第56話 エピローグ
とある隠れ家の中。リヴァイスは自分の主人の手を見つめている。
「・・・・・・無理ですね。こうなってしまうと治しようがありません」
「・・・・・・そうか」
男は薬指がない手を見つめる。
「幸い他の指はついていたので治せたのですが、ここの薬指だけは・・・・・・主人様?」
「フッフッフッフッ・・・・・・面白い」
「何が、ですか?」
「あの女は俺の身体に傷をつけた。お前でさえ傷をつけられなかったのにな」
「・・・・・・そうですね」
そう、リヴァイスは部下になる前に一回だけ挑んだ事があった。だが、その身体にどんなに攻撃をしても傷一つつけられず、やむなく降参するしかなかった。
「流石はガイラスが選んだ者と言うべきだろうが」
リヴァイスは背筋に悪寒を感じるほど、主人と呼ばれた男から膨大な魔力を感じ取る。
「ガイラスめ、よほど俺が気に入らない様だなぁ。キサマのせいで俺は、こんな身体になったのに!」
「お、落ち着いてください。主人様」
「・・・・・・そうだな。こんな風に怒っていても仕方ないからな」
男が放出していた魔力を止めた瞬間、リヴァイスは安堵した顔になる。
「そう言えば、例の件は進んでいるのか?」
「例の件の事ですか。ええ、順調に進んでいるので安心してください」
「・・・・・・そうか。だが、その障害になりそうな者達がいるのだが?」
「そちらについては安心してください。もう手配はしております」
「そうか、今日はもう疲れた。ゆっくり休むとしよう。後はお前に任せる」
「ハハッ」
リヴァイスは自室へと戻って行く主人を、膝を着いて見送るのであった。
〜〜〜 猪瀬 side 〜〜〜
同時刻。王宮内の謁見の間にて、現国王の レグス・レム・ウォント と 猪瀬 真澄美 が対峙していた。
「どう言う事ですかぁ!?」
「どうもこうもない。あの2人は国外追放の刑じゃ」
「納得出来ませんわ! たかがお店に迷惑をかけただけで国外追放になるなんて、おかしいと思わないのですか?」
それにわたくしとしては、これ以上戦力が減るのは困る。
そう、あのモンスター大群と戦いを終えて以降、猪瀬の立場が悪くなっているのだ。街に降りれば周囲の視線が突き刺さり、お店で何かを買おうとすれば入店自体をお断りされると言う状況。
極みつけは、今まで自分を指示に従っていたクラスメイト達の大半が、自分から離れて行ってしまった事だ。
「キサマは馬鹿かぁっ!?」
「ッ!?」
国王のその一喝で、猪瀬は身を縮こまらせてしまった。
「お主の部下がやった事は、犯罪以外なんでもないだろう?」
「そ、そうですが・・・・・・まだ彼らは十五歳です」
「この世界ではもう十五歳だ。自分が犯した罪を償って貰うのが常識であろう。それに、あの者達はもう勇者ではないのだ」
「もう、勇者ではない?」
「ここからは私が話しましょう」
「アナタはっ!?」
あの白い髪にアメジストカラーの瞳。憎っくき女、エルライナ!
「お久しぶりです。猪瀬さん」
「アナタ、どの面下げてここに来ているのかしら?」
「威風堂々と立っております。それに私にその態度を取るとは・・・・・・ホント、ご自身の立場がお分かりになってないのですね」
「どう言う意味よ?」
「私はメルティナス様の言葉をアナタ方にお伝えする為に、ここに来たのですよ」
メルティナス様の言葉を、わたくし達に伝えに来ただって? ハッ!?
「まさか、アナタが・・・・・・メルティナス様の使者なの?」
「いいえ、違います。私は神様の使者です」
「神様?」
「まぁ細かい事は気にせずに聞いてください。メルティナス様はこう仰いました。 これ以上他人に危害を加えるつもりなのでしたら、アナタ方に与えた力を返して貰います。と」
「与えた力を返して貰う?」
信じられないと言いたそうな顔でエルライナを見つめていると、エルライナは可笑しそうな顔をさせながら話し始めた。
「現に力を取られた方がいますよ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ本当ですよ。アナタが取り戻そうとしていた二人が、そうなのですから」
「えっ!?」
北山と相場の力を・・・・・・。
「力を失ってしまった彼らは、どうなってしまうのですか?」
「詳しくは分からないけど、一般市民と同じぐらいの力になってしまうんじゃないかな? だから今頃モンスターにやられてしまっている可能性が・・・・・・おっと、口走り過ぎましたね」
「ッ!?」
猪瀬はゾッとしたのか、エルライナから一歩下がった。
「それはともかくとして、アナタ自身が注意した方が良いと思いますよ」
「わ、私自身が?」
一体どう言う事?
「そう、メルティナス様はアナタと岡野に目をつけているのですよ。だから、今度悪い事をしたら・・・・・・ただのザコになりますよ。そうなったら、この城から追い出されるのは目に見えますね」
「追い、出される」
あの二人の様に、わたくしが国を追い出される。
「まぁ部屋で引き籠もっている岡野については、もう諦めているみたいです」
彼女の言う通り、岡野はあの事件以降王宮に用意された自室に引き籠もってしまったのだ。
「アナタが岡野の様になるのか。はたまた勇敢な彼らの様になるのか・・・・・・私は楽しみにしていますよ。それでは失礼いたします」
そう言ってから謁見の間を後にしようとしたところで、猪瀬は彼女の手を取って止めた。
「待ちなさいっ!!」
「なんですか?」
「アナタ、私と共に戦いなさいっ!」
そうすれば私が非難される心配が・・・・・・。
「・・・・・・誰が」
「え?」
「誰がアナタみたいな戦力外と共に戦うと思っているんですか? ハッキリ言って、いくらお金を積まれてもお断りですよ」
彼女はそう言うと手を振り払い、鳩尾に拳を突き刺したのであった。
「ゴホッ!?」
猪瀬は膝から崩れ落ちる様にして床に着いた。
「今の攻撃は実力の半分しか出してないですよ。それなのに避けられないどころか、膝を着くなんて・・・・・・ザマァないですね。アナタがちゃんと訓練してない証拠でですよ」
「い、いきな・・・・・・」
「いきなりだったから対処出来ませんでした。なんて言葉はルール無用の世界では通用しない言葉ですよ。もし、ここが本番だったら」
彼女はそう言って、弧を描いたナイフをわたくしの喉元に突きつけた。
「ッ!?」
「もう死んでいるよ。アナタは。もう伝える事は伝えたので、さようなら」
彼女はそう言ってからナイフをしまい、怯えている猪瀬を無視して謁見の間を出て行ったのであった。
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