第6話 連絡がきました。

『今、バイトちゅー』


 ピコンっと電子音がなり、スマートフォンが独りでに起動した。機械のくせに知能を持っているかのようで生意気だ。断じて雨籐さんが生意気なわけでは無い。


 カフェに行かない日はよく雨籐さんからこんな風にLINEが送られてくる。


『暇なの?』


『ひまー。何か面白いことして!』


 夕陽が差し込まれたオレンジ色の部屋で一人、僕はスマートフォンの画面に向かって全力で変顔をした。


『はい、した』


『うわ。いじわる』


『バイト中にLINEって、マスターは怒んないの?』


『たまに怒られるよ!』


 怒られるんかい、と画面に向かって呟いた。


 それと、相変わらず返信が早い。即既読、即返信が雨籐さんのモットーだということは把握済みだ。つまり、私は暇人です、ということを伝えたいのだろう。


『さつきちゃんは仕事しすぎだ、もっとサボれってね。笑』


 僕が返信する前にもう一文送られてきた。流石、マスターだ。雨籐あまとうさん以上にぶっ飛んでいる。


『え、雨籐さんって仕事してたっけ?』


『してんだよ、意外と!』


 ドキッとした。


 いきなりヤンキー臭漂う文面がポンっと現れたのだ。ドスの利いた姐御あねごの声が鮮明に脳内再生される。


『る。してるんだよ、意外と!』


 すぐさま訂正文が送られてきた。


 即既読、即返信、などといっているから誤字脱字が発生するのだ。今頃、雨籐さんは耳を赤くして俯いているのだろうか。想像すると少しだけ可笑しい。


『あ、お客さんきた』


 何を送ろうか迷っていると、雨籐さんから離脱する意思をほのめかした文章が送られてきた。


『バイト、頑張って』


『ありがとー!』


 僕はスマートフォンを机へ置き、読みかけの『キミとキスして異世界へ迷い込んだけど、なぜかキス魔として追われる羽目になりました 1巻』に手を伸ばす。


『あ、あと』


 まだ何か言い足りていないことがあるのだろうか。画面のほうをじっと凝視した。


『罰ゲーム、思いついたからまた後で!』


 なん、だと……覚えていやがったのか。


 以前、こっち向いてほい――流行っているのかどうかもよく分からないゲーム――をして、僕は罰ゲームを受けることになったのだ。


 雨籐さんと連絡先を交換する、そんな罰ゲームだったらどんなに平和だったことか。僕の希望なんていとも簡単に崩壊し、罰ゲームは後日発表と言うことになっていた。


 やけくそ気味に言ってみた結果、案外あっさりとLINEを交換できたのはよかったけれど。

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