第32話

大輝くんが刺している剣を抜いた瞬間、ドーゼムは地面へと倒れてしまった。


「グググ・・・・・・」


「コイツ、生きているのか?」


大輝くんはそう言って剣を構えたが、俺は普通に歩み寄る。


「ねぇドーゼム。アナタに聞きたい事があるんだけど、聞いても良い?」


「ウグ?」


「どうしてヤハンを取り込んだの? アナタの性格からしたら、ヤハンを殺していると思うんだけど」


俺がそう聞いたら、俯いてしまった。


「答えたくないか」


まぁ理由はなんとなく分かるんだけどな。


そう言った後に JERICHO941PSL をホルスターから抜き、ドーゼムに向けて構えた。


「私か大輝くんのどっちかを選んで」


「ちょっとエルライナ。選ぶってどう言う事よ?」


「簡単な話ですよ美羽さん。私にドーゼムは止めを刺されたいのか、それとも大輝くんに止めを刺されたいのか本人に選んで貰うんです」


そう言ったら、美羽さんと伊織ちゃんは驚いた顔をさせた。


「いや、何もそこまでしなくても良いでしょう?」


「残念だけど、美羽さんが考えている事の方が間違っていると思うよ。彼はどの道助からないんだから」


「どの道助からないってどう言う事?」


「彼のボスは自分の部下を都合の良い道具としか考えていないみたいだからね。それにこの傷じゃ、長くは保たないと思うよ」


それに、回復したとしても人と・・・・・・いや、魔人としてではなく化け物の姿のまま過ごさなきゃいけないのは、ツラいだろうな。


美羽さんも察したのか、だんまりしてしまった。


「エルライナさん。僕がやりますよ」


大輝くんはそう言うと剣を構えた。


「悪く思わないでくれ」


大輝くんはそう言うと、トドメを刺したのだった。そしてその次の日の事。自宅の中でエイミーさんとリズリナさんが資料を片手に持っていた。


「闇ギルドの本部が壊滅してからは、国内にある支部はドンドン潰れて行っているわ」


「それだけじゃなく、彼に従っていた他国の支部はドンドン衰退して行っているから、潰れるのは時間の問題だという事らしいわ」


うん、リズリナさん。お菓子を片手に話さないで欲しいなぁ。資料が汚れても良いの?


「それに加えて、今まで犯行や闇ギルドと繋がりがあった貴族達もエルライナのお陰で明るみになったのよ」


「取り引きの帳簿も屋敷から出て来たから、繋がりのあった貴族達の検挙が始まっているわ」


「今回の件を受けて国外に逃げた貴族もいるみたいだけど、総合ギルドの方で指名手配をしているから事実上の国際指名手配状態だよ」


リズリナさんはそう言ってから紅茶を飲む姿を、エイミーさんが仕事をちゃんとしろと言わんばかりに睨む。


「まぁとにかく。闇ギルドは崩壊状態って言うのは分かった。私が知りたいのは一つ、魔人達がなにをしていたのか? って言う事だけです」


エイミーさん達はやっぱりそこか。と納得した顔をさせると、資料をペラペラとめくった。


「彼らは資金繰りをする為に闇ギルドを作ったみたいです」


「そしてエルライナが思っていた通り、実験をしていたみたいです。しかもその実験場の場所も分かって向かったんだけれども・・・・・・」


「部屋の中がかなりもマッドサイエンスな状態だったから、顔が引き攣っていたみたいですよ」


ああ、やっぱりあの男はサイコパスだったんだな。


「結果として自分の作品に殺されてしまったけどね」


あれは流石に自業自得としか言えない。


「そう言えば、その部屋から気になるものを見つけたみたいなんです」


「気になるもの?」


「うん、現物を持って来たから見て」


リズリナさんから紙を受け取り、広げて見てみる。


「・・・・・・地図?」


「そうみたいだけど、この国のどこの場所にも当てはまらないのよ」


「もしかしたら他の国の方かもしれないって思って、複製した紙を渡して調べて貰っているの」


現状調べています。って訳だね。


「そっちの方は国に任せるとします」


そう言って渡された紙を返した。


「とりあえず明日までゆっくりしてよう」


「それが良いと思うわ。なにせアナタが一番の功労者なのだから」


「このお菓子美味しいねぇ〜」


うん。リズリナさんの方は依然としてマイペースなので、ため息を吐きたくなる。


「ちょっとリズリナ! もうお菓子がないじゃない!」


「ゴメンなさい。余りにも美味しかったから、ついつい全部食べちゃった!」


一人でお菓子を全部食べちゃってるよ。仕方ない。


「はい、エイミーさん。こちらを食べて下さい」


「ありがとう、エルライナ」


エイミーさんはそう言うと、取り出したお菓子を一口食べて微笑んだ。


「あっ! もう食べてる!」


そう言って部屋に入って来たのは、美羽さんだった。


「・・・・・・ズルい」


伊織ちゃんもそう言って部屋に入って来た。


「二人共お疲れ様。大輝くんは?」


「大輝は第二騎士団の人達と飲みに行っているわよ」


ああ、グエルさん達と飲みに行っているんだね。


「この間行って来たばかりなの、また行くなんて」


「グエル団長は飲み会が好きなのよ」


そうなのか。もしも俺が男だったら、誘われていたのかな?


「こっちはこっちで女子会をしましょうか!」


「お仕事の方は大丈夫なんですか?」


まだ日が上っている状態なのに。


「大丈夫だよ。寄る次いでに報告をしておいて欲しいって言われただけだし、それにお酒は飲まないから」


リズリナさんそう言うと、紅茶の葉を取り出した。


「エルちゃん、お茶を入れたいから台所を借りても良い?」


「ええ、構いませんよ」


「じゃあ私もお手伝い致します」


「ありがとう、助かるぅ!」


リズリナさんと美羽さんは楽しそうに会話をしながらリビングを出て行った。


「リズリナさん、いつにも増して楽しそうですね」


「リズリナはああ見えてお茶会が好きだからね。それに大好きなエルライナと一緒なんだから、当然といえば当然よ」


「エルライナ・・・・・・好かれてる」


確かに、リズリナさんに好かれているかも。


「あ、そうそう。伝え忘れていた事があったわ。国王様はとても喜んでいたわ」


「喜んでいた。ってなにに対してですか?」


「決まっているじゃない! 頭を悩ませていた闇ギルドが壊滅したんだから、喜ぶのは当たり前じゃない!」


ああ、あれ悩みの種だったんだ。


「それに、エルライナはその筋の人達に恐られる存在になったわ」


えっ!? 恐れられる。俺が?


「その話本当ですか?」


「本当・・・・・・闇ギルド潰しのエルライナ。暗殺者キラーのエルライナとかささやかれてる」


二つ目の異名が被ってないか?


「なんか、どっちの名前も嫌な感じがします」


「嫌なのは分かるけど、異名は中々つけて貰えないものなんだから誇っても良いんじゃない?」


戻って来た美羽さんにそう言われると、ムッとしてしまう。


「それなら美羽さんの異名、聖槍の姫の方が増しな気がしますよ。伊織ちゃんの方はマジックマスターだったっけ?」


「うん・・・・・・厨二病っぽくてカッコイイ!」


伊織ちゃんは気に入っているのに対して、美羽さんは恥ずかしそうな顔で髪をイジっている。


否定しないって事は嫌じゃないって事だよね


そんな中で家のドアがドンドンッと叩く音が聴こえて来た。


「ん? 誰だろう? ちょっと見て来ますね」


みんなにそう言ってから席を立ち、玄関に向かった。


「はい、どちら様ですか?」


『エルライナさん! 開けてください!』


む? その声は大輝くん?


「どうしたの、そんなに慌てて?」


『良いから開けて下さい!』


「あ。う、うん」


大輝くんの切羽詰まった様子に負けてドアの鍵を開けると、勢い良く入って来た。


「どうしたの、大輝くん」


って言うか、お酒臭い。


「もう限界です!」


「限界って、もしかしてグエルさん達との飲み会?」


俺がそう聞くと、首を縦に振った。


「おお〜、やっぱここにいたかぁ〜」


「ヒィッ!?」


顔を青ざめさせている大輝くんの背後を見てみると、ボトルを持ったグエルさんがこっちに向かって歩いて来ているではないか。


「主役がいなくなったらダメだろう? さぁ、三軒目に行こうじゃないか」


「あ、いえ。そのぉ〜・・・・・・」


「ん? なんだ。ここはエルライナの家だったのか。エルライナも一緒にどうだ?」


「えっ!? 私ですか?」


戸惑っているところに、大輝くんは助けて欲しそうな目で見つめてくるので目を逸らす。


「私はぁ〜・・・・・・エイミーさん達とお茶会のお約束があるので、ゴメンなさい」


「ああ〜、そっか。そう言えばそう言っていたな。なら、俺達は俺達で楽しむとしようじゃないか」


「あ、え? ちょっ、ちょっとぉ!」


「遠慮すんなって、三軒目は俺が奢ってやるからさ!」


グエルさんはそう言うと大輝くんの肩に腕を回して歩き出した。


「行ってらっしゃぁ〜い」


チラチラと助けて欲しそうな目を向ける大輝くんと、楽しそうに歩いているグエルさんに手を振っていたのだった。

これは後日談なのだが、この次の日に大輝くんは胃もたれと二日酔いに苦しんでいた。当然の結果ですよねぇ〜。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る