侵攻して来た国があったんです」


「それで歴史通り、その国に対抗する為に歪み合っていた三カ国が協力する事になって、見事に追い払って同盟を結ぶ事になった。それと同時にせっかく作った砦が意味のなさない物になってしまった」


「仰る通りです。新しい街道を作ったので用済みになってしまい、砦を壊すのも費用が掛かってしまうのです。しかも馬車が滅多に通らないので・・・・・・」


「放置してても大丈夫か。って事になったんだね」


俺の言葉にネネちゃんは頷いた。


「総合ギルドの記録によれば、一時期盗賊のアジトとして使われていたそうです」


「へぇ〜そうなんだぁ〜。一時期って言うんだから、その盗賊は捕まったの?」


「それがぁ・・・・・・砦内で仲間割れを起こしたらしく、血で血を洗う様な悲惨な戦いになったそうです」


オイオイオイ、血で血を洗うってヤバくないか?


「どうしてそうなったの?」


「何でも、その盗賊は大きな規模誇っていたんですが、ボスが総合ギルドに捕まってから、誰が次のボスになるのか? を話し合っていたみたいです」


「話し合いから抗争。そして内部戦争に変わったってわけだね」


「はい。事実、砦でやっていけなくなった盗賊の一部が街に来て自首しに来たそうです。その自首して来た盗賊達の話によると、 ボスがいなくなってからというもの、物の取り合いになって飯がまともに食べられない状態になったし、なによりも誰が自分の事を殺そうとしているのか分からねぇ! 牢屋にいた方が幸せだ! と話していたそうです」


「かなり悲惨な目に遭っていたんだね。その人」


盗賊と言えど、なんか同情してしまう。


「そうですね。しかもその山賊が自首してから数日後に彼の仲間が一人街にやって来たのですが、身体中傷だらけで藁にもすがる思いだったのか門番に縋りついて、 もう砦の山賊は、くたばってるか俺みたいに逃げ出したヤツしかいねぇ! って言ったんです」


「その話って、普通に信じる?」


「ええ、当時の人達も半信半疑のまま砦に向かったそうです。そしたら本当に壊滅状態になっていたんです」


「あらまぁ〜」


仲間割れからの壊滅って、悲惨過ぎない?


「当然ながら当時の人達は、ほったらかす事も出来ないと思い、死体の処理や道具の処理。それに生存者の探索をしたそうですよ」


「へぇ〜そうなんだぁ」


その仕事も、進んでやりたくなさそうな気がする。


「そしてその事が切っ掛けで悪い噂が立ってしまい、今では誰も寄りつかない砦になってしまったそうです」


他の影の者が話した途端、ネネちゃんがムッとした顔でそちらに顔を向ける。


「私が説明してるのに、どうしてアナタが説明するのですか?」


「まぁ、私も話に加わりたかったので説明をさせて頂きました」


なんか、悪戯が成功した子供の様な顔をしているので、ネネちゃんを抱き、頭を撫でて落ち着かせる。


「よしよし、落ち着いてネネちゃん。私とお話する機会ならたくさんあるんだから」


「・・・・・・そうですね」


「あ、因みにもう少し進んだら脇の森林地帯に入るので、お静かにお願いいたします」


森林地帯に入る?


「もしかして、砦が近いんですか?」


「もう少し先なので大丈夫です」


う〜ん、道で出会すと厄介だから今の内に森林地帯に入っていた方が良いかもしれない。と思ったけど、森林地帯の方が足場が悪い。なので進めば進むほど疲れが溜まっていくから、影の者達の言う通りにしよう。


「出来れば、砦の周囲を見渡せる様な場所に連れて行って貰えると助かります」


「その場所に向かっているので、安心してください」


どうやら考えている事は同じっぽいな。


「しかし妙ですね。向こうは私達が攻めて来ているのを知っているはずなのに、なんにもして来ないなんて」


それに大軍隊を率いているんだぞ。気づかない方がおかしい。


「恐らくですが魔人側も、我々に対して対策を練っていると思われます」


「やっぱり、数日前も動きがなかった?」


「はい。罠を仕掛けたり、防衛網を築いたりする様子が見受けられなかったみたいです。だだ、一人が買い出しの為なのか、砦から出たり入ったりをしてただけです」


買い出しって事は魔人も食事を取らなきゃ生きていけないって事だよな。


「まぁなにはともあれ、先ずは偵察ポイントに行ってみましょう。そうしないと予想の範囲でしか話せないから」


「そうですね。ここから周囲を警戒しながら進みましょう」


一人がそう言うと、彼らの雰囲気が変わるのが肌で感じる。


プロだ。この人達は本物のプロだ。


俺も気を引き締めて彼らの後を追って行くと、先頭に立っていた影の者が左の森林に指をさした。


「これから森の中に入ります」


「了解です」


森の中へ入ると、やはり整備されていないみたいで足元が泥濘んでいる場所が多い。


前々から訓練していたから歩けるけど、歩き慣れていない人にはツラいだろうなぁ。


「・・・・・・ん?」


「どうしたんですか、お姉様?」


「あそこ、人が通っていた道かもしれない」


「え? ちょっと待っていてください」


俺の言葉を聞いた影の者は俺が指をさした場所へと向かい、地面を見つめる。


「・・・・・・やっぱり、エルライナさんが言う通り、ここを通った跡があります」


やっぱり。


「ただ、もう使われていないみたいです」


彼の言葉にネネちゃんを含め、みんな驚いていた。


「お姉様スゴいです! どうして分かったのですか?」


「周囲と違って土が固められている様に見えたからね。もしかしたら戦時中に敵国が使っていた道かもしれませんね」


「その可能性があります。一応途中まで方向が同じなので、使わせて頂きましょう」


「良いんですか? もしかしたら魔人達はこの道の事を把握しているかもしれませんよ。もしかしたら、罠を這っている可能性も捨て切れません」


「・・・・・・そう思う気持ちも分かります。我々もこの一帯を把握しているので、その心配はないかと思われます」


心配はない。か・・・・・・ここで言い争うのも得策じゃないから、素直に従おう。


「分かりました。ちょっとでもおかしいと思ったら、報告する様に致しましょう」


俺がそう言うと影の者達は頷き、その道を進む。しばらく歩くと道から外れて道無き道を歩み始める。


何事もなくて良かったぁ。魔人達は本当にあの道を知らなかったのかも。


そんな事を思っていると、日差しが差し込んで来た。どうやら森を抜けそうだ。


「偵察の場所に着きました。あそこに見えるのが砦です」


影の者が指をさす方向に目を向けると、遠くに立派な砦が建っていたのだった。

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