第二十一話 上客はなんちゃって貴族
どうやら近寄って来た者はこの武具店の店主らしく、俺とリアは店主にロックオンされたようだ。
「こちらの商品は、凶禍級のアーマードディアの革を使った一式となっております。胸当ての部分には魔鋼を使用しているので、防御力も革だけよりも安心していただけると思います。さらに今ならなんと防水仕様のニーハイブーツもおつけいたしますよ。その代わり少しお高いですがね。ですが、革鎧なのに金属鎧に匹敵する防御力で軽く動きも阻害しない。これほどお得な革鎧は他にはございません!」
確かに肩当てなどの硬い部分は黒く、他の濃い茶色の革とは明らかに違って見えるのに同じ革であることは驚いた。というのも、同じ革で硬さや色も変えられるとは思わなかったからだ。そして心臓を守る部分の金属は魔鋼と言って、魔鉄を鍛えて作る武具に向いた金属らしい。
お買い得かも? と思うけど、それなら何で誰も買わないんだ? 一瞬でなくなりそうだけどな。
「素晴らしい商品なのに何故残っているんですか? 開店してすぐになくなりそうですが?」
「その……お値段が……」
「でもさっきお得って言ってましたよね?」
「えっと……こちらの商品は見て分かるように革鎧なんですが、革鎧を購入する者は初心者が多いんです。体力や資金の問題で。でも当たり前ですが、初心者に高級鎧を購入する余裕はありません。そして余裕ができた頃にはもっと高級な革鎧か、お客様のような金属鎧を購入するようになるのです。それ故、このような高級革鎧は貴族やお金持ちの御子息様が買って行かれるのです。……お客様のような」
ここでもか……。いっそのこと貴族ってことにしようかと思わないでもないが、バレたときが面倒だからやめた。
この鎧を選んだ宿命だと思って毎回訂正していこう。
「貴族ではなく平民です。そういう設定とかではなく、本当に平民ですので間違えないようにお願いします。本物に絡まれたくありませんから」
「そうなんですか……」
あからさまにガッカリしたな。平民には買えないと思っているからだろう。無理もないけど客の前では堪えて欲しかった。
「ねぇ、アルマ……」
「気に入ったの?」
「うん」
くそっ! めちゃくちゃ可愛いじゃないか。もじもじしながらの上目遣いは反則だ。このままじゃ貢ぐ男になってしまう気がするが、美少女のお願いに負けてしまうのは世の中の男の常識だろう。
「いいよ。他にもいいものがありそうだから、ここで他のものも揃えよっか。店主、この鎧を購入しますので他の人に買われないようにしておいてください」
「あの……失礼ですが……買えるのでしょうか? こちらの商品は金貨七枚もするんですが?」
あれ? 俺の鎧が大金貨五枚だったせいかあまり高く感じない。むしろ、普通の革鎧の価格が気になったほど安いと思う。命あっての物種で防具に金をかけなかったら、いったい何に金をかけるというのだろうか。
防具よりも武器が大事だと思う人が多いみたいだな。きっと「当たらなければいいんでしょ?」とか言ってるんだろう。そしてそういう人たちはあっという間にいなくなるということだ。
「貴族ではないですが、金持ちなので払えますよ」
おねだりされてもいいように、宿を出る前に大金貨と金貨を金庫から財布に移して置いたのだ。それに金庫には数十億円分が入っているから、金持ちであることは間違いない。
「は……はぁ……」
まだ信じてもらえていないようなので、現物を見せて安心させてあげよう。
「これを見てもまだ信じられませんか?」
【異空間倉庫】をあまり見せたくないため、懐に手を入れて財布を取り出すふりをした後、中から大金貨を数枚出して見せる。
「お客様ー! 店内の御案内をさせていただきますー!」
見事な手のひら返しだな。さっきまでは絶望の表情を浮かべていたのに、今は喜色満面の笑みを浮かべ揉み手をしている。
「じゃあ、お願いしようかな」
「はい! 喜んで!」
なかなか売れない商品が売れそうで、さらに大金を持った上客が現れたと判断したのか、そこそこ値が張る商品を次々に勧めてきた。もちろん、中には金額に釣り合った品々もあり、リアの買い物なのに俺も欲しくなったほどだ。
「アルマ、決まったー!」
店主の説明を聞きながらも自分が必要とする機能の物だけを選んでいたリアは、店主の言葉に左右されることなく欲しい商品を決めていた。
一つ目はフード付きの濃い茶色の外套だ。本当は俺と同じ黒に近い深緑色の外套が欲しかったらしいが、購入予定の外套の方が機能がよかったらしい。外套は魔法防御と防刃に優れ、魔力を流せば迷彩機能が発動するようだ。しかも俺のように制限時間はなく、留め具につけられた魔石に魔力を継ぎ足していくことで連続使用が可能とのことだ。
二つ目はリアの主武器の弓である。それも
三つ目は近接用の武器として山刀を選んだようだ。この山刀はガード付きもあって鞘に収まった状態だと、幅広のショートソードにしか見えない。だが、実際は刃渡り六十センチほどのマチェーテと呼ばれるものだ。これにもアーマードディアの角が使われているようで、黒い刀身を持った少し重量のある山刀になっている。
四つ目は近接用の予備武器兼解体用としてナイフだ。これは専用のホルダーで腿に装備するらしい。刀身は胸当てと同じ魔鋼製だから色は黒である。
最後に毒矢用の痺れ薬や眠り薬を固定できる緑と茶色の可愛いポーチだ。財布やギルドカードなどの小物入れなのだが、魔力を登録することで金庫になるらしい。登録した人にしか開けることはできないし、刃物で切ったり魔法で攻撃したりしても、ある程度の攻撃なら防げるようだ。
「……どうかな?」
「似合うと思うよ」
「そうじゃなくて……」
リアの質問に答えるも、再びもしもじしながらの上目遣いである。そのおかげでお金の心配をしていることに気づく。そして店主も揉み手をしてもじもじしながら上目遣いで俺を見ていた。
……気持ち悪い。
頼むからリアの真似はしないでもらいたい。おっさんの上目遣いとか見ても嬉しくないからだ。
「お金の心配はしなくてもいいよ。リアのお金は緊急時の備えとして取っておくって決めただろ? 装備を揃えないと仕事ができないし、お金なら山ほどあるから気にするな!」
本当は俺のお金ではないけど、人からもらった金ほど使いやすいという不思議な心理のおかげで気兼ねなく使える。まぁ散財することで教会への復讐にもなるっていう気持ちもある。
「ありがとー!」
「ありがとうございますー!」
喜びに満ちた超絶可愛い美少女と欲に塗れたおっさんに、それぞれ違った笑顔を向けられながらお礼を言われるのだった。
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