第二十七話 三姉妹は墓穴を掘る
阿呆共によって貴重な時間を失ったが、なんとか午前中のうちに出発できた。
「ねぇ、麻袋持ってない?」
「何に使うんだ?」
「肉をおびき寄せるの」
俺たちは北門から街の外に出て北西の森に進み、ちょうど森の入口に差し掛かった頃、リアが肉をおびき寄せる作戦を提案してきた。
「この入口に生えている花は月光草って言うんだけど、別名の幻惑草っていう名前の方が有名かな。月光草の茎と葉は薬に使われるの」
「へぇー。どんな薬?」
「子どもの時はお母さんに女の子に優しい薬って聞いてたけど、本当は媚薬だったって大人になってから知ったの」
リアのお母さん……。誤魔化し方が下手すぎではないか? それに優しい薬ではない気がするんだが……。
「お母さんは薬師だったからいろんな薬を作って売っていたの。それでね、家の格によっては女の子にとって大変な仕事をしなくちゃいけないこともあるから、お母さんは何もかも忘れるための薬を作ったんだってお父さんに聞いたの」
家族の話をしているときのリアは、満面の笑みで楽しそうに話していた。リアが奴隷商人に捕まっていたのは親族に売り飛ばされたと言っていたが、リアの家族が売り飛ばしたわけではないようだ。それと家の格とか気になることを言っていたが、今はビッグボアを獲ることに集中しよう。
「あっ! 話が逸れちゃったね。それで月光草だけど、人間は薬にしないと効果はないけどモンスターは月光草自体で効果があるんだって。だから、使用後は風に気をつけて燃やさないと危険だって教わったの」
「なるほど。じゃあ麻袋に入れて軽く潰した後、振り回すだけでモンスターが寄ってくるってことか?」
「その通り!」
俺はリアの素晴らしい作戦に賛同し、軽く潰した月光草が入った麻袋を振り回しながら森に入った。このとき
作戦は至ってシンプルである。
まず俺は麻袋を持って囮となり洞窟を目指す。麻袋の焼却場所も兼ねている。リアは迷彩機能を使用して俺と戦乙女の中間地点で狙撃態勢を獲る。ちょうど三角形になるような位置取りである。援護と攻撃の両方が可能になるわけだ。
あとはビッグボアが現れてくれることを祈るのみである。
◇◇◇
「ねぇ! もう一人はどこに行ったのよ?」
「私に聞かれても分かるわけないでしょ!」
「ストローさん、ウッディーさん、モンスターの数が増えていませんか?」
アルマたちをつけていた戦乙女は、リアが突然消えたことに驚き動揺していた。それに加え、普段よりもモンスターの数が多くなっていたのだ。まだ森の奥ではないというのに。
ビッグボアが目撃されている森は
ちなみに、今回の依頼は森の入口付近にビッグボアが出たことで、ギルドに依頼が出されたのである。
それはさておき、戦乙女たちは戦士ランクであるので入口付近のモンスター程度は余裕だ。しかし、それはモンスターの数にもよるのだ。そして現在の数は対処可能な数の上限ギリギリだった。
「ブリッキー、盾の魔法具を準備しとくのよ! 最悪アイツに向かって走るわよ!」
「はい――「プゴォォォォォォォォ!」」
ブリッキーが盾を握り締めストローの指示に返事をした直後、戦乙女の後方から空気を震わす咆哮と地響きが近づいてきた。
「ウッディー、ブリッキー! 走るわよ!」
「分かったわ!」
「はい!」
戦乙女の三人は前方にいる人物に向かって走り出した。その人物は右手に持つ麻袋をグルグルと回し、洞窟に向かってゆっくりと歩いている。
「まだ気づいてないわ! はぁはぁっ……。アイツよりも先に……洞窟の中に入って……魔法具を起動するの……。あとは籠城するだけよ!」
「了解!」
「は、はい!」
ストローの作戦はアルマよりも早く洞窟に入れることが肝で、それまでに追いつかれないことを前提にしている。でも戦乙女の三人は太っている上に盾という重装備を持っている。当然、アルマに追いつくはずはなかった。
「プッッ……プゴォォォォォォォォー!」
さらにリアの援護という名の嫌がらせによって、尻に矢を撃たれたビッグボアは痛みで加速する。
「あっ! アイツが先に入った!」
「でも……はぁはぁ……囲まれているから……洞窟に……入るしか……ないわよ」
「も……もう……無理ですー……」
洞窟の入口はそこまで大きくはなく、ビッグボアから逃れるためには洞窟に入るしかなかった。
「チッ! 入るよ! はぁはぁっ! あと少しだから……頑張るのよ!」
「プゴォォォォォォォォォォォッ!」
しかし、二人が返事をする前にリアの二射目が放たれ、三人まとめてビッグボアの突進を喰らい、洞窟の中に吹き飛ばされた。このときブリッキーが咄嗟に盾の魔法具を起動したことで、三人とも怪我は負ったが意識を失うことはなかった。
「イッタァァァァァァァー!」
「ブリッキー、助かったわ!」
「よかったですー!」
ストローだけが痛がっているのは、壁に打ちつけられたときに他二人のクッション役も兼ねたからだ。
洞窟内に入ったことで少しは余裕ができた戦乙女だが、全力疾走のせいで膝が笑ってしまい立つこともできない状態で、アルマが燃やしていった月光草はまだ燃え尽きてはおらず、洞窟内に匂いが充満していた。
それによって、ビッグボアが何度も洞窟の入口に向かって突進を繰り返している。なお当然だが、匂いに釣られているのはビッグボアだけではない。ビッグボアよりも小さな争乱級モンスターも森には存在し、同じように匂いを辿って洞窟に向かっていたのだ。
結果、戦乙女がいる洞窟とその周辺はスタンピードが発生していた。
「何よ……これ……。アイツは……? アイツはどこに行ったのよ! それに何をしたらこうなるのよ!」
「今はどうでもいいでしょ!? そんなことより、出口が他にあるかもしれないわ! 探しましょう! ブリッキーは盾で防いでいて!」
「は、はい!」
徐々に迫る興奮状態のモンスターの軍勢を前に死を予感したストローは取り乱したが、ウッディーはアルマの大きさが通れるような隙間があると信じて洞窟内を探索し始める。
だが、アルマは【異空間倉庫】内に変身セットをしまい、《透過魔法》を使って洞窟から出ていたから隙間などない。
ちなみに、脱出後のアルマは装備についた月光草の匂いを取り除く作業をしている。戦乙女が作ってくれた大事な作業時間を無駄にすることはないのであった。
「出口……出口は……あったの?」
「……ないわ。残された手段は三つの盾の魔法具を使った持久戦ね……。負けたら死ぬけど……」
「そろそろ一つ目の盾が限界です!」
「覚悟を決めるしかないようね……。行くわよ! 戦乙女の力を見せてやるのよぉぉぉ!」
「「おぉぉぉぉぉぉぉーーー!」」
重量がある盾を持ってくるために他の装備を減らしたことで、攻撃手段は長剣一本と予備のナイフだけである。ブリッキーが盾を構え、二人がヒットアンドアウェイを繰り返す戦法で持久戦に挑むのであった。
◇◇◇
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