第3話 もしかすると好きな気持ちがバレたかもしれません。

「ねえ。ダタローってお金持ちなの?」


「超貧乏だよ。いつから僕がお金持ちだと錯覚していた?」


「いや、そんな決め顔されても困るよ。うちのカフェに物凄くお金落としてるなーって思って」


「ああ、まあ」


 ここ一か月は週4ペースでカフェ『アブ・ノーマル』を訪れている。一度の来店で500円は消え、それに加えて週に10冊のラノベを読破するのだ。雨籐あまとうさんが疑問に思うのも無理はない。


 それに、ダタローと呼ばれるのにも慣れてしまった。寧ろ、一人の人間として彼女に認識されている点で少しだけ心地良かったりもする。


「もしかして、その歳でもう……専業主夫?」


「法を犯しちゃってるよね、それ。まだ16歳だから」


「へへー、私はもう結婚できまーす。羨ましいでしょ?」


「え、結婚するの? できちゃった婚?」


「違うわ!」


 良かった。静かに胸を撫でおろす。


 雨籐あまとうさんは頬を微かに膨らまして、目と眉にムッと力をこめる。組まれた腕の上にたゆゆんと乗っかる豊満な胸がたいそう柔らかそうだ。


 男子高校生を誘惑する脂肪から意識を逸らしたくて、咄嗟にテーブルの上に置かれているカフェオレをくいっと流し込んだ。


「もしかして」


 雨籐あまとうさんは口角を上げて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「私に会いたくて来てるとかー?」


「っげほ、ごっごほっぐほお」


 思い切りむせてしまった。カフェオレが肺のほうへ流れてしまいそうになったのだろう。危うく死ぬところだった。


 驚きすぎて心臓がバクバクと爆音を鳴らしている。雨籐さんに会いたいと心のどこかで思ってしまっている自分がいるのだから、図星なのだ。


「い、いや。そういうのじゃ」


 雨籐あまとうさんの愉快な笑顔を見ていると、どうしても強がってしまう。彼女に遊ばれているという感覚がぬぐえないからだ。


「まー冗談冗談。私は楽しいからこれからもいっぱい来てね。それこそ貧乏になっちゃうぐらい! なんちゃってー」


 ごゆっくりどうぞー、と言って雨籐あまとうさんは軽く会釈する。僕は少しだけ拳を握った。


「楽しんでるよ、多分雨籐さんよりも」


「え?」


「これからも来るよ。この時間が好きだから」


「え……そ、そうなんだ」


 彼女は伏し目がちに呟いた。頬の辺りがほんのりと赤みを帯びているのは化粧のせいだろうか。そんな気もするし、そうじゃない気もする。

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