第九話 謎はおやつの後に

 旅に浮かれすぎて失念していた問題を、魔法具のおかげで気づくことができたのは僥倖だった。この新たな問題は見た目の問題と違って解決法が思いつかない。何故なら、街に戻らなければ解決しそうにないからだ。


 それもこれも全ては魂になったせいだと言える。まさか食料を買い忘れるとは思わなかった。だが、水については言い訳がある。魔法具を使えば水が出せるだろうと思ってコップしか買わなかったのだ。まぁそのおかげで食料問題に気づいたのだが。


 どこを探せば食料を持たずに旅をしている者がいるだろうか。もしいたとしても、真っ先に人間であることを疑うだろう。


 とりあえず火は土を被せて消火し、盗賊の拠点に向かおう。そこに食料や水があれば儲けものだ。どうせ俺が食べるわけではないのだから贅沢は言うまい。


 ◇


 盗賊団に襲撃された場所から東に数キロの林の中に山小屋のような建物がある。その山小屋こそが盗賊の拠点なのだが、想像していたよりも新しくきれいであった。


 ごめんくださーい。


 想定外にきれいな建物だったため、反射的にあいさつしてしまった。当然だが返事はない。


 山小屋は一階半とでも言うのか、一階とロフトがあるだけの大きさで、食堂とトイレに個室が一つだけのとても大勢が住んでいるような建物ではなかった。さらに山小屋の中にはめぼしいものは一つもなく、食料や水も全くなかったのだ。


 秘密の部屋があるんだろうなぁ。


 盗賊の拠点にしてはきれいだというところがすでに違和感を感じていたが、建物全体がカモフラージュに使われているとは思わなかった。


 ただ盗賊の頭から抜き取った情報によれば、ここが拠点で間違いなかった。それならば、《透過魔法》で建物全体を移動し続けるだけだ。謎の空間があれば外からこじ開ければいいだけである。


 結果、すぐに見つかった。


 ロフトから天井裏に入り、玄関とは反対側の奥から地下に向かう梯子が壁の中に隠されていた。俺は変身セットを一度しまって、地下に降りた後に再び変身セットを装備した。


 山小屋の地下はまだ昼間だというのに薄暗く、『ザ・盗賊の拠点』と呼ばれそうな雰囲気を醸し出している。人は誰もおらず、盗んだであろう金品や食料、それから酒が山のように保管されていた。そして待ち望んだ水は一滴も置かれていなかった。


 しかし、それもそのはず。なんと湧き水を利用していたからだ。


 でも俺には優しくない。俺は水筒を持っていないのだ。まぁぶっちゃけ、俺に水は不要である。強いて言えば、武器の手入れに必要である程度。


 結論、次の街までは川を利用しよう。


 ということで、水問題を無視して宝物と食料を積み込もう。そのためには【異空間倉庫】内を整理しなければならない。


 まずは財布、金庫、宝石と装飾品用木箱、鉱石と金属用木箱、武器庫、野営道具セットの六つを取り出す。盗賊の財布の中身から銀貨以下の硬貨を財布に詰め、他は金庫の中に入れる。盗賊のくせに金貨が数枚入っていたのだ。


 次に盗賊の保管庫内の硬貨を全て金庫の中に入れる。続いて保管庫内の鉱石や金属を専用木箱に入れて、蓋の代わりに宝石と装飾品用木箱を載せてロープで固定する。とりあえず、この三つを【異空間倉庫】に収納する。


 ふぅ、うまくいった。これで一枠確保できた。


 残りの二つのうち武器庫には、まだ使えそうな武器を選択して収納していく。最後の野営道具セットは、盗賊の身分証や所持品を取り出し食料や酒を入れる。


 そして空いた一枠には盗品セットにあてる。というのも、絵画やオーダーメイドの宝石類などが多くを占めており、いくら所有権があったとしても色々もめそうだと思ったからだ。もちろん原石などは抜いてある。


 ついでに、教会内からもらってきた物品も盗賊の拠点で手に入れたことにする。死人に口なしという都合のいい言い訳が手に入ったのに使わない手はない。


 買い戻しについては、教会内からもらってきたものは一切応じる気はない。盗賊の拠点で手に入れたものは、不要な美術品のみ応じよう。あと盗賊の身分証なども盗品セットに入れ、整理は終了だ。


 ◇


 襲撃された街道に戻り南下を続けると、廃村が見えてきた。


 何故、廃村か分かるかって? ゴーストが一ヶ所に集まり動いているからさ。


 ――《魂喰ソウルイーター》。


 廃村の中を魂を喰いながら進み、村の様子を観察する。ちなみに、魔力のスキルと霊力のスキルを同時に使っても問題なく使える。


 それはさておき、廃村は襲撃されたようすがあり、金品や武器になりそうなものは全くない。武器がない理由は盗賊が持って行ったのだと予想できるが、村を襲った者たちは別だろう。


 というのも、どうやら一ヶ所に集めて殺されたようだ。たかが二十人の盗賊にできることではない。


 戦争があったわけでもないし、教会の威信を気にするクズ共がやるはずもない。誰がやったのか気になるが分からない以上、俺にできることは丁重に葬って上げることだけである。


 廃村から離れた場所が廃村の墓地らしく、そこに大穴を開けて死体を入れる。村長の家にあった『浄化の花』という葬儀用の花を死体の上に敷き詰め、魔法具で火をつける。本当は思い入れのあるものやお金を一緒に燃やすらしいのだが、廃村には何もなく、それは叶えてあげられなかった。


 葬儀の方法については村長の日記に書かれていたおかげで何とかなったのだが、やっぱり廃村に何があったのかは分からなかった。


 最後に土を被せて木の実を植えれば終了だ。手を合わせて祈り、廃村をあとにした。




 俺には昼夜もないと言ったが、夜中も行動できる理由は何も睡眠をしなくていいからだけではない。他の理由として一番重要なのが、夜でも昼と同じように景色が見えるのだ。気配が分かるとかではない。


 さすがに、普通の高校生が異世界に来て二日で気配を察知できるとか、元々影が薄くないかぎり無理でしょう。常に何かに怯え、常に気配を消して行動していたなら分からなくもないが、俺が恐れていたのはイケメンパーリーズの無茶振りだけだ。


 つまり、俺の能力はアンデッド故の能力なのだろう。まだ肉体を諦めていない俺としては、嬉しさと悲しさが半々くらいである。


 そして何故こんなことを話し出したかというと、目の前にあるものが見えるのだ。街道を通せんぼしているかのように横たわる猪が……。


 異世界第一モンスターは巨大な猪だった。迫力満点の大きさである。


 あっ。いいことを思いついた。


 いい加減独りの夜間移動が暇に感じ、暇つぶしを考えていた。モンスターを狩る鍛練もできていないし、ちょうどいい暇つぶしになると思ったのだ。


 まずは近くの森に行き蔦を集め、三つ編みにしてロープをつくっていく。ロープの両端を輪っかにして完成。


 一度変身セットを収納して《透過魔法》で姿と気配を消し、猪の真上に移動する。次に《念動魔法》を使用して猪の牙にロープの輪っかを通して固定すると、変身セットを装備しロープを持って猪の背中に跨がる。


 なんちゃってテイムの完成である。


 








 

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