第十話 今夜はパーリーナイト

 テイムした猪は当然のように暴れる。寝ているところにいきなり背中にのしかかり、牙にロープを巻かれ拘束されたのだ。つまり、寝込みを襲われたのと同じである。


 俺を振り落とそうとする猪の背中にしがみつくと、ロープを右に引っ張り無理矢理頭を南の方角に向かせる。その瞬間を見計らい、スローイングナイフを《念動魔法》を使い尻に突き刺した。


「ブッ――ブッゴォォォォォォーーー!!」


 相当痛かったのだろう。雄叫びを上げて、南に向かって真っ直ぐに走っていく姿を見て、これこそ猪突猛進という言葉にピッタリであると感動していた。何より楽である。


 魂になったことで乗り物酔いとは無縁の体になった今、猪の背中は快適以外の何ものでもないのだ。できることならば、目的地まで走り続けてほしい。


 地球産の猪は時速五十キロくらいで走れるらしいが、地球産より巨大な猪であればもっと速く走れるだろう。時折「プゴップゴッ」と聞こえてくる声が可愛く思えてきた直後、俺は宙を舞っていた。――いや、猪も宙を舞っていた。


 俺はすぐに《念動魔法》を使い無事に着地するも、猪は頭から地面に落ち首の骨を折って絶命していた。


 プゴ太郎ーーー!


 さようなら。お前の死は無駄にはしない。魂と体を頂くよ。どうか安らかに眠って欲しい。こうして初めての従魔は死亡してしまった。


 それにしても何があったんだ? 街道を爆走していたが、まだ夜明け前である。事故を起こしたはずはないんだが。


 来た道を少し戻ってみる。すると、理由はすぐに判明した。事故の理由はロープが張ってあるのだ。街道の両脇に杭を打ちつけていて、そこにロープを張って、少し先にある堀に落とす罠らしい。ただ俺の場合は堀を越えてしまったおかげで、堀に落ちずに済んだようだ。堀の中は槍が埋まっており、落ちたら確実に死ねるだろう。


 なんて悪質な罠だろう。


 近くに蓋があるため日中は蓋をしているのだろうが、それでも街道に罠を張るのはふざけている。しかも、杭にはご丁寧に「罠にかかった全てのものの権利を主張する。守護者ギルドの者より」と書かれていた。


 うん、破壊しよう。


 杭とロープを堀に入れ燃やし、堀には近くから岩を運び埋めていき、土を盛って固めておく。その後、プゴ太郎を【異空間倉庫】にしまい南下を続ける。


 夜が明け、辺りが明るくなる頃に川がある場所に到着した。そこでプゴ太郎の血抜きを行うことにした。


 モンスター図鑑に猪の解体の方法が載っていたため、確認しながら解体していく。ちなみに、プゴ太郎は争乱級のビッグボアというモンスターらしい。階級についての説明書きはなかったので、どれほどすごいのかは分からないが、聖剣で脅さなければ魂を喰うことができなかったくらいには強いようだ。


 皮、牙、肉、魔石が買取素材で、尻尾が討伐証明になるらしい。他は全て穴を掘り埋めた。肉は抗菌効果がある葉にくるみ、他は革袋に入れて予備の木箱に入れる。これで【異空間倉庫】は全て埋まってしまった。


 川での初めての解体作業が終わると、また南下を始める。すると、街が見えてきた。まぁ罠がある時点で予想はできていたのだが、街に入るか悩むところである。


 一番の理由としては、この国でギルドの登録をしたくないということ。今後どうなるかは分からないが、俺が活躍すると「教国の者は素晴らしいだろう」と声高々に自慢しそうだからだ。


 戸籍がない場合、一番最初にギルドに登録した場所が出身地だと思われる可能性が大である。実際に普通なら、生まれ育った最寄りの場所で登録するはずだ。つまり、教国以外の場所で登録するのが一番望ましいということになる。


 水筒と木箱のために中に入るは嫌だなぁ。それに盗品は他国で売りさばきたい。


 よし。スルーだ。


 街を回り込むように街道からそれる。その際横目で街の様子を見たのだが、あんまり活気があるようには見えなかった。王都から離れているせいで活気がないのかもな。


 街を背にして歩き続ける。こうして歩いているときも《念動魔法》の練習をしている。思い通りに装備を操れなければ、高級鎧の置物と化すのだ。空いている時間も無駄にはできない。


 それから歩くこと数時間。また一日が終わっていく。ただ全くモンスターが出ない。街道には出ないのだろうかと思い始めていると、同族のパーリーが開かれている場所が街道から外れた場所にあるようだ。遠目にゴーストが彷徨っているのが見える。


 今夜のディナーはビュッフェ形式らしい。


 というのも、他のアンデッドもいるからだ。俺は即座に聖剣を手にし、スケルトンの頭を叩き割った。すると、スケルトンから霊が抜けた。つまり、聖剣で攻撃しても消滅せずに食せるわけだ。


「カタカタカタッ……ドド……ドウシ!」


 俺がスケルトンの頭を叩き割った後、一際豪華な衣装を身に纏ったスケルトンが、骸骨の頭をカタカタ震わせながら話し掛けてきた。


 申し訳ないけど、同族であって同志ではない。


「カタカタカタッ……ヤヤ……ヤレ!」


 どうやらここにいるボスのようで、攻撃指示を出すと地面からボコボコとゾンビも現れた。さすがにゾンビに斬り掛かりたくはない。でも投擲武器は使いたくない。さらに魔力量に自信はない。


 ということで、ゾンビと距離を取りながら石を拾う。ポールアックスに持ち替えて、スケルトンをゾンビに押しつけては石を拾う。そうして貯まった石を《念動魔法》を使い、ゾンビの頭に確実に当てていく。


 何故なら、《念動魔法》はスキルのおかげか燃費がいいのだ。


 当たった瞬間、ドパッと水風船が割れたように弾けるも気にせず当てていく。そして近づいて来たらスケルトンを壁に使ったり走って逃げたりを繰り返し、ようやくゾンビは終了した。


 その後はポールアックスを縦横無尽に振り回し、《魂喰ソウルイーター》で吸い込んでいく。吸い込まれない霊にだけは聖剣で脅していくと、最後は豪華なスケルトンのみとなった。


 豪華なスケルトンは約二メートルくらいの大きさで、シミターを両手に一振りずつ持っている。俺は聖剣に持ち替え、豪華なスケルトンに向かって走り出す。さらにチャクラムを二枚投げつけ陽動とする。


 シミターでチャクラムを弾く間に豪華なスケルトンの横に回り込み、右腕を両断しシミターを遠くに放る。その俺に左のシミターで斬り掛かってくる豪華なスケルトン。


 俺は斬撃を聖剣で受けながらスケルトンの背後に移動する。体が右に捻れてバランスを崩しているうちに両膝を叩き切る。そして倒れかけたスケルトンの頭に聖剣を叩き込んだ。


 ふぅ。なんとか勝てたな。聖剣がなかったらヤバかった。


 いくら《念動魔法》の燃費がよくとも長時間動き回ったため、多くの魔力を使いへとへとである。チャクラムを回収して休憩がてらモンスター図鑑を出す。討伐証明と買取素材の確認のためにだ。


 豪華なスケルトンは凶禍級のスケルトンジェネラルで、装備品と魔石が買取素材で証明部位はない。というのも、アンデッドの一部を街に持ち込むことは禁止されており、討伐を証明するためには依頼の受注の際に、討伐証明専用の魔道具が渡されるらしい。


 ゾンビは争乱級でスケルトンは害悪級、買取素材素材はどちらも魔石のみとなる。ただ注意事項として、しっかり洗うことと死体は燃やすことが大きく書かれていた。


 はっきり言って、ゾンビを解体するのは嫌である。反対にスケルトンは楽だ。魔石を拾い集め、骨を一ヶ所にまとめるだけだから。でもゾンビは水風船のように弾けるのだ。何故動けているのかと疑問に思う。


 とりあえず、穴を掘ってから考えよう。


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