第9話

グエルさんが助けて欲しそうな顔で見つめてくるが、俺は自業自得と思いながら、トレーニングに再開する事にした。

後ろから、 待ってくれぇ! と言う声が聞こえて来た気がするが、無視しよう! うんっ!! そんなこんなでトレーニングを終えて帰って来た。


ん? なんだか、家の中が騒がしいなぁ。誰か来たのか?


そんな事を思いながら家の中へ入ると、青ざめた顔でミュリーナさんが俺の元へ来た。


「エルライナ! ちょうど良かったわ!!」


「ちょうど良かったって、それよりもどうしたんですか? そんなに顔を青ざめさせて?」


「アイーニャ様とネルソン様。それに魔国の大使がここに来たのよ!」


「魔国の大使・・・・・・」


それってもしかして、オウカさんの事か?


「バルデック公爵様達ならともかく、大使まで相手するのは流石に生きた心地がしないから、なんとか出来る?」


要するに、俺が三人の相手をしてくれって事だよな。それになんでオウカさんが俺の家に来ているんだ? 魔国は遠かったはずだろう?


「・・・・・・まぁ良いや。家に上がっているのなら、顔を見せないといけないしね」


そしてなによりも、見せなかったら報復が怖いしな。


「エルライナァ〜。やっぱりアナタは良い人だわぁ〜!」


そう言ってくれるのは有り難いけど、どさくさに紛れて俺の胸を揉むのは止めて欲しい。


そんな事を思いながら、家の中へと入って行く。


「ただいま戻りましたぁ!」


「お帰り、思っていた時間よりか、早く帰って来たわね」


そう言って出迎えてくれたのはオウカさんで、リズリナさんとエイミーさんはその後ろにいた。


「お久しぶりです。オウカさん」


「あら? どうしてここにいるんですか? って聞かれると思っていたんだけどぉ・・・・・・もしかして、私がこっちに来てるの知ってたの?」


「玄関先で、ミュリーナさんが魔国の大使が来ている。って聞いたから、もしかしてオウカさんじゃないか? って」


「ああ〜なるほどねぇ」


「そんな事よりも、どうしてオウカさんが私の家にいるんですか?」


俺がそう聞くと、その質問を待ってました! 言わんばかりに近づいて来た。


「魔人の本拠地を攻めるのに対して、予定と作戦の打ち合わせをしていたのよ! 後は、ミハルのお仕置き」


ミハルちゃんのお仕置き?


わけが分からない。と言った様な顔をしていると、オウカさんがニッコリした顔で話し始めた。


「だってあの子、定期的に手紙を寄こす様に注意したのに、全然寄こさなかったのよ。理由を聞いたら、時間がなかったぁ〜。とか、書く事がなかったぁ〜。って言うから、思わずお尻ペンペンをしちゃったわ」


オウカさんにお尻を叩かれるミハルちゃん・・・・・・想像出来ないな。


「それに、ここに来たのにもアナタへの挨拶の他に理由があるのよ」


「他の理由ですか?」


「ええ。私達の国で働いている影達が、敵の情報を持って来てくれたのよ」


「敵の情報!」


それは是非とも欲しい!


「でもねぇ〜。ほいそれと話すと厄介な事になっちゃうからねぇ〜。教えるかどうか悩んでいたところなのよ」


悩んでいるって、おいおいおいおいっ!


「味方への情報共有は必要な事だと、私は思っていますが?」


「私自身もそう思っているわ。だけど、どこに内通者がいるのか分からないでしょ?」


「確かにそうかもしれませんが、私は・・・・・・」


「アナタを含めたここにいる人達は、内通者ではないってのは分かっているわ。でも、どこで誰が聞いているのか分からないから、ここに来たのよ」


それじゃまるで、俺の家が密会の場所みたくなってるじゃないか。


「そういう事だから、リビングに行きましょう」


「あ、はい」


オウカさんに促される様にして、リビングへと行く。


「やっと帰って来たねぇ!」


「アイーニャ。トレーニングなんだから、遅いのは当たり前じゃないか。それに、なにも言わずに来たのは私達の方なのだから、文句を言うのは筋違いじゃないか?」


「まぁそうだけどさ。ところで、周りには怪しい人物はいなかったかい?」


「は、はい! 今のところは怪しい人物は見当たりませんでした!」


ミュリーナさんの声が上擦っている。顔の表情からも緊張してるのが分かる。


「そう。なら本題に入るのさ」


「そうですね。本題に入りましょうか」


オウカさんはそう言うと、袖から巻物を取り出して広げた。


オウカさんが巻物を広げる姿は、いつ見ても様になるんだよなぁ。


「我々の隠密部隊の調べによりますと、魔人は二人だけの様です」


「二人? 本当にたったの二人だけなのかい?」


「はい。恐らくエルライナが魔人を次々に倒したお陰だと思いますよ」


え? 俺のお陰?


「私、そんなに魔人を倒していましたっけ?」


「ハァ? 何を言ってるのさ! アンタ以外に誰がいるって言うのさ!」


いや、だってねぇ。ドーゼム以外は後一歩ってところで邪魔が入っていたし。


「まぁまぁ落ち着いてくださいアイーニャ様。本人がそう仰っているのですから、そう言う事にしておきましょう」


「・・・・・・分かったのさ。話の続きをするのさ」


そう言いつつも、どこか納得のいかないって顔をしているアイーニャ様に、申し訳ない気持ちになってしまった。


「話の続きなのですが、魔人達は城に籠り、なにかをしているみたいです」


「そのなにかとは、なんなんだい?」


「そこまでの情報は記載されてないので分かりませんが、なにかをするつもりの様です」


「一体なにをするつもりなのか、調べないのですか?」


「・・・・・・そこまですると相手に気づかれそうなので、断念しているみたいです」


オウカさんのその言葉を聞いたバルデック公爵は、悩ましい顔をしていた。


その人達の判断は間違っていないと思う。だって、本拠地を攻めようとしている時にヘマをしてバレたりでもしたら、計画が全て水の泡なんだから。


「・・・・・・話は分かったのさ。そいつらには、引き続き偵察をして貰う事にした方が良さそうなのさ」


「ご理解して頂き、ありがとうございます」


「他に変化。と言うよりも、目立った動きはあった?」


「目立った動きは一つ。定期的に馬車が出入りしている事ぐらいです」


「馬車? なんで馬車が古城をでいるするのさ?」


「我々の諜報員のしらべによりますと・・・・・・」


オウカさん。今更ながら思ったのですが、その巻物って何メートルぐらいあるんですか? 前の文章が床の上で折り重なってますけど!


「・・・・・・あった! 恐らく食料と備品。それに闇の魔石らしいです」


「闇の魔石?」


「はい。闇の魔石です」


「確か闇の魔石の使い道は、召喚魔法の時と、闇系魔法を使う時ぐらいでしたよね?」


そこら辺は向こうの方で聞いたから、覚えている。


「そうね。研究員も亡くなってしまっているのに、なんで集めているのかしら?」


「ひょっとしたら、強い魔物を呼んで従えるつもりなのかも」


強い魔物を従えるか。


「う〜ん・・・・・・それは違うと思います」


「どうして?」


「いくら切羽詰まった状況でも、強い魔物を一匹従えただけで状況を覆せると思いますか?

私だったら強い魔物を一匹出すよりも、沢山の魔物を従えさせた方が良いと考えます」


戦争は強い兵器を保有しているのはもちろんの事だが、戦車もしくは戦闘ヘリが1機しかなく、蟻や蜂みたいな大群の様な兵士を相手にしたら負けるだろう。


「そうだとしたら、大量の魔物を従えるのが相手の目的?」


「断言は出来ませんが、そうかもしれませんね」


「だとしたら、出発を早めた方が良いかもしれませんね」


その後も、バルデック夫妻とオウカ様と共に、会議をしていたのであった。

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