第七章 プロローグ
猪瀬達と謁見の間で会った日から2日後。俺は宿を出る準備をしていた。
「ネネちゃん。忘れ物はない?」
「はい、ありませんよ」
「ケイティさんの方も様子見にに行こうか」
「そうですね!」
自分達の部屋を出てケイティさんの借りている部屋の前まで行くと、コンコンッ! とドアをノックする。
『あ、はぁ〜い!』
「ケイティさん、私だけど。出発の準備は出来てる?」
『少し時間が掛かるので、先にラウンジの方に降りて待っていてくれますか?』
「分かった。ゆっくりで良いよ。忘れ物するのが一番良くないからね」
この二日間でクラス委員達以外、つまり猪瀬と岡野についていた勇者達が街中を歩けば、市民に痛い視線で見つめられるか、石やなんかを投げられる様になり、今じゃ王宮から出てこなくなってしまった。
以前の岡野の下っ端達なら石を投げれた時点で反撃していたが、メルティナさんが野球部二人の力を取ってしまう事や、国王が国外追放させた事を受けて大人しくなったらしい。
まぁ、与えられた力がそのままで国外追放ならともかく、力がなくなった状態で国外追放させられるのを見た彼らは、流石にヤバイと感じたのだろうな。
「おはようございやす。エルライナはん、ネネはん」
「おはようございます。マルコさん」
「エルライナはんは、あの話を聞きました?」
「あの話って、何の話ですか?」
「勇者オカノが新しい医者に症状を見て貰っている話でっせ」
「ああ〜、その話ですか」
そう・・・・・・前にも話したのだが、岡野は魔人との戦いを受けた後に部屋に引き篭る様になってしまい、夜になるとあの時の事を思い出しているのか発狂しているそうだ。
その精神病を治す為に医者に診て貰ったのだが、診療に入ろうとしたら拒絶するどころか診療中に暴れたり、治療中に突然気絶したりしてお手上げ状態なのだ。
当然、取り巻き達はそんな姿の岡野から離れて、今はそのグループでチームを組んで鍛えているみたい。これは俺の予想だが、魔人に負けたのが屈辱だったんだと思う。見た目に似合わず努力家だねぇ。
「王様はなんて言っているんですか?」
「しばらく様子を見てから判断する。と言ってやした」
「どうせ復活しても迷惑を掛けるんだから、見捨てて良いんじゃないんですかぁ?」
「まぁまぁネネちゃん。王様も体面って言うのがあるからさ」
恐らくそのままの状態が続いたら、なにかしらの態様をするんじゃないかな?
「それと、イノセの事なんでやんすが・・・・・・」
「猪瀬さんになにかあったんですか?」
「特にはないんですが。その・・・・・・孤立していやす」
「「孤立?」」
「ええ、イノセの指示に従う仲間が、現在ではいない状態になってしまいやした」
「彼らも気づいたんだと思うよ。この人はリーダーに相応しくないって」
猪瀬は城壁攻防戦が終えて以降、手下が格段減ってしまった。彼女が指示をしようものなら、 自分でやってくれ。 と言い返されてしまい、 何でわたくしの指示に従わないのぉ!? と怒りようものなら もうお前をリーダーだと思ってないからだっ!! と言われてしまう状態。
今までやって来た事のツケが回って来ただけだと思うし、なによりも簡単に信用を取り戻せる状態ではないだろうな。
「ところで、アオノくん達の様子はどう?」
「彼らなら、勇者達の中で一番努力をしていますよ。それに街の人達の人望が厚いでやんす。だから、他の勇者達は文句一つ言えない状態でやんす」
「なるほどね」
そう、彼らが一番エルライナに影響を受けた人間で、総合ギルドに加入して戦い続けている。現在ではこの国の勇者の中で彼らが一番強いと言えるレベルまで、鍛え上げているのだ。
「お待たせしました」
大きな鞄を持ったケイティさんが、階段から降りて来た。
「それじゃあケイティさんもやって来た事だし、出発しようか」
「マルコさん。今までお世話になりました」
「いやいや、ケイティちゃんが元気でいてくれればええから。元気でなぁ〜」
泣きそうなケイティさんにハンカチを差し出すと、受け取ってくれた。
「ありがとうございます。エルライナ様」
「マルコさん、お世話になりました」
「お世話になりました」
「うん、またここにくる事があったら、ワイの店を利用してなぁ〜」
こうしてお店を後にし、街の外を目指して歩き出した。
「あのぉ〜、エルライナ様」
「ん? なに?」
「もしかして、このまま歩いてレーベラント大陸に向かうのですか?」
「いやいや、そんな事はしないよ。私専用の乗り物を出す為に、一旦街の外に出ないといけないんだ」
「へぇ〜・・・・・・そうなんですかぁ〜」
なんか半信半疑って感じだけど、実物見れば大丈夫だよね!
「入店お断りだ!」
「ん?」
なんだろう? ってあそこは俺が前に助けた武具店じゃないか!
「な、なんでだよ! 俺達は北川達と関係ねぇよっ!!」
「真っ先に俺達に頭を下げに来たアオノ達ならまだしも、他の勇者達はお断りだ! 帰んな!」
「なんで青野達は良くて、俺達はダメなんだよぉ!」
「そうだよ! 腕利きの武具店って言ったら、もうここしかないから困るって!」
「ハッ!? お前達が好き勝手やっていたツケが回って来ただけだろう?」
店主であるドバクさんがそう言うと、苦虫を潰した様な顔をさせた。
「それに、お前さん達はもう暴力を振るえないんだろう? ワシがお前さん達ぶん殴る前に、帰った方が身の為じゃねぇか?」
そう言いながら手の指をゴキゴキと鳴らすと、勇者達は一歩下がったのだ。
「クソォ〜・・・・・・覚えてろよぉ!」
「ぜってぇギャフンと言わせてやるからなぁ!!」
彼らは捨て台詞を吐くと、振り返り歩き出したのだ。
「フンッ! 今のお前さん達には、そんな事は出来んだろうな」
そんな事をしたら真っ先に力を取られるからな、出来るわけないよな。
「とにかく、あの店主が元気になってくれて良かった」
そう言った後に街の外を目指して歩き出して、外に出たら人気のない場所までやって来た。
「ネネちゃん。周りに人がいないよね?」
「大丈夫です。お姉様」
「よし、あれを出すよ」
ここへやって来た時と同じ UH-60M Black Hawk とヒューマノイド を取り出した
「ふぇっ!?」
「乗ってケイティさん。あ、操縦お願いね」
『かしこまりました』
操縦席に乗り込むヒューマノイドを余所に、固まっているケイティさんを乗せる俺達。因みにケイティさんの荷物はストレージに入れた。
「さて、名残惜しいけど魔国の王都に向けて出発しようか」
「はい、お姉様!」
「・・・・・・」(固まっている)
『途中で燃料補給をするので、その時はお知らせします』
「ん、わかった」
『それでは出発します』
その言葉と共にエンジンをスタートさせて、空へと飛び立った。
「あっ!? お姉様、あれを見てください!」
「あれ? あ!」
ヘリに向かって手を振っている四人がいた。
「青野、久米山、木崎に真月」
もしかして俺達の事を見送りに来たのか?
「彼ら四人なら、この先なにがあっても大丈夫そうな気がする」
「私もそう思いますよ。お姉様」
俺達も彼らに答える様に手を振ったのだった。
「スゴい・・・・・・スゴいですよこれぇ! 空を飛んでいます!」
ヘリに慣れたケイティさんは空中散歩を楽しんでいる様子。それはそれで嬉しい事だけど・・・・・・。
「もう着くよ」
「えっ!? もう着くのですか!?」
イヤイヤイヤイヤ! さっきから、どこら辺を飛んでいるよ。って話かけていたんだぞ。もしかして、はしゃいでいて気づかなかったんか?
「えっとぉ〜・・・・・・すみません」
まぁ、あんなにはしゃいでいたら、聞いてもないか。
「とにかく、もうすぐ魔国の王都に着くから二人共降りる準備を忘れないでね」
「はい!」
「分かりましたぁ!」
そう返事をしたものの、二人はその後も窓の外を見て景色を楽しんでいたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます