第二十八話 肉は猪と牛を希望
俺は洞窟の仕掛けが終わった後、リアと合流して一緒に装備についた月光草の匂いを消していた。必要な物は月光草の花で、花をすり潰して搾った汁を水で薄めて拭き取ることで匂いが消えるらしい。
せっかく
「それにしても三匹の豚は狼じゃなくて猪に襲われるなんてな。異世界は不思議がいっぱいだ」
「アルマの世界の豚は狼に襲われてたの?」
「そうだ。最後はレンガの家で籠城することになるけどな」
「じゃあ最後は似てるねー!」
リアの言うとおりである。彼女たちは洞窟の中で籠城しているのだから。
「もうすぐで月光草の効果が消えるけど、作戦はどうする?」
「リアはさっきみたく狙撃で目を狙ってくれ。俺はポールアックスと槍で攻撃するから。あと他のモンスターも頼むな」
「任せて! いろんなお肉が並んでるもんね!」
洞窟の周りにはビッグボア以外にも食べ応えがありそうなモンスターが集まっており、お肉愛が止めらないリアには御馳走が並んでいるように見えているようだ。
もちろん、俺も久しぶりの食事である。
多くの守護者が死んでいるのか森には
どんなスキルが手には入るか今から楽しみだ。
「じゃあそろそろだから隠れるね。ボアとブルは欲しいな!」
「任せろ!」
リアの希望は猪肉と牛肉のようだ。最低でもこの二つは確保しなくては。
全てはリアのお肉愛のために。そしてモフモフのために。いざ出陣。
◇
匂いの効果が切れるまでに二つの魔法具に魔力を装填し、ポールアックスと槍の切り替えができるようにしておく。ついでに、グリーンオーガからもらった巨大なパルチザンもセットして準備完了だ。
「ボアさんにあいさつしに行くか。アイツが退けば他のモンスターが洞窟に入れるから、戦乙女も実力が発揮できて喜ぶだろう。あと、装備が無駄にならなかったって言っているのは間違いないだろうな」
俺はスローイングナイフを投げた後、《念動魔法》で動かしてビッグボアの眉間に突き刺した。ちょうど洞窟に突進しようとしていたビッグボアは驚いて動きを止めた。ただ、突進攻撃をするビッグボアの額は頑丈で、ナイフは刺さることなく弾かれていた。
でも興味は引けたようで、突進をやめて俺に向き合い睨みつけている。
ポールアックスを構えた俺を敵と認識したようで、俺に向かって突進攻撃を繰り出した。
「プゴォォォォォォォォ! ゴッゴッ……」
突進攻撃の直後、見計らったように放たれたリアの矢が右目に突き刺さり、ビッグボアは痛みのせいで立ち止まり体を揺らす。
暴れている巨体の猪の足元ほど危険な物はないが、物理攻撃に耐性がある俺には鎧が壊れる心配しかなく、ほとんど躊躇うことなく首筋にポールアックスを振り下ろした。
「堅いな……」
体重を乗せた会心の一撃だったのに倒しきることができなかった。でも出血するほどの傷を負わせることには成功している。
ポールアックスをすぐに槍に持ち替え、傷口に向かって突き刺す。しかし読まれていた攻撃は避けられ、牙による横薙ぎが俺を襲う。
おっと。でも、俺の勝ちだ。
《念動魔法》で槍を動かし傷口に突き入れる。ビッグボアも体を揺らして槍を振り落とそうとするが、ボアの頭上まで移動した俺は頭頂部に大槌を振り下ろす。切り裂けなくとも膝を折ってくれれば、ビッグボアの重みによって槍は自然に深く突き刺さるのだ。
「プ……プゴォォオ……」
む……無念だ……。と聞こえた気がするのは気のせいだろうか。
ちなみに、俺が一対一でビッグボアと戦えているのはリアが援護してくれているからだ。強そうなモンスターには牽制攻撃をし、仕留められそうなら仕留める。森の中に隠してある予備の矢で補充しながら狙撃を繰り返していた。
そうでなければ、チートスキルとチート装備を駆使してもスタンピードの鎮圧は無理である。
「とりあえず、槍が入っていたところにビッグボアを入れておくか。それでも空きは二つだけか」
守護者として素材の価値を保ちながらの狩りは大変であるが、今回のビッグボアは上出来だと思えた。だからこそ、荒らされる前に回収しておかなければならないのだ。
「次は牛か。あの角に当たるのはダメだな」
曲刀が二本頭についているような牛は、リアの牽制攻撃を全て角で切り落としていた。
どうしよう……。矢の速度に追いつける牛に近づき、角に当たらないように攻撃するの? 無理じゃないか?
「仕方がない。嫌がらせ攻撃第二弾。チャクラム乱れ打ち作戦!」
ポールアックスをしまい、五枚のチャクラムを全て出す。投げて《念動魔法》で補正して移動するを繰り替えこと五回、六回目を取り出すフリをすると牛は跳んで避けようとした。
「キタァァァァー!」
――《光弾》。
空中では踏ん張りが利かず避けることはできないはず。そこを俺が持つ最速の攻撃を喰らわせる作戦だった。結果、当たった。でも頭を振って避けられ、頭を掠った程度の傷だったのだ。
「想定内だ!」
リアの矢を切り落とせる牛が魔法具を向けられて行動しないはずがないのだ。予想していた俺はチャクラムと一緒に投げていたスローイングナイフを《念動魔法》で動かし、死角から牛の顎と首に向かって放った。首は予想通り堅かったが、下顎は柔らかく突き刺さり、内側から喉を切り裂いた。
そこで初めて膝を折って苦しむ牛に向かって再び光の魔法具を向け、《光弾》を放つのだった。
「なんとか……。コイツもしまっておこう」
チャクラムやスローイングナイフも回収し、光の魔法具に魔力を再装填する。
「さて、目標は達成したけど残すのはもったいないし、お肉を確保しなくちゃな!」
再びポールアックスを握り締め、リアが牽制しているモンスターの群れに突っ込むのだった。
◇
「ふぅ……。やっと終わった……」
「疲れたぁぁー! 久しぶりの弓だったから、あんまり当たんなかったー!」
えっ? 額のド真ん中に刺さっている矢が目立つけど……。これで満足できないのか。
「じゃあ一番疲れる仕事をしよう」
「何するのー?」
「俺のスキルは種類の数で収納されるから、一括りでしか収納できないんだよ。それで今空いている枠は三つだけ。全てを持って帰るには大中小で種類分けしなくちゃいけない」
「どうやるのー?」
この種類方式がなかなか悩ませてくれるのだが、今の解決策は限られている。
「まずビッグボアや牛君たち大きいお肉は足をロープで縛って繋げていく。中くらいのは種類ごとに木箱に詰めて、木箱の端に開けたい穴にロープを通していく。小は革袋に詰めて木箱にまとめる。これでいく!」
「だから道具店でロープや袋を大量買いしてたのかぁ」
「その通り! 今からボアとブルを出すからロープで縛っていって。俺は小をやるから!」
「はーい!」
俺が楽をしているわけではない。小の方がグロかったから俺がやるのだ。それについでに洞窟の中を見に行く予定である。できれば全てもらっていく。
しばらくするとリアから大を縛り終えたと聞いたため、獲られないように収納する。リアはそのまま中に移り、俺は洞窟の中を確認しに行く。
「生きてますかー?」
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