第11話

「ゼェ、ゼェー・・・・・・フゥー・・・・・・」


俺は今、銀色の竜亭の目の前に立っているが今更ながら気づいた。全力で走る必要はなかったんじゃないか? と。


「なにやってたんだろう私。なんか神様に弄ばれている気がするけどぉ・・・・・・まぁいいや、とりあえず中に入って宿を取ろう」


銀色の竜亭の扉を開けて入ると、カウンターごしに立っているお婆さんが俺を見て話しかけてくる。


「いらっしゃいませ。銀色の竜亭へようこそ。さっそくですみませんがカードを見せて下さい」


このお婆さん店員さんだったのか。


「あ、はい」


俺はそう言いながら総合ギルドカードを店員さんに渡す。


「お預かりします」


店員さんは総合ギルドカードを見た後に、微笑みながら総合ギルドカードを俺に返す。


「問題はありませんね。休憩ですか? それともご宿泊ですか?」


「宿泊です」


「宿泊ですか。1日銅貨三枚、食事付きになりますと銅貨三枚と鉄貨五枚ですが、一週間宿泊予約であれば銅貨二十枚のうえ食事付きのサービスになりますがいかがなさいますか?」


一週間で銅貨二十枚、それに食事つきになると確かにお得だ。


「一週間でお願いします」


俺はそう言いながら銀貨二枚をストレージから取り出し店員さんに渡すと、店員さんはカウンターの裏から札を取り出した後に番号の付いた壁にかける。あれで空き部屋か使用しているか判断しているみたいだ。


「かしこまりました。こちらがアナタの部屋の鍵になります。なお、どこかにお出掛けるなさる場合はカウンターに鍵を渡してからお出かけして下さい。場合によっては兵士へ通報する事も考えます」


「分かりました」


「それではごゆっくりおくつろぎ下さい。リマ! お客さんを203に案内して上げなさい!」


お婆さんは店の奥にそう言うと、ハーイ! と言う可愛らしい声が聞こえてきた。そして目の前に現れたのは可愛らしいリボンを頭に付けた小さな女の子だった。


「おきゃくさま、おへやにあんないします! わたしについてきて!」


「こらリマッ!! 最後の方間違えてるわよ! ついて来てください。だっ!!」


「あっ! ごめんなさい。おばあちゃんっ!!」


「アンタはお客さんの前でなんて事を言っているんだい! まったく! 礼儀ぐらいつつしめとあれだけいってんのに」


「ウウウゥゥゥゥゥゥッ!!?」


お婆さん、話し方変わってない? その話し方が素なの? しかも、この子泣きそうになってるよ・・・・・・仕方ないなぁ。


「いいですよ、これぐらい。この子まだ子供ですから、私は気にしませんよ」


リマちゃんは俺を明るい顔で見てくるが、お婆さんの方は俺を睨んでくる。


「・・・・・・お客さん、この子は甘やかすと直ぐに調子に乗るからさ、あまり甘やかさないでおくれ」


「まぁ、はい・・・・・・善処します」


俺はお婆さんに苦笑いしながらそう言った後に、リマちゃんに顔を向け手を差し伸べる。


「さ、リマちゃん。私をお部屋に案内して」


「うん!」


リマちゃんは元気に返事をした後に、俺の手を握りなぜか引っ張り始める。


「こっちだよ! ついてきて!」


「ハイハイ、おに、ゴホンッ!! ゴホンッ!! ・・・・・・お姉さんはリマちゃんにちゃんとついて行きますから、かさないでね」


物々しい視線を背に感じながら、楽しそうに俺の手を握っているリマちゃんに客室まで案内してもらう。


俺の事を気に入ってるのか、やんちゃなのか分からないけどグイグイ引っ張って行くんだよな。



「おねえちゃんのへやはここだよ! じゆうにつかっていいけど、ものをこわしたら、べんしょうだからきをつけてね。へやにいるときはゆうしょくになったらよびにいくよ」


「そう、分かった。ありがとうリマちゃん。偉い偉い」


そう言いながらリマちゃんの頭に手を置き頭を撫でるとリマちゃんは嬉しそうに目を細める。


「エヘヘ、くすぐったい・・・・・・」


なにこの子、可愛すぎるっ!! そんな仕草をされるともっと撫でたくなってしまうじゃないかっ!! これは母性本能ってやつなのかっっっ!!?


「リマァーッ!! いつまでかかってるだい!? 早くこっちを手伝なぁっ!!」


「はぁーい! おばあちゃん! それじゃあおねいちゃん、リマもういくね!」


「・・・・・・うん、リマちゃんお手伝いがんばってね」


撫でていた右手を離すと、今度は手のひらを見せて横に振る。


「うん! リマ、おてつだいがんばる!」


と言いながら勢いよく部屋を出て行ってしまった。その様子を見ていた俺は受付けにいたババァへの怒りが沸き上がってきた。


チクショォォォオオオオオオッッッ!!? あんのババァッ!! 俺の幸せな時間を取りやがってぇぇぇ・・・・・・今度チャンスがあったら邪魔出来ないようにしてやるッッッ!!


「ハァー・・・・・・でもここで怒ってても仕方ない。それはそうと今後の予定を考えないといけないな」


とりあえずベッドに座ってっと。て、このベッドやわらかいぞ! 前に泊まっていた宿とは大違いだっ!! 寝そべてたしかめてみようか。


「うわぁー! ふかふかで気持ちいい! それに良い匂いもする! ぼく、フ◯ーファ」


・・・・・・うん、ツッコミ入れてくれる人がいないと寂しいものだ。今実感した。


ほんのちょっとの間だけベッドの気持ち良さを身体堪能した後に、起き上がって今度はちゃんと今後の方針について考え始める。


「さて、今度の予定はリードガルム国の王都で活動してお金を貯めて家を買う予定だったんだけど、バルデック公爵様のおかげでその予定が早まった」


俺はグルベルド事件の後に地図や資料などを読みあさり自分なりに考えた結果。レーベラント大陸のほぼ中央にあるリードガルムここに拠点を作ってから色んなところへ行く予定を立てていた。


「旅の予定はリードガルムの色んな所を見て回ってから、隣国の帝国と共和国と魔国を見て回る」


順番はその時の気持ちで決めれば良いとして、その拠点になる場所、つまり家を買わなきゃいけない。だから自分が思い描く理想の家は・・・・・・。


「治安が良い土地で一軒家が理想的」


とにかく、宿泊中に家を買わないとダメだ。不動産屋に行って物件を紹介して貰おう。


「・・・・・・ん? そう言いえば」


そもそもこの世界で不動産屋を見た事がないなぁ。どうすれば良いんだろう?


「・・・・・・そうだ! 総合ギルドなら知っているはず!」


そうとなれば明日オークの報酬ついでにギルド長に不動産屋がどこにあるのか聞いてみよう。


クゥゥゥ〜〜~・・・・・・。


「・・・・・・そう言えば昼食を食べてなかった。調理場を借りられそうにないから、カップヌー◯ルでも出して食べようかな」


メニューを開いた後にストアの食事欄を開いて、カップ◯ードルを購入して電気ポットとミネラルウォーターと共に出す。


しかし、いくら神様がこの世界で使えるように改造したとは言え、電気ポットのコンセントがないのは違和感があるなぁ。地球にこれがあったら、いくらぐらい電気代が安くなるんだろう?


そう思いながら電気ポットにミネラルウォーターの中の水を入れた後に、蓋を閉めて電気ポットのスイッチを押す。その後にカ◯プヌードルを手に取り蓋を開けようとしたら、いきなりドアが開け放たれた。


「おねえちゃーん! おねえちゃんにあいたいおきゃくさまがきてるよ!」


リマちゃんに礼儀を教えるのは後で言うとして。


「お客ってどんな人なの?」


「うん! きしだんさん!」


騎士団? 多分、グエルさん達が会いに来たんだ。


「その人達は私の知り合いだから今から会いに行くよ」


「うん! ん? ねぇ、おねえちゃん。それなぁに?」


リマちゃんはカッ◯ヌードルを指を差し聞いてきた。


「あ、これ? これは食べ物でね。蓋を開けてお湯を入れるだけで出来る優れ物だよ」


「へぇー! そうなんだ! おねえちゃん、たべるの?」


「食べようと思っていたけど、先に騎士団さん達に会わないとね。リマちゃん、連れていって」


「はぁーい!」


リマちゃんは俺の手を取ると引っ張り始める。


「こっちにいるよ!」


「こらこらリマちゃん。私はお客さんだよ。お客さんにそんな接客をしていいの?」


リマちゃんはピタリと止まり、なぜか不安そうな顔をしながら俺の顔を見つめてくる。


「・・・・・・よくない」


「なら私に言う事があるよね?」


「ごめんなさい」


うん、素直に謝れるなら良しとしよう。


「うん、謝ってくれたから許してあげる。リマちゃん、今度から気をつけてね」


そう言いながらリマちゃんの頭を撫でる。


「うん! リマ、きをつける」


「それじゃあ、騎士団の所に連れてってちょうだい」


リマちゃんと手を繋いでいるけど今度は急かすような事はしないまま、俺を店の入り口に連れて行ってくれる。

カウンター方でなにか話し声が聞こえてくるので顔を向けてみると、そこにはグエルさんとエイミーさんとキースさんとリズリナさんが立っていたが、


「あんたはいったいなにをやったんだいっ!!? コイツを取っ捕まえるんなら早くしておくれ!!」


ちょっ!? お婆さんが犯罪者扱いしてくるっっっ!!?


「違いますよ。僕達は彼女と知り合いだから会いに来ただけですよ」


キースさんが俺のフォローしてくれる。マジで有り難いよ・・・・・・。


「そうかい、なら安心だわ。こっちに迷惑がかからないなら好きにしな」


お婆さんはそのままそっぽ向き新聞を読み始める。


お婆さん、さっきの営業スマイルはどこへ行った?


「久しぶりだなエルライナ」


俺がそう思っている中、グエルさんは話しかけながら手を差し出してくる。


「お久しぶりです。グエルさん」


俺はそう言いながら差し出してきた手を取り握手をする。


「ベイガー達の話しは聞いた。礼を言う、ありがとう」


「はにゅっ!?」


俺はその言葉と共に体を硬直させてしまう。


「エルライナさんは相変わらず照れ屋ですね。でも、そこがアナタの可愛いところなんですけどね」


「あうううぅぅぅぅぅぅっっっ!!?」


今度は脱力をしてしまい床に座り込んでしまう。


「キース! エルライナちゃんをからかっちゃダメでしょっ!!」


「僕は正直に彼女を誉めただけですよ?」


「い、いいんれすぅ・・・・・・わらしがぁ、わ、わるいんれす・・・・・・」


俺はそう言いながら、なんとか立ち上がり首を左右に振る。


「しょ、しょれよりもどうひて、わひゃ・・・・・・私がここにいると分かったんですか?」


「ああ、それはですね。アイーニャ様にアナタの居場所を聞いたんです。そしたらアイーニャ様はここにいるかもと答えて貰えたんですよ」


キースさんがこっちを向いて答えてくれる。


あ、なるほどね。


「あのねエルちゃん。エルちゃんは食事は済ませたの?」


「リズリナさん。これから済ませようと思っていたんですけど」


「じゃあ、私達と一緒に食事しましょう! いいよね?」


食事の誘いかぁ・・・・・・まぁ断る理由はないから。


「良いですよ。 グエルさん達と色々と話したい事があるのでついて行きます」


「よし! そうと決まれば付いて来てくれ! 美味い店を紹介してやるな! 後、お前の分は俺が払ってやるから楽しみにしてろよっ!!」


えっ!? グエルさんのおごりなの?


「グエルさん、それはちょっと悪いですよ。自分の分は自分で払います」


「いいや、お前にはベイガーの礼があるかな」


「はぁ、そう言うのでしたら分かりました。お婆さん、鍵です」


俺はポケットに入れっぱなしにしていたカギをお婆さんに渡すと、つまらなそうな顔をしながら受け取ってくれた。


「あいよ。楽しんできな」


「それじゃあ、グエルさん行きましょう」


「おう! 付いてきてくれ!」


エルライナはグエル達と一緒に宿を出て飲食店を目指して歩いて行くが、自分達に危機がだんだん迫っているのをまだ誰も知るよしもなかった。

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