第八章 プロローグ

とある古城の中、1人の男性がワイングラスを片手に目の前にいる魔人と対面していた。


「魔人ももうお前だけになってしまったか」


「はい、その通りです。主人様」


「これもヤツらが弱いせいなのか。それともあの女が強かったせいなのか・・・・・・」


「私は後者だと思います」


そう、彼女。エルライナは狡猾で強かった。ドーゼムを含めた全員が人間だからと舐めてかかった結果が、この状況なのだ。


「・・・・・・そうか。そうすると貴様もあの女ほど強くないって思っている事になるな」


その言葉を聞いた瞬間、殺される。という言葉が頭の中を過った。


「そうかもしれません。しかし、私にはまだやるべき事があります。だから命だけはお許しを」


「分かっている。俺にはお前が必要だとな」


その言葉を聞いた瞬間、リヴァイスはホッとした顔をした。


「ところで例の準備の方は進んでいるのか?」


「はい。闇の魔石が集まりつつあり、魔法陣も残すところ三分の一なので、もう少しで完了するかと」


「そうか。だがヤツらに勘づかれる可能性があるから、出来るだけ急ぐんだ」


「畏まりました。それでは、またなにかご用がございましたら、お申しつけください」


リヴァイスはそう言って謁見の間を出ると、崩れる様にして床に膝を着いてしまった。


「危なかった」


先ほどの発言は私の失言だった。もしも弁解していなかったら、今頃私は・・・・・・。


「深く考えない様にしよう」


そう。今は目の前の事に集中しなくてはいけない。


リヴァイスが歩き出してから数分後、広い空間へとやって来る。そして近くの机の上に置いていたチョークを手に取る。


「昨日の続きをやりましょうか」


ヤハンが亡くなってしまったので負担が大きくなったが、ここで手を止めてしまったら、彼の方に何と言われるのか・・・・・・いや、下手したらその場で殺されてしまう。


リヴァイスは恐ろしいと心の中で思いながら、緻密で大きな魔法陣の続きを描いていくのであった。


ところ変わって、リードガルム王国王宮の間。


「なんと、その様な事が? その情報は確かなのだな?」


「はい。クシュンの諜報員からの情報なので、間違いないと思います」


「う〜む・・・・・・まさかこの様な場所にヤツら魔人の根城があったとは」


地図に示されている場所はリードガルムと帝国の間に位置する場所。いわゆる国境。そしてその国境の境目に古い城が建っている。

そう、そこはかつて魔国、帝国、共和国の三国が戦争する前は小国であったが、戦争の波に呑まれて歴史の陰に消えて行ってしまった国。なので国があったとだけ記されていて名前は誰にも分からない。


「はい。どうします。今すぐその場所に乗り込みましょうか?」


「いいや。それは危険だ。魔人達はとても強くて賢い。なので我々だけで行ったところで、敗戦するのは目に見えている。他の国とも連携して対応しよう」


「なるほど。では我々の方で陛下の提案を文章にして帝国と魔国の方に送ります」


「そうだな。そうして貰えると助かる」


要領に良い魔国だから、きっとこれと同じものを渡していると思っている。


「しかし、それだけでは心配だから、彼女達にも協力して貰おう」


「彼女達ぃ、ですか?」


「ああ、勇者ダイキとエルライナにな」


「おおっ!?」


国王の言葉に目を輝かせる側近。


「では、そちらの方も・・・・・・」


「ああ待て!」


「はい? なんでしょうか?」


「そっちの方はワシ自ら話を通す。だから手配などは無用じゃ」


「え? でも・・・・・・」


「良いから、無用と言ったら無用じゃ。仕事に戻れ」


「あ、はい! 失礼いたしましたぁ!」


側近はそう言うと、小走りで部屋を出て行ったのであった。


「フッフッフッフッフッ。これでエルライナの家に上がる理由が出来たぞ」


国王はそう言うと自室へ行って出かける準備をする。


「・・・・・・と言うわけじゃ」


「なにが と言うわけじゃ。 ですか! いきなり家に来たからビックリしましたよ!」


「そうよアナタ。一言断ってからくるのが常識だと思うわ」


王様と一緒に来た女王様も言えた事じゃないんですけどね。


「ハァ〜・・・・・・古城を攻めるのを協力して欲しいってのは理解出来ました」


「それじゃあ、協力をしてくれるのか?」


「ええ、もちろん。協力を致します」


俺自身も魔人と決着をつけたいからな。つーか、二人してムシャムシャとクッキーを食べて、そんなに美味しいのか?


「他の国との連絡は取れたのですか?」


「いや、さっき知ったばかりの話じゃから、提案をさっき送ったばかりでなんとも言えん」


「そう言う事が決まってから聞きに来て欲しかったです」


「それにしても、エルライナさんが用意してくださるお菓子は絶品ですね。エルライナさんが作ったのですか?」


「ええ、一応お菓子作りも学んでいるので」


あの師匠に 女の子にモテる秘訣はこれだ! と言われて教えられたのだ。


「やっぱりエルライナさんには、私達の元に来て頂きましょうよ。息子もきっと喜ぶと思うわぁ。エルライナさんもそう思わない」


いや、本人に言ってくださいよ。


「その話、ちょっと待ったぁ!」


誰だろう? と思いながら振り向くと、バルデック公爵様がいた。


「エルライナを兄上のところに嫁がせるのは、ちょっとぉ〜・・・・・・」


「え? 不満があるのかしら?」


「不満と言うよりも、多方面で睨まれてしまうのはないかと考えています」


まぁそうだよなぁ。俺は貴族(笑)状態だから、ツッコミを入れる人間は少ないくないだろうな。


「いや、そうでもないぞ」


「そうでもない。と、言いますと?」


「色んな国の連中、特にお前と面識がある者達は自分のところに引き抜きたいと考えている様だ」


「強さ、並びに功績に容姿。どれを取っても優秀ですからね」


う〜ん。そう思うのか?


「それに、お前にアプローチをしようとしている者達もいるそうだ。身に覚えはないか?」


「身に覚えですかぁ?」


そう言われても心当たりがないなぁ。


「その辺は私の方で対処していたからな」


えっ!? 知らない間にバルデック公爵様が対処してくれていたの。知らなかった。


「ありがとうございます」


「まぁ、これからもそういった者達はこちらで対処するから、気に止めないでくれ」


「はい」


でも、いつまでもこの状態っが続くわけじゃないから、自分で対処出来る様にしないとな。


「おかわり」


「クッキー全部食べちゃったんですか?」


「ああ、美味しかったからな」


カラの皿を俺の前に出さないでくれよ。


「今日の分はそれで終わりです」


「なぬ? じゃあ王命で作れと命じても作らんか?」


「そんな下らない事に王命を使わないでください。それに、これ以上食べたら夕ご飯の方が食べられなくなりますよ」


子供じゃないんだから、お菓子でお腹を満たそうとしないでくれ!


「ハッハッハッハッ!?そう言うところワシらは気に入っておるんじゃよ!」


「へ?」


どう言う事?


「他の連中、特に貴族の者達はな。先ほどの様に話すと一生懸命作ろうとするんじゃよ」


「断ったら不敬って言われるのが怖いからじゃないですか?」


「そう思うじゃろ? 実際、貴族のほとんどがワシに気に入って貰おうと頑張るんじゃよ」


「自分の待遇を良くして貰える様に必死にね」


ああ、つまり会社で言うところの社長のお目に掛かると同じ感じね。


「その点エルライナさんは断り入れて理由もしっかり話すから、私達は感心しているのよ」


「ワシが間違った事を間違っている。と伝えられて、考えが不足しているところを補って貰える者が側近に選ばれる。

故にワシの周りには優秀な人材がおるんじゃ」


笑顔で言う国王の姿を見た俺は この人はもしかしたら、倫理道徳がしっかりしている人じゃないのか? と思ったのだった。

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