梅田zombieバッティングセンター

@iwao0606

第1話

週一度仕事帰り、彼女は梅田のバッティングセンターへ通うという。

タイトスカートにヒールと言った具合で、いかにも会社帰りのOLだ。とてもバッティングセンターに来るような格好ではない。

「一番はやはりストレス発散ですかね」

彼女は自販機にお金を入れながら話す。

60回分。それが彼女のルールだ。

「あまりたくさん打ちすぎても、雑になるだけなので、60回分って決めているんです」

集中力の把握、これが長く続ける秘訣かもしれない。

お目当てのコースに並ぶと、係員が扉を開いてくれる。バッターボックスに立てるのは、ひとりだけだ。ガラス越しに取材班は撮ることになった。

「やはり打ちもらしがあったら、困りますからね。安全を考慮してのことです」

彼女はマイグローブをはめる。以前は貸し出しされていた軍手を使っていたが、衝撃で手が痺れるのを防ぐために買ったそうだ。

「いってらっしゃいませ、頑張ってください」、と係員が軽やかな声で送り出してくれるのは、励みになると彼女は言う。

長い髪を高くひとつにまとめた彼女は、黒のバットを手にする。女性用や子供用の軽いのは、使わないのが彼女のこだわりだ。

「軽いとどうしても打ち負けてしまいますからね」

マシーンに回数券を入れれば、すぐにゲームが始まる。

彼女はしっかりと電光掲示板を見据えた。回数分60と表示されていたが、すぐに一回減り、ゲートが開く。

よろよろとゾンビが、出てきた。

それに合わせて彼女はタイミングをよく、きれいにフルスイングを決めた。惚れ惚れするような振りだった。

ブチャァと柘榴が割れるような音が響き、ゾンビの頭が吹っ飛ぶ。

残念ながらバックヤードには届かず、ころころと転がるばかりだ。

それでもやったぁと跳ねる彼女は、第2回目に挑む。

しかし、今度はあたりが悪いのか、頭がひしゃげるだけだった。もう一度振りかぶって、ようやく頭を飛ばす。

「チカラが足りないせいか、打ち負けてしまうのが、残念です」

彼女は悔しそうな顔をする。

ゾンビの頭を飛ばすのが理想だが、うまくいかず頚椎が折りきれないときもあるのだ。

「でも、練習あるのみです。いつかホームランを打ちたいですね」

彼女は少し照れ臭そうに笑うのだった。

隣でゾンビを打ち損ねて喰われている客など知らぬ、それはそれは眩しい笑顔で。

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