第8話
どうしてこうなった?
先ほどまで吐いて気を失っていた大輝くんだったが、気絶から目覚めるとすぐに美羽さん達に正座させられた上に、罵倒されているのだ。
「全く、吐くならトイレに行きなさいよっ!」
「そうよ! ここでぶち撒けたら、誰が掃除すると思ってるのよっ!!」
「途中で抜けるって選択肢は、なかったのかしら?」
「大輝・・・・・・臭い」
「はい・・・・・はい。申し訳ありませんでした」
大輝くんはそう言うが、頭痛を感じながらも頭を下げている。
「みんなその辺にしてあげたら、大輝くんツラそうだよ」
それにまた吐いたら賜ったものじゃないから、早くトイレに行かせた方が良いと思うし。
「でも、エルライナのお家を汚そうとしていたしぃ」
「それはそれ。これはこれ。大輝くん、まだ気持ち悪い?」
「・・・・・・はい」
「ならトイレに行って来なさい。そして全部出し終わったと思ったら、私のところに戻って来て。二日酔いの薬をあげるから」
「すみません・・・・・・エルライナさん」
彼はそう言うと、千鳥足でリビングを出て行ってしまった。
「ハァ〜・・・・・・相変わらず、エルライナは人に優しいね」
「あの状態は優しいとか言う話じゃないですよ。むしろ心配しない方が、おかしいレベルです」
そう言った瞬間、大輝くんの嗚咽がリビングまで聴こえて来た。
「・・・・・・グエルさんは大輝くんに、どれだけお酒を飲ませたんですかね?」
「分かんないけど、あれは相当飲んでいると思うわよ」
「確かグエル団長は、五から六件ぐらいはハシゴ酒をするからぁ〜、軽く見積もって・・・・・・エールを二十杯以上飲んでるんじゃないかなぁ?」
酔い潰れるどころか、致死量じゃないかぁ?
そんな事を思っていたら、大輝くんがリビングに戻って来た。
「臭っ!?」
うん。それは思っても言うもんじゃないと思いますよ。ミュリーナさん。
「どう、少しは落ち着いた?」
「・・・・・・はい。だいぶ落ち着きました」
「胃酸と一緒に吐いている様なものだから、口を濯いで来た方が良いよ。それと、はい、これが二日酔いのお薬ね」
「わざわざ用意してくださって、ありがとうございます」
彼はそう言うと、千鳥足で台所の方へと向かった。
「大輝、可哀想」
「ねぇ伊織。本当にそう思ってる?」
美羽さんの問いかけに、伊織ちゃんは顔を逸らした。
ま、まぁ伊織ちゃん自身、大輝くんの事が好きなんだから言えるんだよねぇ・・・・・・うん!
「ところで、確かエルライナはお酒を飲まないのよね?」
「ああ。まぁ、はい」
「それなのに、なんで二日酔いの薬を持っていたの?」
「ああ〜、偶になんですけど、酔ったアイーニャ様が私のお家にくる時があるので、常備しておく事にしたんです」
家に上がり込んで、一室で寝た事もあったからなぁ〜。その度に使用人が俺のところに来て平謝りをしていたっけ。
「へぇ〜、それじゃあ、酔った時ここを使わせて貰おうか!」
「私も!」
「それは止めてください」
そんな事をしたら、溜まったもんじゃないって!
「冗談よ、冗談! だからそんな恐い顔をしないで!」
いいや、本気だったんじゃないか?
睨んでいたら、伊織ちゃんが側にやって来た。
「今度からは、エルライナのお家を利用しよう」
「そうね! そうすれが宿賃が浮くし!」
「ダメだからね」
しかも、お願い! って顔を近づけもダメなものはダメなのぉっ!!
そんな事を思っていたら、大輝くんが台所から戻って来た。
「どうも・・・・・・エルライナさんのお陰で少しスッキリしましたぁ〜」
先ほどよりは顔色が良い大輝くんを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
この表情なら、また吐く事はなさそうだ。
「ところで、大輝くんに伝えておかなきゃいけない事があるんだ」
「伝えておかなきゃいけない事? なんでしょうか?」
「六日後の早朝に、魔人の根城へ攻める事が決定したよ」
「本当ですかっ!?」
「うん。話によると、現地集合だから出発は五日後の早朝に南門前に集合」
「その時に私達も一緒に行くから、早起きしなきゃダメよ」
美羽さんの言葉が突き刺さった様な反応を見せる大輝くん。
「分かってるよ。美羽」
「その前に、二日酔いを治すのが先」
うん、そうだよね。
「五日もあれば治るって。つーか、まさかあんなに連れ回されるとは、思ってもみなかった・・・・・・アイタタタッ!?」
ありゃま。頭痛に襲われているみたいだね。
「今日はもう宿に帰って横になった方が良いよ。それと、送って行った方が良い?」
「はい・・・・・・一人では帰れそうにないので、お願いしても大丈夫ですか?」
「準備をするから・・・・・・ん?」
俺がイスから立とうした瞬間、美羽さんと伊織ちゃんが大輝くんの側についた。
「大輝を送るのは私達でやるんで、大丈夫です」
「ん・・・・・・だからエルライナは、家でゆっくりしていて大丈夫」
あ、なるほど。そういう事ですか。
「同じ宿に泊まってる美羽さん達に任せれば、間違いないですね」
「そうそう。それじゃあ行きましょうか、大輝!」
「私達が看病してあげる」
「ああ、うん。ありがとう二人共」
「「いえいえ、お構いなく」」
なんか顔に恐さを感じる様な気がするけど、気のせいだ! 気のせいって事にしておいた方が幸せだよ! うんっ!!
自分に言い聞かせる様にして、大輝くん達を見送った。
「さて、今日はなにをしようかなぁ?」
とりあえず、朝に出来なかったトレーニングでも、今から始めようかなぁ?
「もしかして、 トレーニングでもやろうかなぁ? って考えてない?」
おう、ミュリーナさんに思考を読まれてしまった。
「そんな顔をしなくても、私達は邪魔をする気はないわよ。行ってらっしゃい」
「良いんですか?」
「ええ、行ってらっしゃい」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
自室でトレーニングウェアに着替えると、玄関前で準備体操をする。
「洗い物とかは私達方でやっておくからねぇ」
「ありがとうございます! ミュリーナさん!」
「いえいえ、私達の方がお世話になっているんだから、これぐらいの事はやらないとねぇ〜! それじゃあ、くれぐれも怪我にならない様にね」
彼女はそう言うと、ドアを閉めた。
さて、俺もトレーニングをしに行きますか。
ジョギングを始めてちょっと経った時に、見覚えのある顔が目に映った。
「あれはぁ・・・・・・グエルさん?」
ドアの前でなにをしているんだ?
「頼む! 俺が悪かったから、許してくれぇ!!」
『私と子をそっちのけにして呑み明かすなんて、父親として恥ずかしくないんですかっ!?』
「いや、恥ずかしいと思っているよ。でも、俺にも付き合いってもんがあったからさぁ」
『アナタの事だから、お酒を一杯飲んで次にまた次にと飲んでいたら、最終的に夜を明かしたんでしょ?』
グエルさんは痛いところを突かれたのか、身体をビクッとさせていた。
「あ、いや・・・・・・途中で俺も止めようと思ったけどぉ〜」
『ふぅ〜ん。また誘いを断れなかった。なんて言い訳を使うの?』
「あっ!? そんな事は言わない!」
『じゃあ、何て言うんですか?』
「そのぉ〜、勇者が居たから歓迎会を開いてなぁ・・・・・・飲んでいたら、いつの間にか夜を明かしてたんだ」
グエルさん、その言い訳は通用しないと思う。
『・・・・・・言い訳はもう良いです! 少し外を歩いて、酔いを覚まして来なさい!』
「そんなぁ〜! 反省しているから、家に入れてくれぇっ!!」
情けなく項垂れているグエルさんに近づくと、足音で気づいたのか振り向いた。
「エルライナ・・・・・・」
「二日酔い用のお薬を渡しておくので、水と一緒に飲んでください」
「エルライナぁ〜」
優しいんだなぁ! って言いたそうな顔をしているけど、そうは言わせませんよ!
「そ・れ・とぉ! 私も子供と奥さんがいるのに、朝まで飲み明かすのは良くないと思っております! なので、反省をしてくださいっ!!」
肩を落としているグエルさんを無視して、振り返ってトレーニングに戻るのであった。
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