第3話
こんな事があって良いのだろうか?
「ほ、本当に良いんですか?」
「いいよ。ちょうど仕事を手伝ってくれる人が必要だったし。裁縫経験がある人なら尚更採用しないわけがない」
「イヤイヤイヤ、せめてどこで働いていたの? ぐらいは聞きましょうよ」
俺に言っても仕方ないよ。
「アルプケット商会で働いていました」
「採用」
即答っ!?
「アプルケット商会は仕立て屋の中で有名なところだから、即戦力になるでしょ」
「・・・・・・レンカ。まさかと思うけど、適当な事を言ってないよね?」
「そんな事はないわ」
目を逸らしている辺りで、ウソを言ってるのバレバレだから。
「レンカ様の元にもアルプケット商会の名が届いていたとは・・・・・・私、あのお店で働けた事を誇りに思います!」
待て待て! レンカさんは適当な言葉を並べているだけだから、信じちゃダメだって!
「とりあえずアナタの実力を見たいから、これと同じ服を一着作ってくれるかしら?」
レンカさんはそう言うと、寝間着と思わしき服をケイティさんに渡した。
「はい、一生懸命やらせていただきます!」
「制限時間は今日中。裁縫セットは自前のヤツでも、私のを借りて使ってもOKよ。それではよぉ〜い・・・・・・スタート!」
レンカさんが合図した瞬間、ケイティさんはカバンの中から裁縫セットと思わしきケースを取り出して作業を始めた。
「ん? これは! 安物の裁縫セットと思っていたけど違ったわ!」
「ケイティさんが持っている物って高いんですか?」
「ええ、私が今使っている裁縫セットより安くなるけど、彼女が使っているのは高価な物よ」
「まぁ仕事用なのですから、少し高めの物を買うのは当たり前だと思いますよ」
プロ野球選手ならオーダーメイドの高いバッド。有名な料理人なら特製包丁と言った感じにね。
「う〜ん・・・・・・そうじゃないと思うわ」
「どう言う事ですか?」
「商会で買った物を盗難をされたら困るから、商会専用品として持ち出し禁止にいるはずよ。それに道具が揃っているから、もしかしたら誰かが彼女にプレゼントをしたのかもしれないわね」
「プレゼント?」
あ、そう言えばケイティさんが、アプルケット商会が夜逃げする前日に新品の裁縫セットを渡してくれて、その中にはお金が入っていた。って言ってたな。
もしかしたら、その会長さんは身寄りのないケイティさんの事を思って渡したんじゃないかな?
「出来ました!」
ケイティさんはそう言いながら、寝間着をレンカさんに渡した。
「うん、どれどれ・・・・・・縫い目はちゃんとしている。それに上下共サイズのバランスが取れている。柄については・・・・・・ちょっと思うところがあるのだけれども合格範囲内ね」
「合格範囲内? なにか気になるところがあったんですか?」
「ええ、上下をチェック柄にしたのは悪くはないのだけれども、ズボンの方と上着とで柄がズレているのよ。こうやって重ねてみればよく分かるでしょ」
「あ、本当だ」
真っ直ぐに伸ばしてみた時に、チェックの柄が一つズレているのが一目で分かる。
「コンテストの時、これも審査点に入るから気をつけないといけないわ」
「ゴ、ゴメンなさい!」
「良いのよ。これから覚えていけば良い事だからね。実力も分かった事だから、今日は何処かの宿に泊まって、明日にキオリ商会に顔を出してね」
「は、はい!」
なにはともあれケイティさんの就職先が決まって良かったぁ。
「そう言えばレンカさん」
「ん?」
「私がいない間に、なにか変わった事がありましたか?」
「ああ〜、あったわねぇ〜」
「どんな事ですか?」
「エイミーとリズリナとアイーニャとミュリーナで、アナタが送ってくれた洗剤の争奪戦が始まった」(※自分も参加していた事を隠している)
「・・・・・・え?」
争奪戦?
理解が追いついていないのに、レンカさんはさらに話を続ける。
「それで届けに来たラミュールが、 そんなに争うのなら、私が没収する。 と言って持って帰っちゃったのよ」
先生か親かよ!?
「でもね、その洗剤をラミュールが使っていたから憎たらしいのよねぇ〜!」
「どうしてラミュールさんが使用した事が分かるんですか?」
「だって没収を知った翌日の姿が全然違うんだもの! 肌がツヤッツヤだったのよ!」
「ああ〜、なるほど」
ちゃっかり使っていたのか、あの人は。
「それでね。その事をみんなで咎めたら、 エルライナは私達の為に送ってくれたんだ。だから私にも使う権利はあるだろう? って言ってくるしぃ! もう最悪だったわよ!」
「それで結局のところなんだけど、その洗剤は渡して貰えたんですか?」
「ええ、返して貰えたわ。今度は平和的な話し合いで平等に使うって事で丸く収まったの」
「はぁ〜、そうなんですかぁ〜」
なんかどうでも良くなって来た。
「それでぇ〜、お願いがあるんだけどぉ〜・・・・・・」
「洗剤の補充ですね?」
「当たり!」
予想はしていたけど。やっぱり底が着いていたか。
「私のお家にくれば、洗剤ぐらい使わしてあげますよ」
「じゃあさっそくお願い出来るかしら?」
「特にアイーニャが出し惜しみなく使うから、すぐにスッカラカンになっちゃうのよ」
すぐになくなるって、どんだけノズルをプッシュしているんだよ。
「今から入ります?」
「もちろん! ここんところ水洗いしかしてないから、なんか物足りなさを感じるのよねぇ〜」
「空になった容器の方は、上がる時に私のところに持って来てくださいね」
「了解!」
ボディーソープとシャンプーを受け取ったレンカさんは、ケイティさんの顔を見つめる。
「アナタも一緒に入りましょう」
「えっ!? 私も一緒にですか?」
「ええ、親睦も兼ねてね」
「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて・・・・・・」
ケイティさんはそう言うと、ルンルン気分のレンカさんと共にお風呂に向かった。
まぁ、なにはともあれ無事にレンカさんの弟子に慣れて良かった。
二人がお風呂に入っている間に、疲れを癒そうとイスに座り頬杖を着いた。
「俺がいない間、リズリナさん達はなにをしていたんだろう?」
エイミーさんはグエルさんと共に騎士団の仕事をしていただろうし、バルデック公爵様達は公務をやってたんだろうなぁ〜。ミュリーナさんも同じく騎士団の仕事を・・・・・・。
「ああやっぱり、帰って来ていたみだいだね」
「アイーニャさん、ノックしてから入って来てくださいよ」
「アッハッハッハッ、ゴメンゴメン。アンタが帰ってくるのを楽しみにしていたからねぇ〜」
アイーニャさんはそう言いながら、淑女とは思えない豪快な足取りで向かい側のイスに座った。
「そうですよ奥様。いくら我が子とはいえ、モラルに欠けますよ」
側近のメイドさんは申しわけなさそうな顔で、アイーニャ様の側までやって来た。
「娘の前だからこそ、こんな風にさらけ出せるんだよ。それで、話は魔国の方から聞いていたけど、勇者達の様子はどうだった」
「噂通りのヒドい人達でしたよ」
「やっぱりそうだったんだねぇ〜。でもエルライナがなんとかしたんだろ?」
「成り行きでそうなったって感じです」
「ふ〜ん、そうなのね。元クラスメイトのハルトとしてはどう感じたのかしら?」
アイーニャさんのその言葉に、ピクッと反応した。
「ハルト? なんの事ですか?」
「誤魔化さなくても大丈夫。私とネルソンはアンタの正体に気づいているのだから」
アイーニャ様の真剣な顔つきを見て、もうバレている事を悟った。
「いつから気づいていたのですか?」
「アンタが不思議な武器を使うってところで疑問に思っていたけど、魔国に行った後、勇者達が召喚された国に行くって決めたでしょ?
アンタの顔に決意みたいなもの感じたから、もしかしてと思ってダイキ達を問い詰めたら、 彼女が使っている武器は自分達の世界で使われている武器だ。 って答えたのよ」
「行方不明になった 倉本 春人 の趣味思考を調べてみたら私と一致したと?」
「その他にも、私と会った時に妙に男っぽい仕草をしているなぁ。って気になったのもあるけど」
隠しているつもりだったけど、細かい部分で隠しきれないかったのかぁ〜。
頭に手を当てて、敗北を感じ取ったエルライナであった。
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