第2話
オウカさんと会話している中、一つの疑問を感じた。
「オウカさん」
「ん? どうしたのエルライナ?」
「あの国はなんで勇者が逃げてしまった。と公表しないのですか?」
いくら性格がクズの岡野でも勇者に代わりはない。だから周辺国が岡野を取り込もうとするじゃ・・・・・・ん?
「あれ? そもそも論的に、今の状態の岡野に利用価値がない気がする」
精神病んでいる上に、もう戦いたくなさそうだし。
「そうよ。あの国はもう、彼に飽き飽きしているの。それに利用価値がないから名目上では探しているって事にしているの」
「なんか・・・・・・悲しいですね」
「彼もイノセって子と同じで自業自得なのだから、何も言えないわよ。オマケにクラスメイト達も二人の事はガン無視している始末だから」
ハッキリ言ってお前らも同罪なのに、なにしてんだよ。
「まぁさっきも言ったけど、これであの国も良くなって行くでしょう」
「確かにそうですね」
膿がなくなったからな。時間が経てば元通りになるだろう。
「それはそうと、この後どうするの? ここに泊まって行く?」
「う〜ん。有り難い提案ですが、リードガルムへ帰ろうと思います」
自宅がどうなっているのか心配だし、なによりも隣にいるケイティさんの精神が持たない気がするから。
「そう・・・・・・分かったわ。自宅に戻るのなら、レンカにこの手紙を渡してくれないかしら?」
オウカさんはそう言って袖から手紙を取り出して差し出して来たが、俺からしてみれば嫌な予感しかしない。
「なにかマズい事を書いてませんよね?」
「仕事の事が書いてあるだけだから、マズい事は書いていないわよ。あ! そうそう。内容は企業秘密だから、開けて読まない様にね」
「企業秘密が書いてある手紙を私に渡していいんですか?」
「郵便配達員よりも秘密を守ってくれそうだから頼んでいるのよ」
いや、郵便配達員自体も秘密を守るって・・・・・・まぁ良いか。
「分かりました。私がレンカさんに送り届けますよ」
「助かるわぁ〜」
なんか笑みに悪意を感じるが、気のせいって事にしておこうか。うん、そうしよう!
オウカさんから手紙を受け取ると、ストレージの中へ収納する。
「それじゃあ、私達はこの辺でお暇させて頂きます」
「ええ、調査に行って来てくれてありがとう、エルライナ」
「いえいえ、またなにかあったら遠慮なく言ってください。あ、それとネネちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「私について来てくれて、ありがとう。楽しかったよ」
「私も、お姉様と一緒にいられて楽しかったです!」
礼の本を握り締めながら言ってくるので、なんとも言えない雰囲気が漂ってしまう。
「それじゃあね」
「またお会いしましょう、お姉様!」
「またね」
「はわわわわわ・・・・・・」
小刻みに震えているケイティさんの手を引っ張りながら城を後にした。
「ケイティさん緊張し過ぎだよ」
「それはそうですよ! オウカ様と言えば、経済が傾いた魔国を立て直した有名な方ですよ! 緊張しない方がおかしいですよ!」
元は銀行で働いていた人だからね。経営学に基づいて立て直したんだろう。
「それはそうと。これからそのレンカさんに会いに行くんだけど、心の準備は出来ている?」
「こ、心の準備ですか?」
「うん。乗って来たヘリで行くから。早くて三時間程度で着くかな?」
そう、リードガルムと魔国クシュンの王都は道のりが険しいだけであるだけで、直線距離で換算するとそんなに遠くはないのだ。
「そ、そうなのですね。ちょっと待ってください。今から心の準備をするので・・・・・・」
「私が言うのもなんだけど、心の準備をするのは向こうに着いてからにしてくれるかな?」
今ここで心の準備をされたら、夕暮れに着きそうだしさ。
「し、しかしですね。ずっと憧れていた方と会えると思うと、心臓が高鳴ってしまって・・・・・・」
「会えるのはまだ先なんだから、早く行く」
ケイティさんの手を引っ張って王都の外へ向かう。
「ちょっ、待ってください! そんな急かさなくても良いじゃないですかぁ!!」
「私は私で早くお家に帰りたいですからね。急かすのは当たり前です」
てかレンカさんに家を任せっきりだから、自宅が一体どんな風になってしまっているのか不安で仕方がない。
騒ぐケイティさんを王都の外まで連れて来てから、ヘリに乗ってリードガルム王国に向かうのだけれども、ケイティが挙動不審な動きをしている。
「歯医者で順番待ちしている子供みたいに、不安がらないでくださいよ」
鬱陶しいったらありゃしない。
「は、歯医者の方がマシです! 魔法かけるだけで済みますから!」
あ、そっか。この世界になると虫歯とかは魔法で治す傾向があるから、地球の様に歯を削られたり注射を刺される不安を感じなくて良いんだった。
「コホンッ! とにかく、もうすぐ着きますからシャキッとする様にしてくださいね」
「は、はい! シャ、シャキッとします!!」
ケイティさんはそう言って背筋を伸ばしたので、このまま合わせても大丈夫かなぁ? と心配になる。そして、その背筋を伸ばしたままの会話が十五分ぐらい続いた後、目的地に到着した。
「はい、到着。ケイティさん。降りるよ」
「は、はひ!?」
本当に大丈夫か、この人?
そんな事を思いながらヘリから降りて王都の中へと入って行く。
「久しぶりのリードガルムだ!」
「うわぁ〜、ウォント王国よりも活気がありますねぇ〜!」
そりゃ誰かさんのせいで財政難だったからな。活気がないのは当たり前だろう。
「とにかく、レンカさんが住んでいる私の家に行きましょうか」
「ちょ、ちょっと・・・・・・」
「覚悟を作る時間は充分にあげた筈だよ」
「・・・・・・はい」
ケイティさんは渋々といった感じで、俺の後をついてくる。
「ケイティさん、あそこが私の我が家ですよ」
「へぇ〜、あそこがエルライナ様の自宅ですかぁ〜・・・・・・」
バルデック公爵様達から貰って、まだ数日しか家で寝泊まりをしていない自宅。でも、しばらくの間は出かける予定ははないから、家でゆっくり過ごせそうだ。
「レンカさんいるかなぁ?」
そんな事を言いながら、家のベルを鳴らしてみる。
「・・・・・・あれ? レンカさん、居ませんか?」
家、と言うよりも自宅に向かってそう言うが、シーンと静まり返ったままで返事がこない。
もしかして出かけているのか?
「ちょっと家の中で待っていようか」
「あ、はい」
鍵を空けてから自宅に入ってみると、キエエエエエエエエエエエエッ!!? と言った奇声が聞こえて来たので、身体を硬直させてしまった。
「な、何事?」
「悲鳴ですか?」
「レンカ式裁縫術究極奥義! 流水縫い付け拳!! チョワアアアアアアッ!? ホワチャァアアアアアアッ!!?」
「あ、レンカさんの声だ」
て言うか、レンカ式裁縫術究極奥義ってなに?
そんな事を思いつつ声がしたリビングの方に向かうと、レンカさんが裁縫をしていたが!
声の割にはやってる事が地味だな・・・・・・おい。
そう、叫び声とは対照的に針と糸で縫っているだけなので、スゴく地味に思えてしまうのだ。
「そしてこれでトドメ! レンカ式糸固定術!」
「ただ結んでいるだけですよね?」
「あらら? お帰りエルライナ! 思っていたより早くてビックリしたわぁ〜。あれ? お隣にいる子は誰?」
「ああ、こちらの子は向こうで知り合ったんです。名前はケイティさん」
俺がそう言うと、ケイティさんは緊張した様子で一歩前に出た。
「ケイティです! 服の仕立て屋として商会の方で働いてました! 私を弟子にしてください! お願いします!!」
「良いよ」
軽っ!?
即決でケイティさんの弟子入りが決まったのであった。
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