第六話 教会は複合商業施設
職業を決めたことでテンションが上がる。ようやく、異世界であることを実感できてきたからだろう。浮かれて即死しないようにできるだけ情報が欲しいところである。
気持ちを引き締め、続く二冊目の本だ。この本は常識について書かれていた。
時間や曜日は同じだが、月三十日の十二ヶ月で一年と計算するようだ。時間や曜日が同じ理由は、過去に召喚された勇者が決め広めたようだ。同じ世界の地球人かどうか分からないが、地球と全く同じにしなかったのは計算が面倒だったのかな? と疑問に思ったりした。
次に通貨だ。
単位はシルで、計算方法は十進法である。硬貨の種類は宝物庫で見つけた七種類。だいたい日本円と同じ貨幣価値らしい。まだ街に出て買い物をしていないし、昔と同じかどうかも分からないが、読み終わった本は教会にいる子どもに教えるための教科書らしいから、たぶん間違いないだろう。
白金貨一枚 = 一千万円
大金貨一枚 = 一百万石
金貨 一枚 = 十万円
銀貨 一枚 = 一万円
銅貨 一枚 = 千円
鉄貨 一枚 = 百円
青銅貨一枚 = 十円
ちなみに、金貨よりも高額の硬貨は貴族や大商会などが主に使い、平民は使っても銀貨らしい。この説明書きを見た直後、すぐに財布の中身を銀貨以下にした。あと、宝物庫の中身が数十億円くらいありそうだということも判明した。宝石もある今、一生遊んで暮らせそう。……魂だから遊べないけどな。
最後の三冊目は、スキルと魔法と書かれた本。これを見て心が躍らない者はいないだろう。期待を胸に本を開くも、さすが教会の本という内容の薄さ。
スキルは持ってるだけじゃ使えないこと。訓練や勉強が必要であること。この二つのことを長々と書いてあるだけ。
魔法については、全員に魔力があること。魔力を増やすには命を狩って器を大きくすること。道具の使用以外では魔法が使えないこと。ただし、魔法関連のスキルを持つ者は除く。大まかに分けると三つのことが書かれてあった。
この本を読んで一番落胆したことは、当たり前だが魔法が使えないこと。専用の道具を使うことで初めて魔法が使えるらしい。
俺はすでに使えているのだが、俺はやっぱり人間枠には入れないってことか。まだ諦めていなかったため、微妙にショック。
それと人間枠ではない俺が魔法を使えているのなら、モンスターは魔法を使うということだろう。今のところ、太陽の光は平気で聖剣は無理という状態だが、聖剣の次に魔法が加わる可能性がある。対策しておかないと即死だ。
とりあえず、図書館と宝物庫でやることは終了した。他にめぼしい本はなく、ほとんどが太陽教会の素晴らしさを書いた本と、この世界流のエロ本だと思われる裸婦画である。誰も図書館に来ないはずだ。
いつの間にか日も沈み、辺りが暗くなってきた。食欲も睡眠欲もわかない体だが、何故か性欲はある。何もできないけどな。
そこで、夜の間の時間を使ってスキルの実験を行うことにした。ということで、夜の散歩という名の艶やかな上映会を無料視聴しに行こう。
◇
教会内を《透過魔法》を使って移動する。さすがに上映を始める者はいないらしく、教会のあちこちから話し声が聞こえる。それならばと思い、先に霊園に向かう。
霊園に着くと首都の霊園らしく、そこそこの広さがあった。この世界は火葬式の葬儀らしいのだが、この霊園の中央にある祭壇に死体を置いて燃やすらしい。おかげでここには山ほどの
霊の姿を見ることができることで、否が応でも同族だと認識させられてしまった。一瞬テンションが下がるも、気を取り直しスキルを発動する。
――《
スキルを発動すると魂体の中心部分に黒い渦ができ、辺りを漂っている霊が吸い込まれていく。有効範囲は半径五メートルくらいで、吸い込まれない霊もいる。
このスキルの自分より下位の存在か、屈伏または承諾が必要という条件のせいで吸い込めないのだろう。そして吸い込まれない霊たちは、俺よりも上位の存在であるということだ。襲われないように気をつけながら少しずつ移動していく。
約二時間後。広めの霊園をまんべんなく回ったため、そこそこ時間がかかった。途中休憩を挟んだせいもあったが、何事もなく無事に霊園内の全ての霊を吸収できた。
上位の存在はどうしたって?
聖剣で脅して無理矢理屈伏させた。祭壇にいたボスっぽい大きめの霊を脅したら、他の霊たちは自ら出頭してきて大人しく喰われてくれたのだ。
ちなみに、霊たちに味はない。食べている感覚もない。ただ少しだけ力が増した感覚があるだけ。どうやら霊園は俺のためのレストランだったようだ。
さて、レストランは在庫切れで閉店した。時間も良い頃合であり、そろそろ上映開始している部屋もあるだろう。まずは教会の最上階から見て行こうかな。
◇
俺は今、とある部屋の扉の前にいる。部屋の中からは役者の声が聞こえてくる。きっと現在進行形で、素晴らしい物語が創作と同時に上映されていることだろう。心臓はないはずなのだが、独特の背徳感に胸を高鳴らせ、パーリーにいざ突撃。
《透過魔法》で扉を抜けると、そこには待っていた。
――地獄が……。
昼間の鏡餅のおっちゃんと、俺を召喚した爺さんが全裸で抱き合っていたのだ。
……きっと添い寝フレンドってやつだ。鏡餅のおっちゃんは柔らかそうだからな。
気持ち悪いものを見てしまったけど、ついでに爺さんの情報ももらっておこう。今後行うであろう復讐の方針を決めるためにも、爺さんの情報は必要不可欠である。
――《
「ぐっ……うぅぅぅぅ……」
「ど、どうされました!?
いきなりうめき声を上げる爺さんが心配になり、声を掛ける鏡餅のおっちゃん。
でも安心して欲しい。今回は二回目だ。少しだけコツが分かったから、鏡餅のおっちゃんほど苦しくはないはずだ。
それにしても鏡餅のおっちゃんが呼んだ通り、この爺さんが教皇だったようだ。さらに計画も判明した。簡単に言うと、勇者を使った侵略戦争である。最後に勇者を魔王に仕立て上げ討伐し、教会の威信を高めるという計画らしい。
なんとも浅はかな行為だろう。欲塗れの老害だ。愚かで強欲な爺さんに相応しい復讐は計画邪魔が一番だな。爺さんを殺しても他の者が後を継ぐだろうから無意味。結局もやもやが残るだけ。一瞬アンデッド仲間のゾンビを引き連れ、計画に参加している国を強襲してやろうかと思っていたが、計画を知らない人を巻き込むのはやめた。
俺がやりたいのは己の欲望のために俺を殺したヤツらと、その仲間たちへの復讐である。あと愚か者に賛同する勇者がいるのならば、そいつも復讐の対象である。
「ごぁ……ごっ……おっ!」
おっと。感情が高ぶり、つい力が入りすぎてしまった。ここで死なれては困るため、すぐにスキルを解除する。
「大丈夫ですか!? 猊下! 猊下!」
「うぅぅむぅぅ……」
鏡餅のおっちゃんの声に返事をしたように聞こえるが、爺さんは口から泡を噴いているため、きっと気のせいだろう。それでも鏡餅のおっちゃんに落ち着きを取り戻させるには十分で、鏡餅のおっちゃんはすぐに服を着てどこかに走り出した。
大事になる前にさっさと教会を出ることにしよう。というか国を出る。南に向かえという指示が出されているのだ。騒ぎが起きて出国禁止となる前にとんずらするのは、弱者の常套手段なのだ。
さらば、添い寝フレンズ。また会う日まで。
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