第二十二話 本日は爆買い日和

 たまたま入った武具店で大量購入することになり、そろそろお金を払って店を出ようと思っていたところ、店主が「おいしい話がありますよ」とでも言いたいように、辺りをキョロキョロしながら近づいてきた。


「お客様! ここは武具店ですが、少しだけ魔法具も取り扱っているのです。他の魔法具店のような高威力の魔法具はございませんが、この店にしかない魔法具があるのです。それも一つだけ。ちなみにここだけの話ですが、この街の魔法具店はどこも同じような物で大した物はございません。ですから、見るだけみてみませんか? きっと気に入るはずです!」


 そう言われると見てみたくなる。俺は魔法具を見せてもらうことにした。


「こちらです。この魔法具は民級までしか使用出来ない代わりに、火水風土光闇の基本六属性の全ての民級魔法を使用できます。それぞれの色の魔石にダイヤルを合わせて魔力を流すだけです。いかがでしょうか?」


 懐中時計型の魔法具は蓋を開けると六色の石がはまっており、小さな矢印がついたダイヤルを使用したい魔法属性に向けられるようになっていた。しかも魔石を交換すれば半永久的に使用できるそうだ。俺にはあまり必要ないが、リアがいるため旅の最中の火起こしや給水では活躍しそうである。


 六つの魔法具が一つにまとまっているから、ごちゃごちゃしないで済むし十徳ナイフみたいでかっこいい。リアも気に入っているみたいだから、リアに渡してポーチに出番を作ってあげよう。


「もらおう!」


「ありがとうございまーす!」


 店主の気分がよくなったことを確認した俺は、ずっと気になっていたことを聞くことにした。


「店主はアーマードディアが好きなんですか?」


「はい! その名に相応しく武具にする素材の質もよくて肉も美味しいです。さらに格好いい。三拍子揃ったモンスターはあまりいませんよ」


「お肉美味しいのかー! アルマ、お肉獲りに行こうね!」


 アーマードディアの肉が気になって仕方がないリアは、まだ手に入れていないアーマードディアの肉をどうやって調理するかを店主に聞いていた。店主は美少女の笑顔を見て気をよくしているようで丁寧に説明していた。


「お肉談義の最中悪いけど、革鎧に詳しい店主にオーガとかグリーンオーガの革鎧のことについて教えてもらいたいのですが?」


 手元にある素材の中で、倒すのに苦労したモンスターの素材について聞いてみる。特にグリーンオーガについての情報は絶対に欲しい。運が良かったから勝てたのであって、普通に遭遇していたら全力で逃げていただろう。


 つまり、グリーンオーガほど強いモンスターの素材が安いはずがないし、ギルドに渡したらいろいろ詮索されそうだと思ったのだ。


「オーガですか。まずは普通のオーガの場合はアーマードディアと同様に凶禍級なのですが、アーマードディアに比べれば防御力が弱いですね。ただ、オーガの方が使用できる革の量が多いため男性用の革鎧として人気です。値段も少し高いだけで済みますので、少しだけ背伸びをすれば購入できると言われています」


 オーガは売っても大丈夫そうだな。倒せたかどうかの問題で詮索されそうだけど、装備のおかげって言えばなんとかなるかも。


「それでグリーンオーガですが、こちらは災害級ですから別格です。先ほど余裕ができた頃に購入する高級な革鎧があると説明しましたが、まさにこのカラーオーガの革鎧が該当します。何故ならば、色オーガの革を腕のいい職人が革鎧に仕立てますと、魔法具のような効果が付与されるそうで、高ランク守護者の目標の一つとなっております。まぁそもそも災害級のモンスターを狩れるのならばの話ですがね」


 これはヤバいやつだ。まだ災害級とかはよく分からないが、「倒しました」って言っても絶対に疑われる。というか、疑われない方が怖い。


「仮に魔法具の効果付きの革鎧を購入する場合はいくらくらいしますかね?」


「普通の仕立てでさえ、大金貨三枚はすると聞きます。魔法具の効果が付与されれば倍以上は確実でしょう」


 俺の高級鎧よりも高いじゃん。……決めた。将来、リアが欲しいって言ったら譲ってあげよう。それまでは【異空間倉庫】から出さないようにしよう。あとでオーガセットを二セットに分けることを心のメモに書き込み、商品の状態と値段の確認をした。


 ちなみに、矢がないことに気づき矢筒とともにあるだけ買った。というのも、魔力を込めて放つだけで擲弾てきだんのような効果を発揮する矢も売っていたからだ。【異空間倉庫】の一枠をリア用に使えばいいなので、消耗品である矢は買えるときに大量に買っておくことにした。ついでに、ここで買える痺れ薬や眠り薬も追加で購入した。薬は基本的に薬屋での購入なのだが、狩りで使用する薬のいくつかは武具店でも取り扱っているそうだ。


 結局、全ての商品を並べるとすごい量になった。さすがに店主も心配顔だ。


 アーマードディアの革鎧一式にニーハイブーツがついて金貨七枚。迷彩機能付きの外套は金貨八枚。複合弓は金貨三枚。アーマードディアの角を使用したマチェーテは金貨三枚。魔鋼製の解体用ナイフはホルダー込みで銀貨三枚。金庫機能付きのポーチは大金貨一枚。懐中時計型の魔法具は民級しか使えないくせに金貨二枚もした。


 そして追加で購入した矢は、下は鉄貨五枚から上は金貨一枚まで様々な種類の矢を大金貨二枚分購入した。矢筒は色で選んだため銅貨五枚しかしなかった。リアの好きな緑と深い緑色である。最後に痺れ薬と眠り薬を一瓶ずつ銅貨三枚で精算終了だ。


 合計すると、大金貨五枚と金貨三枚に銀貨三枚と銅貨八枚だ。日本円に直すと五百三十三万八千円である。それとどの商品も端数を切り捨ててくれていた上に、武具のお手入れセットを一人ずつサービスしてくれた。それが少し悪い気がしたため、矢の仕分け用の大型の木箱と小さめの木箱を売ってもらい、大金貨五枚と金貨四枚を渡してお釣りは結構だと言った。


 大人になったら言ってみたいと思っていた台詞が、異世界で言えたことに内心で感動していた。


「お買い上げありがとうございます! 今後ともアーマード武具店をよろしくお願いします!」


「こちらこそ」


「アルマ、ありがとー!」


「どういたしまして」


 リアはお礼を言うと店主と一緒に荷物をまとめていく。俺はそれを【異空間倉庫】にしまっていくのだが、当然店主は目を剥いて驚いている。


「……他言いたしません」


 さっきの大金貨と金貨を思い出した店主は即座に判断し、他言しないと決めたようだ。その瞳には上客を逃がしてなるものかという決意が宿っていた。


「お願いします。それではまた来ますね」


「またのお越しお待ちしております!」


 こうしてアーマード武具店での買い物は終了するのだった。


 

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