第1話

ネネちゃんの故郷である魔国の王都(※入り口門付近)に着陸した俺達は、ヘリから降りて門へ向かう。


「やっと魔国に着いたぁ〜」


「久しぶりの魔国ですぅ〜!」


「ここに、人間国宝のレンカ様がいらっしゃるのですね!」


「「いないよ」」


「えっ!?」


驚いているケイティさんに対して、申しわけなさそうな顔で話す。


「実はレンカさんがいる場所は私の自宅なんだ」


「エルライナ様のご自宅ですかぁ!?」


「まぁ驚くのも無理はないよね。色々あってお家をお任せする事になったんですよ」


その自宅がどうなっているのか、心配で仕方ないんだけどね。


「とにかく、オウカ様と会ってお話ししてから向かうから、レンカさんと会うのはちょっと先になるかも」


「あ、そうなのですか。急ぎ旅ではないので、気にしないでください」


「なんか、ゴメンね」


「いえ、ホント! ほんとぉ〜〜〜〜〜〜に! エルライナ様が気にする事はないですよ! 私自身心の準備が出来てませんからぁ!」


言えば言うほど俺を疑っている様に聞こえるから、止めといた方が良いと思うんだけど・・・・・・。


そんな事を思っていたら、目の前に影の者が現れた。


「お帰りなさいませ、エルライナ様」


「ただ今戻りました。オウカさんはいますか?」


「はい。オウカ様もエルライナ様の乗り物を見かけて気づいたご様子でした。無論、会う準備も出来ています」


「そう、分かりました。じゃあ行こっか二人共」


「はい」


「え? 会う・・・・・・オウカ様?」


あら、パンク状態になっちゃったよ。


「レンカさんに会う前にそんな様子じゃダメだよ」


「レンカ様よりもスゴい人と会うんですから、驚かない方がおかしいですよぉ!?」


そうかな? 個人的に同等の立場な気がする。


「まぁそれはともかくとして、オウカさんのところに行くよ」


「え? わ、私は・・・・・・」


「レンカさんの弟子になるのだから、遅かれ早かれオウカさんと会う事になると思うよ」


「そ、そうですかぁ・・・・・・」


まぁ、無事に弟子になれば。って話だけどね。


「オウカさんを待たせるのも悪いから、城に向かおうか」


「そうですね。お姉様!」


「か、覚悟を決めましたぁ〜」


怯えた表情でついて来る様子を見て、大丈夫かなぁ? と思うエルライナとネネ。城の表門に着くと門番が笑顔で出迎えてくれる。


「お待ちしておりました。エルライナ様」


「表門、すっかり直ったんですね」


俺が魔国を出る時は修復途中だった為か、柵を門代わりにしていたが、それももう撤去されている。


「ええ、以前の門よりも頑丈に作っているので、この間の様な事では壊れる事はありませんよ」


兵士が言うこの間の事とは、四ヵ国協議の時の事だ。あの時は門の一部を爆破して穴を開けて、そこから侵入する様な形で攻め込まれたんだよなぁ。


「っと、オウカ様が首を長くしてお待ちになっていらっしゃるので、お向かい頂けませんか?」


「あ、はい。そうですね」


「あ、それと。つかぬ事お聞きしますが・・・・・・そちらの女性はお知り合いですか?」


ああ、ケイティさんの事を紹介しないとな。


「あ、はい。レンカさんのお弟子さんになりたいそうなので、連れて来ました」


「ああそうなのですか。生憎レンカ様は今魔国に居らっしゃらないので・・・・・・」


「あ、私の自宅にいるので大丈夫です」


「・・・・・・え? 今何と仰いました?」


「ですから、私の自宅にレンカさんがいるので大丈夫ですよ」


「ええええええええええええっ!?」


門番が驚いた表情で尻餅を着いてしまった。そんなに驚く事なのか?


「い、急いで王妃様達にご連絡しないとぉ!?」


「もうその事は知っているわよ!」


オウカさんがちょっと怒った様子で、こちらに向かって来た。


「お、オウカ様!?」


「余りにも遅いからここに来たの。お帰りエルライナ。それにネネ」


「ただ今、オウカさん」


「ただ今戻りました」


ネネちゃんはそう言って膝を着いた。


「そちらの子は初めましてよね」


「は、はい!」


「私の名前は オウカ・コノエ と言います。アナタの名前はケイティでしたよね?」


「え? どうして私の名前を知っているのですか?」


「知り合いから手紙を貰ってね。アナタの事をよろしくと書いてあったわ」


オウカさんの言っている知り合いって言うのは、多分マルコさんの事だろう。機転が効くね。


「まぁとにかく、ここで話すのもなんだから客室に向かいましょう」


「そうですね。二人共、行こうか」


「はい!」


「あ・・・・・・はい」


意気揚々とついて来るネネちゃんに対して、オドオドした様子で後について来るケイティさん。その様子は客間に入っても続くので、オウカさん自身も心配そうな顔で見つめていた。


「さて・・・・・・向こうでなにがあったのか聞いているわ。大変だったでしょ?」


「ええ、まさか魔族達を束ねているボスが出てくるとは思いもしませんでした」


「そうでしょうねぇ。勇者達もまともな感じになって来て良かったわ。アナタが酷い目に遭わないかと心配で心配で・・・・・・」


「魔人と戦う事と比べたら、些細な事ですよ」


まぁ実際に絡まれたんですけどね。


「些細な事ね。実際問題大事だけれど、処罰されたのだからなにも言う事はないわ」


「あれ? 勇者が二人国外追放されたのに慌てないなんて、オウカさんはさっぱりしていますね」


「今までの行いを考えてみれば妥当の処罰よ。それにその二人は友人でもなければ勇者じゃないのだから、なんとも思わないわよ。

アナタだって同じでしょ?」


確かに、人によってはザマァって言うかもしれないけど、俺の場合は邪魔さえしなければどうでも良いって感じだ。


「そう言えば岡野って子が、王都から逃げ出したのは聞いた?」


「「「えっ!?」」」


それは初耳だぞ。


「その表情を見る限り、今知った感じねぇ」


「じゃ、じゃあ、大野と同じで魔族の仲間に?」


「いいえ、違うわ。彼は あんな化け物がいるなら、もうこの世の終わりだぁああああああっ!!? と叫びながら引き篭もっていた部屋を飛び出してしまったらしいわ。

まるでなにかから逃げようとしているみたいにね」


ポカーンとしたまま、ネネちゃんとケイティさんの顔を見つめてしまう。


「彼は魔人と戦う事ではなく、魔人から逃げると言う事を選んだのよ」


あんなに調子こいていたヤツが? と思ったけど、城壁攻防戦の後を思い出して見ると無理もないか。と思えてくる。


「そうですか。あの国は岡野の事を放っておいているんですか?」


「名目上では探しているって事になっているけど、公言しているだけで探す意欲がないって言った方が合ってるかもしれないわね」


岡野を一人見つけ出すよりも、残った勇者達の育成に集中した方が良いと判断したんだと思う。


「まぁ、他の勇者達は真面目に取り組む様になった。と言いたいところだけど、猪瀬って子だけはね」


「まだ問題を起こしているのですか?」


「今までのツケが回って来たのか、多方面から叩かれているわよ。増してや裁判沙汰にもなってるぐらいなのだから」


「え? 裁判ですか? 私達、そこまで聞いてなかったんですけどぉ〜・・・・・・」


ネネちゃんの顔を見つめてみると、彼女もそんな話を聞いていない。と言わんばかりの顔で見つめてくる。


「まぁそうでしょうね。この事は秘密裏に進めている話だから、知らない方が当然よね。とにかく王様ご用達商会を潰してしまったし、なによりも経済を狂わせてしまったのだから怒らない方がおかしいわ」


「それで、もう裁判の方は行われたのですか?」


「行われてはいないし、行う予定はないわよ」


行う予定がない?


「どう言う事ですか?」


「どうもこうも、計算したら一人で払える金額じゃないぐらいの料金になっちゃった為、裁判を起こさない代わりに、命ある限り国の指示に従い、国の為に命掛けて戦う事を契約させられたの」


命を掛けて戦うって事は、捨て駒にされても文句は言えない立場って事だよな? しかも契約内容が奴隷と同じじゃないか?


「だから猪瀬って子は必死になってレベル上げしているわ。自分が死なない様にね」


自業自得とは言え、流石に可哀想に思えてくる。


「さっきも話した通り、自分がやってしまった結果が生んだ結果なのだから、仕方ない事なのよ」


「そう・・・・・・ですね」


猪瀬、悪いが俺じゃ助けられないからな。自身が招いた結果を甘んじて受けろよ。


そう思いながらお茶を啜るのであった。

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