第18話
キャンプの準備を終えた俺達は、それぞれ休憩している。なぜかって? 俺の場合は狩って来た獲物の血抜き待ちで、テントを設営していたエイミーさんは休憩中。ミュリーナさんに至っては、焚き火用の木を持って来ている最中だが、体力を考えているのか動きがゆっくりなのだ。
「鹿の血抜きは後少しで終わると思いますよ」
師匠と最初やった時は滅茶苦茶メンタルが削れていたけど、慣れた今なら臭い以外気にならない。
「ホント、エルライナならなんでも出来そうな気がして来たわぁ」
「なんでも出来る人間なんて、この世にはいませんよ。それに、鹿肉の捌き方自体習ったものですから、本当に上手い人に比べたら初心者みたいなものですよ」
この世界で売れる毛皮なんて俺にとっては必要ない物だから、雑に切るのが当たり前。それに骨と一緒に燃やしていたし。
「身と革をちゃんと分けられているんだから、上手いに決まっているでしょ」
「身と革を分けるのは・・・・・・って、ん? もしかして他の人達はそれが上手く出来ないんですか?」
「ええそうよ。皮に身がついていたり、力を加えて切ってる人もいるから、身の表面がケバケバしてたりするのよ」
ああ〜、もしかしたらその原因は切れないナイフで切っているからかもしれない。もしくは、解体の手順を間違えている可能性もある。
「なるほど。それでもお肉を美味しく食べたんじゃないんですか?」
「う〜ん・・・・・・・」
なんだか分からないが、エイミーさんの表情が曇っている。
「食べられない事はないけど、臭みがあって場所によっては苦かったり、泥臭かったりするわ」
「終いには洗ってなかったせいで、口の中でジャリッ!? って音がした事もあったわ」
木を集めに行っていたミュリーナさんが話を聞いていたらしく、俺達の側までやって来た。
「それは解体を担当していた人が、仕留めた獲物を洗わなかったからじゃないんですか?」
それと使う前に手とかを洗うのを忘れている可能性がある。
「私の場合、中が焼けてなかったわよ」
「それは食中毒になる可能性がぁ・・・・・・」
「それぐらい分かっているわ。だからその場で焼き直したもの」
中身が生って、どんな風に焼いたらそうなるんだよ。
「でもまぁ、今回はエルライナがいるのだから、そういった心配をしなくても良さそうね」
「そうね。エルライナなら、私達に美味しい料理を提供してくれるはずだもの!」
二人はそう言うと、期待の眼差しを俺に向けてくる。
ヤベェ。プッレッシャーを感じる。
「期待に添えられるかどうか分かりませんが、やれる事はやってみます」
そう言ってから椅子から立ち上がり、血抜きをしている鹿の元へ行くが、その間ずっと見つめられていたので正直言ってツラい。
そんなこんなで鹿の解体を済ませた俺は、エイミーさん達の元に戻って解体したお肉を見せたら、感動した目でお肉を見つめていた。
「綺麗にブロックになってる!」
「身がボロボロになってない!」
感動するほどって、どんだけ下手なんだよ!
「とりあえずこの鹿肉を使って料理をするので、ちょっと待っていてください
」
キャンプ用のテーブルとコンロを取り出して調理を始める。
片方の肉はサイコロ状に切って、ビーフシチューみたいにしちゃおうか。で、こっちの方の肉は切り分けて焼き肉用にしよう。
ミュリーナさんが用意してくれた釜戸の上に鍋を置いておいて。サイコロ状に切った肉の表面を焼いてから、水と切った野菜達共に共に入れて煮込む。適度な時間? 俺はしんなりした野菜の方が好みだから、先に入れるのだよ。
「焼いたのを食べると思っていたけど、そうじゃないのね」
「胡椒をかけてたから、私もそう思ったわ」
下ごしらえだよ。下ごしらえ。
「どっちでも良いんで、アク取りお願いします」
「了解! 私に任せて!」
ミュリーナさんに鍋を見てもらっている間に、ステーキと野菜の用意をする。本当は鹿肉を熟成させたかったのだけれども、時間がないので諦めるしかない。
「・・・・・・そろそろ味付けをしますよ」
ほどよく沸騰して来たところで、バターとウスターソースとケチャップ。それに赤ワインを入れ・・・・・・。
「なにをしているんですか、ミュリーナさん?」
「それ、お酒よね。なんで入れちゃうの?」
ワインを入れようとしたら、ミュリーナさんに止められてしまった。
「これ、臭み取りと味つけの為にやろうとしているんですけどぉ・・・・・・」
「ワインは飲むもの! 味つけの為じゃないわ!!」
「なんですかその自論はっ!?」
そんな事を言っていたら、ワイン仕込みとか酒蒸しって料理は存在してねぇよ!
「余った分は飲んで良いんで、入れさせてください!」
「エルライナ。仕事中に飲んではダメってグエル団長に言われているの」
ああ〜、どの世界でもお酒を飲んで仕事はNGなんだね。って言うよりもだ!
「お酒が飲めないのなら、入れて良いんじゃないですか!」
「・・・・・・帰りに私が頂きたいので」
今理由を探していたな。仕方ない、こう言うか。
「全部使うわけじゃないので、安心してください。大体ぃ・・・・・・三分の一も使いません」
「そう? それなら良いわ」
ミュリーナさんはそう言うと、手を離してくれた。
どんだけ酒を飲みたいんだ、この人は!
そんな事を思いつつも、鍋の中に赤ワインを投下して下ごしらえ完了する。因みに、エイミーさんとミュリーナさんがその様子に叫んでいたのは言うまでもない。
「・・・・・・これでよし。後は焦がさないように、ゆっくりとかき混ぜてください」
「わ、分かったわ」
ミュリーナさんは俺が言った通りにお玉で鍋の中の具材をかき混ぜるが、ちょっと残念そうな顔している。
そして俺はというと、もくもくとステーキとサラダを作り、出来上がったら食事用のテーブルへと乗せた。
「エイミーさん、料理が出来ましたよ」
「あ、もう終わったの?」
「はい。後はシチューの方をお皿に乗せれば終わりです」
「お皿、ちょうだい!」
「はい、どうぞ」
ミュリーナさんに器を渡したら、お玉に掬って入れてくれた。
「味見も私の方で確認しているから問題ないわ」
味見もしてくれていたんだぁ〜。助かるぅ〜・・・・・・って!
「盗み食いの間違いじゃないんですか?」
「ぐ、具材まで食べてないから、盗み食いとは言わないわっ‼︎」
そう言っている割には目が泳いでいますが?
「ホラホラ、スープが冷める前に食べちゃいましょうよ」
「それもそうですね」
とか言うエイミーさんも味見していただろ。口元に証拠がついてますよ!
そんな事を思いつつも料理を並べていく。
「それじゃあ料理も完成したし、頂きましょうか!」
「オォ〜!!」
二人は掛け声出してから、料理に手をつけ始める。
「このステーキ弾力があって美味しい!」
「臭みがあると思っていたけど、そんな事なかったわぁ!」
ちゃんと血抜きと内臓処理をしていたし、料理する時も臭み取りをしていたから美味しく食べられている。
「こっちのスープも美味しいわぁ〜。お肉も硬くないし、味が染みてるしぃ〜」
煮込む時間がなかったから、ステーキと同様に叩いた後に裏包丁を入れていたからだと思う。
俺が食べた感じだと、もう一日ぐらい置いておけば鹿肉に完全に味が浸透しているはずだ。
「美味しいと言って貰えてなによりです・・・・・・ん?」
なんか、三〜四人ぐらい集まってないか?
「・・・・・・もしかして、魔国の影の人達ですか?」
一番近くにいた人に聞いてみたら、こくりと頷いた。
隠密部隊が臭いに釣られて来たよ! 仕方ない。
鍋まで行くと、器を取り出してビーフシチューならぬディアシチューを救って差し出した。
「あのぉ〜・・・・・・料理余っているんで、良かったら食べて行ってください」
「ッ!?」
彼らは驚いた表情をした後、ディアシチューを受け取り、美味しそうに食べ始めたのだ。
しかし、エイミーさん達の方は俺の行動を不服に思っているのか、睨んでくるので、 一緒に戦う仲なのだから、あげても良いじゃないですか。 と言っておいた。
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