第1話
「じゃあ、作戦とか決まったら連絡をするから、それまではゆっくりとしているんだぞ」
「今度お城に呼んであげるから、楽しみにしていてね」
「アハハハハ・・・・・・ありがとうございました」
晴々とした顔で帰って行く国王達を見送った後、家の中に戻って一息を吐いた。
あの人達、なんだかんだ言って結構食べていたなぁ。
紅茶の袋も半分以上無くなるほどに飲んでいたし、何よりも俺が作ったお菓子が無くなってしまったので、急遽ショッピングを開いてお菓子を取り出して食べさせていたのだ。
「後片付けをしなきゃ」
そう言って、空になったティーカップとお皿を持って台所へ向かい、洗い物を始めた。
しかし、本当に敵の本拠地を探し当てたんだな。流石オウカさんの精鋭と言うか何と言うか。
「ゆっくりしていて。って言っていたけど、いつでも動けるように準備をしておかないといけないと」
そう思いながら皿についた水気を取った後に、洗濯ものをしようとする。
「エルちゃんいるぅ? 居たら返事してぇ!」
どうやら今度はリズリナさんがやって来たみたいだ。
「はぁ〜い! 今出まぁ〜す!」
そう言って玄関に向かうのだがぁ〜・・・・・・。
「なんで入っているんですか?」
「鍵をバルデック公爵様から鍵を預かってるから入って来たの!」
ああ、アイーニャさんが鍵を渡したのね。
「ハァ〜・・・・・・洗濯物をしようと考えていたんだけどぉ〜。まぁいっか」
それに洗濯機なら服と洗剤を入れて回せば良いだけだから、そんなに手間じゃない。と言いたいところなんだけど、色ものと無色は分けておかないと後で後悔する事になるから考えないと。
「とりあえずリビングの方で適当にくつろいでて。私はちょっと洗濯をしているから」
「分かったわぁ!」
リズリナさんはそう言うと、家に上がって来た。これが赤の他人だったら、滅茶苦茶怒っていた。
その後は鼻歌混じりに洗濯機に洗い物を入れて回してから、リズリナさんが待つリビングへと向かう。
「・・・・・・なにをしているんですか?」
「なにって、お茶会の準備だよ。エルちゃん」
いや、見て分かるよそれは。だけど俺が言いたいのは。
「どこからその道具を出したんですか? って私は聞きたいんです」
お菓子の詰め合わせに加えて、紅茶の茶葉まで用意しているし。
「ああ、これ? 鞄の容量を増やして貰ってから入れる事が出来たんだよ」
あ、そうなんだ。
「それよりも、エイミーやミュリーナもここにくるから、早く準備を済ませようよ」
「二人も家にくるんですか?」
「うん」
いや、しれっと言わないで欲しい。って言うかつまみ食いをしても大丈夫なの?
「納得はいかないですが、エイミーさん達がくるのであれば仕方ありませんね。私も準備を手伝います」
「流石エルちゃん! 持つべき者は友だね!」
アナタが勝手に呼んだんじゃないんですかぁ!? と心で叫びつつお茶会の準備を手伝いを始める。
「そう言えば王様から話を聞きましたよ。魔人達のアジトが見つかったって」
「うん、そうだね。今その事についてグエル団長は話し合っているよ」
「作戦会議じゃなくて?」
「そうそう。作戦会議!」
リズリナさん、騎士団に所属しているんだから、そこら辺の事はハッキリ言おうよ。
そんな事を思っていると、洗濯物が終わった合図であるブザーの音がリビングに聴こえて来た。
「エルちゃん。この音はなんなの?」
「洗濯物が終わった音だから気にしないで」
「え? 洗濯物?」
「うん。取り込んでくるから、ちょっと待ってて」
正確には乾燥機に入れたいから、ここで待っていて欲しい。
「うん。分かったよ」
リズリナさんに一言断りを入れた後に、リビングから出るのだが・・・・・・。
「なんで付いてくるんですか?」
「エヘヘ〜・・・・・・気になっちゃったから」
そういえば魔国に行く時に洗濯機とかの使い方を教えてなかったなぁ。そんな必要もなかったと思うけど。
そんな事を思っていたら、脱衣所にやって来てドラム式洗濯機から洗濯物を取り出して乾燥機の中へ入れる。
「エルちゃん。それなぁに?」
「自動で洗濯物をしてくれる機械と乾燥してくれる機械だよ」
「・・・・・・エルちゃん」
なに? そのキラキラした目は?
「使いたい。って言うのならダメ」
「ええええええっ!?」
いやいやいやっ! だって俺の物だし、なによりも使い方を間違えたら、とんでもない事になるからね。
「エルちゃぁ〜ん」
「そんな泣きそうな顔をされても、ダメなものはダメです」
「洗濯物を水でゴシゴシするのは大変なんだよぉ。手がかじかむ時だってあるし、なによりも肌が荒れて赤切れを起こす事もあるんだよぉ。それに洗剤もお金かかるんだよぉ」
「いや、こっちも洗剤を使わなきゃいけないのは同じですよ」
必要ないと思ったら、大間違いだからね。
「脱水だって服を絞ってやらなきゃいけないから、服がシワシワになるんだよぉ」
「この乾燥機は服を選ばないと縮むんですよ」
それで何度失敗した事か。
「ええ〜っ!? それはイヤァ〜」
おっ! これは諦めてくれそうな予感だなぁ。
「・・・・・・ハッ!? こんな便利な道具があるって事は! もしかして、アイロンをかける時は?」
「暖かい木炭とか火の魔石は要らないよ」
「じゃあ、掃除の時は?」
「モップはないけど箒は一応あるよ。だけど大抵はゴミを吸い取ってくれる掃除機で済ませているよ。ほら、あれ」
そう言って指さしたのは、脱衣所の片隅に置かれた掃除機。それをリズリナさんはジィーッと見つめていたが、また ハッ!? となにかに気づいた様子を見せる。
「・・・・・・そういえば、エルちゃんのお家。暖炉を使った形跡がないね」
「寒い時はヒーターを使っているし、エアコンも完備しているから」
快適に過ごせる様に各所に設置しましたよ。俺一人の作業でね。
「・・・・・・エルちゃん」
な、なんですか。その恐ろしい顔は?
俺がたじろいでいると、リズリナさんが目の前まで歩いて来た。そして俺の手を取り、口を開く。
「私と同棲生活しましょう!」
「えっ!? 同棲? なんでまた?」
「だってここは生活面で不便になる事はないんだもん!」
「不便って、騎士がそんな事を言っていいの?」
「あそこは場所によっては寒いし、なによりも宿舎なんて暖房を完備してないから、寒い時はみんな毛布に包まって寝てるもん!」
「厚着して寝るって事をしないんですか?」
「やってる人はやってるよ! それでも寒い時は寒いし、暑い時は対策しようがないもん!」
う〜ん。そうなのかぁ。
「だからエルちゃん。私と同棲しようよぉ。私も家事を手伝うし、家賃も払うからぁ〜」
家事はともかく、家賃の方は王様達のご好意で
「・・・・・・ゴメンなさい。しばらくの間は一人暮らしを満喫したいから、お断りさせて頂きます」
「ええええええええええええっ!? そんなぁああああああっ!? 私とエルちゃんの仲なのにぃ〜!?」
リズリナさんはそう言いながら目元を手で覆い、床に座ってシクシクと泣いてしまった。
「泣き真似をしてもダメなものはダメですよ」
「うっ!?」
泣き落としが俺に通用すると思わないで貰いたい!
「乾燥機もかけたし、お茶会の・・・・・・」
「待って! これは私にとって死活問題なの! ここの生活を知ったら他には行けないよぉ! エルちゃん。私を養ってちょうだい!」
養ってって、まさか!
「最初からヒモになるつもりでいましたね?」
「騎士団の仕事を続けるから、ヒモにはならないもん! 生活面でエルちゃんに助けて貰うつもりだもん!
だからここに住まわせて! お願いぃ〜〜〜っ!?」
「ダメなものはダメです!」
その後も脱衣所で 住まわせて! ダメです! の攻防戦がエイミーさん達がくるまで続いていたのだった。
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