第16話

二時間ほどハンヴィーで走り続けたので、休憩がてらオヤツを並べて景色を楽しんでいる。


「ホント、キレイな景色よねぇ〜・・・・・・」


「そうですねぇ〜。あの辺りの山並みとかキレイですねぇ」


俺の指をさした方向には、アルプス山脈の様な風景が広がっていた。


「大陸間戦争の時はあの山脈があったお陰で別大陸から来た国が、ここまで来なかったのよねぇ」


大陸間戦争。それは別大陸から来た国が、このレーベラント大陸に戦争を仕掛けて来た時の話。

その時レーベラント大陸では、魔国と帝国と連合国の三つで戦争をしていた。今では三国間戦争と呼ばれいる。

その真っ只中で別大陸の国が攻めて来たのだ。三国共 どこかの小国が首を突っ込んで来たんだろう。 と放っておけばいいや。という感じで放置していた。しかし、各国の考えとは裏腹にその国はどんどん領地を広げて来たので、 流石にこれはヤバい! と思い、歪み合っていた三国は組んで、その国と戦って、見事にレーベラント大陸から追い出した。

そして三国は同盟を結んで、その証にリードガルム王国を建てたのだった。


「あの山に感謝しないといけませんねぇ〜」


「そうねぇ〜。最近では、鉱石が取れるかもしれないって事で、採掘を始めた商会があるみたいなのよ」


「そんな事をして大丈夫なんですか? 魔物とか襲われる危険性がありませんか?」


「まぁそうだけどね。そういった事に対して、リスクがあるのは当たり前だから、護衛をつけていると思うわ」


ああ、なるほどね。


「・・・・・・っと、そろそろ出発準備をした方が良いんじゃない?」


時計を見てみると、午前8時ちょうどをさしていた。


「そうですね。片付けの手伝いをお願い致しますね」


「はぁ〜い」


「了解。イスの片付けはやるから、洗い物はエルライナに任せるわ」


そんな感じで役割り分担をして片付けをしてからハンヴィーに乗り、再度出発をする。


「向こうに見える森はスゴく広いから、ベテランの冒険者とかしか入れない様になってるのよぉ」


「へぇ〜、もしかして地元の人でも迷うぐらいに広い森なんですか?」


「うん。お母さんも現役の頃に一度だけ入って迷いかけたから、一人で入らない様にしているって」


総合ラミュールさんが迷いかける森とは、樹海の様に同じ風景が広がっている森なんだな。


「それに戦争中に、あの森を抜けて行けば近道になると考えた部隊がいたのよ。だけど、四十人いた兵士の内十三人がはぐれてしまい、その内の三人がやっとの思いで森から抜け出したらしいの」


「あれ? 残りの十人はどうなったんですか?」


「三十年以上前の話なのに、今だに行方不明という事になっているらしいわ。もしかしたら、森の中で生きて過ごしているか、あるいは・・・・・・」


「幽霊になって今だに森の出口を探しているって話を聞いたわよ」


なにその怪談噺?


「噂話は尾ひれがつくものなんですから、ウソかもしれませんよ」


「それはどうかしらねぇ〜。目撃情報とか今も聞くし・・・・・・」


「思い込みが行きすぎて、そんな気がしただけじゃないんですか?」


俺がそう言うと、となりで座っているリズリナさんがニヤリとした顔で見つめて来た。


「もしかして、幽霊恐いの?」


「え?」


幽霊が恐い? 俺が?


「そんな事はないですよ。ただ、幽霊って存在を信じてないだけです」


あ、でもここ異世界だから、いるかもしれないな。


「フゥ〜ン・・・・・・なるほどねぇ」


「なんですか、その信じてないみたいなその顔は?」


「いや別にぃ〜。気にしなくても良いわよぉ」


その言い方は、カチンッとくるなぁ。


「どちらにせよ、あの森に行く予定はないから」


「あの森には行く予定はないから、安心してね」


「だから私は恐がってないですって! そんな事よりも、目的地近くの村に

着きますよ!」


ニヤニヤしている二人を ウザイなぁ。 と思いながら、村の近くにハンヴィーを停めた。


「ここの村の名前は、なんて言うか分かりますか?」


「正式じゃないけど、オルファって名前じゃないんだけど」


「正式じゃない? どういう事?」


「ここの村は村長が変わる度に名前を変えてるみたいで、それが風習見たくなってるのよ。

それで、国も総合ギルドも一々村まで名前を確認しに行くのは面倒だからって事で・・・・・・」


「勝手に名前を固定されたってわけですね」


そう言うと、二人は無言のまま頷いた。


「名前はどうあれ、村に入って情報収集しましょうか」


てか、名前なんてどうでも良い。


そう思いながら村へと入って行き、村の様子を確かめる。


「・・・・・・意外と普通ですね」


近くに魔人の根城があるのに長閑な風景が広がっていて、逆にその事実に驚きを隠せない。


「魔人達も住処の近くだから、敢えて問題を起こさない様にしてたんじゃないかしら?」


そうだよな。隠れ家なのだから襲いでもしたら場所がバレるし、なによりも俺達人類の敵だから、大量の軍隊を導入して倒しに行くのは目に見えている。

てか、現にやろうとしているし。


「あそこが村で唯一の宿よ」


エイミーさんが指をさしている方向に顔を向けて見てみると、かぶら屋根のボロい家。


「他の家と違ってボロい感じがするんですが」


「お客が滅多に泊まりに村に来ないから、お客さんが来たら営業再開するって感じになっているみたいなの」


「せめて、外装だけでもなんとかしようとしなかったんですかね?」


「う、う〜ん・・・・・・」


「そうねぇ〜・・・・・・」


ミュリーナさん達は、 ここに泊まるのはちょっと気が引ける。 と思っているのか、困った表情をしている。

そんな中、一人の中年男性が俺達の元にやって来た。


「ど、どうも・・・・・・もしかしてその格好は、リードガルム王国の騎士様達でしょうか?」


「え? ええ、そうです。私達はリードガルム王国第二騎士団の者です。こちらの方は、総合ギルドのエルライナです」


「どうも」


「ああ〜、そうなのですかぁ。この村に、どういったご用で来たのですか?」


あれ? 俺の名前を聞いたら、村人でも驚くんだけど・・・・・・ひょっとして、この人は俺の事を知らないだけかもしれない。


「用というほどではないのですが・・・・・・」


「私達は、この先の山岳地帯に野盗が住み着いたと聞いたのですが、ご存知なにかご存知ないでしょうか?」


エイミーさんが言い切る前に俺がそう言ったら、ミュリーナさん達が俺の元にやって来て、小声で話し始める。


「ちょっと! なに言ってるのよぉ!」


「いくらなんでも、その聞き方はないと思うわ!」


「いや、だって・・・・・・ストレートに魔人を見ましたか? と言ったら、村が混乱しかねないですよ」


最悪の場合、ここの住人達が村を捨てて逃げ出す可能性がある。


「野盗ですかぁ。うぅ〜ん・・・・・・」


「些細な事でも良いんです。例えば、山岳地帯に人の出入りが多くなったとか。それか、魔物の数が減ったとか」


「そんな事は全然ないですねぇ〜」


「そうですかぁ」


どうやら的が外れたみたいだ。


「場所が違いますが、霊苑の森の方で最近人影を見るようになりましたよ」


「霊苑の森?」


「ほら、私がさっき話していた森の事よ!」


ああ、十人の兵士が行方不明になった森ね。


「多分、誰かが森を出入りしているんだと思いますよ。村の方々は、よくあの森に行かれるんですか?」


「行くけどぉ、森の手前で異常がないか確認する程度だから、森の中がどうなっているのかまでは、分からない状態なんです。兵士の幽霊に祟られでもしたら、おっかないですから」


つまり、ここの人達は兵士が死んだ今でも森を彷徨っていると信じているんだな。


「分かりました。聞きたい事はそれだけです。もうちょっと村の様子を見ましょうか」


「え、ええ」


「分かったわ!」


エイミーさん達と共に観光気分で村を見て回ったのだった。

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