第31話 君の食べてる表情が見てみたい──

 妻とは見合い結婚だった。

 婚礼の席で白無垢姿の妻は、料理にも酒にも殆ど手をつけなかった。それは仕方のないことだったので、当時は特に何も思わなかった。


 あれから3年──。


 料理は上手いが、食べる姿は恥ずかしくてけっして見られたくないという妻とは未だに外食を一度もしたことがない。

 そして家での食事姿も見られたくないと言うので、結婚早々、ラーメン屋にある一人用のついたてとソックリなものを、リビングのテーブルの、妻の座る席の前と左右に作ってやった。

 食べる瞬間にはその中に顔をすっぽりと入れるので、いつもどんな表情(かお)で食べているのかこちらからは全く見えない。

 その上、自分は偏食が酷いからと、いつも別のメニューを食べているのだ。あぁ、覗きたい…。


 今夜は食べ始めてすぐに、そのついたてからゴロゴロと何者なのか全く区別のつかない音が聞こえてきた。気になる…。


 俺は慎重に耳をそばだて、いつもの犬まんまを食べた──。

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