第十七話 可愛いは騒動のもと
あの後、犯罪奴隷たちとの出会いからここに至るまでの話をし、入市税として一人銅貨三枚を払って街に入ることができた。当然、女性二人の分は俺が払った。まぁ三人合わせても九千円だから安いものだ。
ちなみに、この入市税は返って来ない。一時的な身分証を発行して一週間の滞在を許可するが、期限が切れる前にギルドに登録するか就職して市民権を得なければ、追加で滞在申請をしなければならないらしい。もちろん追加の費用が発生する。これらを守らなかった場合、一度目は警告と罰金、二度目は拘束と罰金、三度目は強制退去と罰金。あと罰金を拒否した場合は奴隷落ちだそうだ。
それと馬車のことと犯罪奴隷のことだが、馬車は落とした人が困っているだろうからと言って引き取ってもらい、犯罪奴隷は買い取ってもらった。つまりゴミを押し付け、犯罪奴隷を転売しただけである。
しかし犯罪奴隷は安く、予算も多くない割けないということで格安で譲ってあげた。本来は一人金貨三枚くらいだが、今回は一人金貨一枚で売却した。この臨時収入である金貨六枚を女性二人に半分ずつあげ、これからの生活費にしてもらった。これ見よがしに警備兵の前で譲ったおかげで、悪魔呼ばわりは正式に撤回された。……まぁ全員ではなかったが。
そして俺は今、念願の守護者ギルドの前にいる。守護者ギルドは一言で表すと、巨大な門がある教会だった。それも鉄格子の門ではなく、金属の彫刻ような門だ。雰囲気的にはロダンの『地獄の門』のような立体的な門で、描かれているものは巨大な樹と四体の生き物と女性である。
俺は何故かこの門が気になり、しばらくの間無心で見入っていた。そんな俺だが、邪魔にはなっていない。この門は開くことはなく、横にある小さな通用口か、解体所がある裏口から入っていくのが常識らしい。ただ、警備兵のおっさんに初めてなら正面から行くことを勧めると言われ、素直に従っただけである。おかげで、生まれて初めて彫刻を見て感動できたのだ。
「ねぇ、まだ入らないの?」
「あぁ、もう行くよ」
そう、俺には連れがいる。黄緑の娘――リアトリス・レーヴェンだ。
この娘も守護者ギルドに登録したいらしく、同行を願い出たのだ。もう一人の村娘風の女性は警備兵のおっさんの口利きで、知り合いの店に就職できることになったそうだ。
「楽しみね!」
「そうだな。それよりもリアトリスは戦えるのか?」
「もちろんよ。狩りはしてたもの。それよりリアって呼んでね!」
「ならいいか」
ワクワクが隠せないのか、尻尾をフリフリと揺らして通用口をくぐると教会の中庭があり、さらに奥の建物に向かう。当然だが、聖堂とは別の建物だ。
「守護者ギルドはね、元々創世教会が運営してたんだって。でも今は創世教会の名前すら知らない人が多いの」
にこにこ顔で話していたが、突然悲しそうな顔をし始めてしまった。
「そ、それなら俺たちで広めていけばいいだろ? 創世教会って創造神様の教会だろ? 創造神様は素晴らしいんだぞって広めていけば、みんなまた創世教会を大切に思ってくれるようになるはずだ」
フツメンジミーズの俺に美少女を励ますような真似は荷が重すぎる。これが俺の精一杯だった。
「一緒に手伝ってくれるの?」
「もちろん」
「ありがとう!」
フツメンジミーズの俺にしては上出来だろう。そしていよいよ念願のギルドの扉を開け、ギルドの中に一歩踏み出した。
「「おぉぉーー!」」
守護者ギルドのホールに入った俺たちの第一声である。
ホール内は壁や床に高級感溢れる大理石のような石が使われ、中央にカウンターが置かれ、多くの人で賑わっていた。天井は高く吹き抜けになっている。左手の壁には依頼ボードがあり、右手には裏の解体所に向かう通路とカフェがある。
ちなみに、冒険者ギルドには酒場がつきものだが、壁によって囲われている教会のすぐ外にある店が利用されており、教会の敷地内には酒場は存在しないのだ。これは元々冒険者ギルドとは別組織だった名残らしく、現在は守護者ギルドに吸収合併され冒険者ギルドはなくなったそうだ。冒険者ギルドがなくなった理由はいろいろあるが、最大の理由は冒険しなくなったかららしい。
こんな情報を守護者ギルドに来るまでの間、ずっと聞かされていたのだ。リアは守護者に憧れていたらしく、守護者になれる機会が来たことを心から喜んでいた。俺も守護者になりたかったのだが、彼女の想いには勝てそうもなかった。
「ねぇ! 早く早く!」
「ちゃんと並ぼうね」
子どものように諭されたのが恥ずかしかったのか、頬を膨らませながら抗議の視線を向けてきた。あまり可愛い行動をしないでもらいたい。絶対に騒動が起きるから。
「次の方」
「ほら、順番が来たぞ!」
むくれていたのが嘘のように満面の笑みを浮かべ登録申請をする。記入内容は名前と年齢だけでいいようで、加護やスキルは任意のようだ。
「大変失礼ですが、どちらの貴族様でしょうか?」
「えっ? 俺?」
「そうです」
あぁ、外見か。高級品の装備で固められた十五歳……うん、ありえない。
「貴族ではないですよ。見た目で判断しているのなら、家宝をいただいただけですよ。親族が亡くなり田舎から出てきただけの一般人ですよ」
これが熟考の末出した答えだ。昔は金持ちだったかもしれないと思わせる言い訳に騙されて欲しい。
「そうですか、分かりました。それではこちらの魔道具に魔力を流してください。流した後、カードができるまでギルドの説明をさせていただきます」
よかった……。血を垂らしてくださいって言われなくて。血がない俺には不可能な行動だから、緊張で魂が震えていた。
受付のお姉さんの説明は分かりやすく、おおよそ理解できた。
国を超えた組織であること。
犯罪行為を行った場合は除名処分であること。
ケガや死亡は自己責任であること。
守護者の行動も自己責任であること。
ランクアップはポイント制と試験であること。
ポイントは増減すること。
依頼の失敗は違約金が発生すること。
依頼は一つ上のランクまでであること。
一定期間依頼を受けないと失効すること。
パーティーランクは平均で表示されること。
ランクは、
S =
A =
B =
C =
D =
E =
F =
G =
この八つに分けられるそうだ。あとランクの表記は基本的に
それからギルドカードの有効期限は、
となるそうだ。ここまでを聞き、問題ないことを登録申請用紙にサインして、一人銅貨五枚を払って登録を完了した。
手渡されたギルドカードは、キャッシュカードくらいの白い石で、名前と年齢が書かれ、裏には五十分のゼロと表記されていた。これがポイントなのだろう。
「やったー! 私のギルドカードだ!」
「なくさないようにな。再発行は銀貨二枚らしいからな。じゃあそろそろ宿に行くか」
「うん!」
無事に登録を済ませた俺たちは、警備兵のおっさんに紹介されたそこそこ高めの宿に向かうのだった。
「おい! やっと見つけたぞ! 俺様のものを返せ!」
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