第17話

村の偵察と言う名目で観光をした俺達は、ハンヴィー1151の元へ戻って来る。


「やっぱり、魔人に関する有力な情報は得られませんでしたね」


「最初っから当てにはしてなかったんだから、気にしなくても良いんじゃないかしら」


その通りでしたね。 と言いたいところだけど、ちょっと期待していた部分もあったので、素直にそう言えない。


「ねぇ二人共、ここで宿を取るの? それとも他の場所で宿を取る?」


ミュリーナさんの問いに、俺達は考え込んでしまう。


「・・・・・・他の場所って、近くに他の村があるんですか?」


「ここ以外だと、大戦の時に消えた村しか知らないわ」


「ないなら他の場所に行く事を提案しないでくださいよ!」


他の村が遠いのなら、野宿しかないじゃん!


「目的地の調査もしなきゃいけないから、野宿しかないわよ」


「覚悟していたけど、やっぱりそれしかないのね。エルライナ、目的地まで行きましょう」


「了解です。皆さん、車に乗ってください」


今度はエイミーさんが助手席に乗った状態で、目的地に向けて出発する。


「あの村って、特産品がチーズだったんですね」


「えっ!? そうなの?」


「牧場の人が言ってたじゃないですか。ここで取れる羊のチーズは食べやすくて美味しいって」


「食べやすい?」


ワイン用のブルーチーズしか分からないし、食べた事がないからイメージし難いなぁ。牛の方なら食べていたからイメージしやすい。


「う〜ん・・・・・・今更だけど、味が気になって来たわ」


「今から戻って買いに行きますか?」


エイミーさんにそう提案したら、首を横に振られた。


「一秒でも早く目的地に着きたいの。だからチーズを買うのは帰りの時にしましょう」


「分かりました。少しスピードを上げますね」


そう言ってからアクセルを踏み、少しスピードを上げた。


しかしまぁ、魔人達がこんな近くで拠点を作っていたとは思いもしなかったな。これが俗に言う灯台下暗しなのかもしれない。


そんな事を思いながらハンヴィー1151を走らせていると、後ろの座席に座っているミュリーナさんが、なにかに気づいた様子を見せる。


「ねぇ二人共、私達を全力で追いかけている連中がいるんだけどぉ・・・・・・」


「ああ、多分山賊だと思いますよ」


現にレーダーに敵反応として映っているし。


「戦わないの?」


「戦ったところで、時間の無駄。なので振り切っちゃいましょう」


向こうの馬達は駄馬なのか、時速55kmの速さに追いついてない。


「そうねぇ。人数も三人しかいないみたいだから、山賊になって間もないのかもしれないわねぇ」


エイミーさんも気になったのか、必死になって追いかけている山賊達を見ている。


「ねぇエルライナ。このクルマっては、もっと早く走ろうと思えば出来るの?」


「可能ですが、スピードを出せば出すほどコントロールが難しくなるので、あんまりやりたくないですね」


俺がそう言うと、二人は悩ましそうな顔をさせる。てか追いかけている山賊達が、さっきよりも必死そうな表情で追いかけて来ている。


「馬が可哀想」


俺がそう言うと二人も同じ事を思ったらしく、頷いた。


「その内諦めて貰えると思うから、このまま走って」


「・・・・・・分かりました」


エイミーさんに言われた通り、そのまま走っていると後ろの山賊達が俺達に向かって、なにかを言って来てるのが分かる。


「口元の動きからして、待ってくれ! と言ってるんですかね?」


「多分そうね!」


ミュリーナさん。なんでアナタは楽しそうな顔をしているんですか?


「あら? 向こうは体力の限界が見えて来たっぽいわよ」


ミュリーナさんの声に反応してバックミラー越しに見てみたら、少しづつ俺達との距離が離れて行ってるのが見えた。


「ホントだ」


そして等々限界を迎えたらしく山賊達は失速してしまった。


「なにもバテるまで追いかけなくても、良かったんじゃないんですかね?」


「ホントそうよねぇ」


そんな事を言っていたら、追いかけていた山賊達が豆粒ぐらいの大きさまで距離が離れたのだ。


ここまで離れたら諦めるだろうな。


そう思った後、俺達は車内で他愛もないお喋りをしながら目的地に向けて進んで行くのであった。


「エルライナ、あそこが集合場所よ!」


エイミーさんが指をさす方向に目を向けると、小高い丘が見えた。


「なるほど。あの丘の上に陣取るんですね?」


「そうよ」


なるほど。確かにあの場所なら周囲を見渡せそうだし、なによりも高い位置にあるから周囲を警戒出来る。


「先ずは、あの丘の上に行って見てみますか?」


「そうね。そうして頂戴」


エイミーさんに言われた通り、丘の上までハンヴィー1151走らせる。


「着きました。降りて見て見ましょうか」


俺がそう言うと、二人は頷いてからハンヴィーを降りて周囲を見渡す。


「陣を取る場所としては良いところね」


「でも、なにもないから襲われた時大変そうね」


「そこはほら、拠点を作る時に防衛する人と拠点を作る人で別れれば良いでしょ。

それに人手がいるのだから、すぐに防衛線を築けると思うわ」


イヤイヤイヤイヤ、なにを言ってるんだ。この人は?


「確かに人手は多い方が良いと思いますが、その人達の寝床や食事を用意しなくちゃいけないんですよ」


「そこら辺はほら、冒険科の人達だから、自分達で用意するでしょ。それに、足りなくなりそうになったら、周辺国の人達が補給物資を持ってくるはずよ」


まぁ今回は国が共同でやるから、それぐらいの事はやってくれるはずだ。


「・・・・・・エイミーさんが大丈夫と言うのなら、大丈夫なんでしょう」


そう言った後に、双眼鏡を覗いて遠くの方を見る。


これといって目立つものはないなぁ・・・・・・ん?


「ミュリーナさん。もしかして、あっちの方向に魔人の根城があるんですか?」


「え? ええ、そうよ。てか、どうして分かるの?」


「双眼鏡を覗いてたら、それらしき塔が見えたので」


森に阻まれて分からなかったが、塔のてっぺんがちょこっとだけ見える。


「エイミーさん。あの塔の周辺の地形を教えてください」


「えっとぉ・・・・・・あの塔を作る為に周囲の木を伐採したって言うからぁ、真ん中にぽつりとある感じのはずよ」


「それと、あの塔へ続く道があるのだけれども、そんなに広くなかったと思うわ。

それに長年使われてない言われているから、道が荒れている可能性がある」


・・・・・・要するに長年放置して来たせいで、どうなっているのか誰も分からないって事だろ?


「情報が心許ないですが仕方ないですよね」


それに、今行って確かめるのは流石にリスクを伴う。だからやりたくないし、エイミーさん達が行こうとすれば全力で止める。


「この場所の安全なのは確かめたわ。ここでキャンプを張りましょう」


「わざわざここにキャンプを立てなくても・・・・・・」


「ミュリーナ。もしかしたら帝国か、魔国の兵士達が先にくる可能性だってあるでしょう?」


「それはそうだけどさぁ・・・・・・」


「ミュリーナ、アナタもしかして野宿が嫌だから、そう言ってるの?」


「うっ!?」


図星って言いたそうな顔で目を逸らしたので、俺達はそうなんだと確信する。


「お気持ちは分かりますが、騎士なんですから少しぐらいの不便は我慢してください」


「はい」


ミュリーナさんは諦めた様子を見せたので、エイミーさんの方に顔を向ける。


「役割分担はどうしましょうか?」


「私がキャンプの設営をして、ミュリーナが焚き火の用意。エルライナは・・・・・・食料の調達をして来てくれるかしら?」


「了解です。鹿か猪がいたら、狩って持って来ますよ」


それでもダメだったら、ショッピングで肉を買って誤魔化そう。


そう思いながら、狩猟の準備をする俺なのだった。

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