第七話 魔法は高級品

 爺さんの元からとんずらすることを決めた俺は、《透過魔法》を使って教会から街中へ移動する。


 具体的な時間は分からないが灯りがともる建物はごくわずかで、辺りは闇に包まれていた。この暗闇の中、俺が探している場所は武具店である。


 おそらく早ければ明日の朝には出国禁止となるだろうから、開店時間を待つことはしたくない。さらに、中身空っぽのリビングアーマーが試着室もない場所で着替えはできない。


 ということで、深夜に勝手に購入することに決めた。【異空間倉庫】に入れておいたフルプレートアーマーは、教会を出る前に飾ってきた。それ故、新しいフルプレートアーマーは自腹で購入することになったのだ。


 そしてどうせ買うなら弱点の魔法攻撃に強く、重量もそこそこで地味なものをと思い、複数の武具店を回り、「これだ!」というものを見つけた。


 全長約百八十センチくらいで、魔法防御に優れ魔力効率も高い。さらに、物理防御を高めるために硬い金属を厚めに使っているらしい。でもそのせいでかなり重く売れ残っていた。重さは余裕で七十キロを超えているだろう。


 ただ残念なことに見た目は全然地味ではない。形はゴリマッチョでショルダーガードの部分がデカく、胸の部分はネコ科の生き物の顔になっている。ヘルムには先端が前に向いた角があり、横一文字のスリットが入っている。腰には飾り布がついて、色は全体的につや消しの暗めの橙である橙褐色で、部分的につや消しの黒い縁取りや部品が使われている。


 月の光に照らされたフルプレートアーマーは、まるでインペリアルトパーズのような上品な輝きを放っていた。


 一目惚れしたフルプレートアーマーの値段を知るため店主の記憶を拝借すると、なんと大金貨五枚だった。つまり、五百万円である。


 これが高いか安いかは分からないが、装備して動けるのならば高品質な防具であるため、そこまで値段は気にならないだろう。ただ平民が普段使う硬貨は銀貨であることを考えると、かなりの高級品であることは間違いない。


 まぁ俺は金持ちだから気にせず買おう。ついでに他の物を買えるだけ買うことにした。


 まずは、地味さが欠片もないためフード付きの外套を用意する。出来れば、魔法防御や気配遮断効果があると望ましい。次に、スローイングナイフやチャクラムなどの投擲武器。《念動魔法》を使える俺が使えば絶対に当たるし、弓に比べれば技術的な誤魔化しがきく遠距離武器になる。


 当然弓の射程距離には敵わないが、備えあれば憂いなしと思い購入する。腰の飾り布の裏に隠しておけば、隠し武器としても使えそうだ。


 そしてこの武具店で欲しい物は全て揃ったので、代金を置いて他の店に行くことにする。


 ちなみに購入した物は、魔法防御と防刃、短時間の認識阻害効果が付与されたフード付きの外套。これは外套の留め具につけられた魔石が壊れない限りは、魔力を込めれば数分間だけ認識阻害効果があるという代物である。色は黒に近い深い緑らしいが、夜であるため真っ黒に見える。値段は大金貨一枚だ。


 次に投擲武器である。スローイングナイフは十本で銀貨一枚。チャクラムは五枚で銀貨一枚。ついでに銅貨五枚の専用ホルダーを購入した。


 総額は大金貨六枚、銀貨二枚と銅貨五枚で六百二万五千円である。人間と魂の両方で初めての高額購入金額だ。迷惑料の銅貨五枚を足して、大金貨六枚と銀貨三枚を置いて次の店に行く。


 今度の店は本屋である。教会内の図書館ではろくな情報を得られなかった。そのため本屋で情報を購入することにしたのだ。時間があれば立ち読みをするのだが、あと二軒ほど回らなければいけないから購入という一択になる。


 うーん……。地図がない。落書きみたいなものしかない。本屋での一番の目的が早々に暗礁に乗り上げてしまった。


 これから南に行くにあたり南に何があり、どんな国があるのかを知りたかった。しかし落書きみたいな地図で金貨一枚もするのだ。この地図は立ち読みで十分だった。理由は、太陽教国と周辺の教国の一部が描かれているだけだったからだ。しかも南側は一切の情報がない。……ゴミである。


 気持ちを切り替え、周辺のモンスターの情報が書かれた本のみ購入した。これ一冊で金貨三枚である。「ペラペラの図鑑が三十万円とかぼったくりだろ!」と悪態をつきたくなる気持ちを抑え次へ。


 この店こそ探し求めていた場所である。店の名前は『ウィンザー魔法具店』。そう、魔法だ。


 図書館の本で、専用の道具を使うことで魔法が使えると書かれていた。その専用の道具の販売店なのだ。気持ちが高ぶらないわけがない。


 期待を胸に、いざ入店。


 商品ケースに鍵がかかっているほどに高価な品物が並んでいる。一番安い物でも金貨一枚。最高額商品は、店で一番目立つ場所に飾られているロッドである。金額はなんと白金貨二枚の二千万円だ。


 何故こんなに高いのかも分からないし、大金を出さなければ魔法が使えないということに驚きもする。店主には悪いが情報を頂くことにする。


 ――《読取リーディング》。


 三回目であることと、店主が寝ていることで問題なく情報を入手できた。結果、専用の道具は他にもある。この魔法具が一般的で定番なだけだ。さらに魔法には階級があって、魔法具のランクによって使える魔法と使えない魔法があるらしい。最後に、魔法具は消耗品であるということだ。


 二千万円が消耗品……。恐ろしすぎる。


 ここでは上限を大金貨一枚に設定して購入しよう。大金貨一枚以内で購入できる魔法具を使用することで発動する魔法は『民級』、『兵級』、『将級』の三階級分の魔法で、それぞれ初級、中級、上級という意味らしい。おそらく、魔法の階級がそのまま使用可能な役職ということだろう。


 商品を選びながら近くに置いてあった取扱説明書を読むと、階級ごとの簡単な魔法が書かれていた。


 民級 = 点火・給水・照明・他

 兵級 = 魔弾系・他

 将級 = 魔刃系・回復・他


 簡単な物だが説明としては十分だ。そして結果、やっぱり将級までで十分だろう。今のところは。


 購入する魔法具はシリーズのようで、ピンク色と水色で色は違うが形は全く同じ。三十センチくらいの王笏をイメージしたような形をしていて、先端にはどちらも透明の石がはまっている。おまけで専用ホルダーを購入する。


 総額は魔法具が一つで金貨六枚、専用ホルダーが銀貨一枚。合計で金貨十二枚と銀貨一枚の百二十一万円だ。少し予算オーバーしたが許容範囲である。


 ちなみにどうやって商品ケースから取り出したかというと、《透過魔法》でケース内に入り、【異空間倉庫】にしまって外に出るだけだ。


 最後の店は道具屋である。といっても魂の俺には関係ないのだが、世を忍ぶ仮の姿で行動しているときに、旅装が何もなければ不自然極まりないからだ。


 ということで、解体用ナイフやロープ、テントやコップなどを大小様々購入して木箱にまとめて入れる。ここでは金貨二枚くらいで済んだ。旅の同行者が現れたら、その都度買い換えればいい。


 ようやく買い物が終わるも辺りは明るくなり出し、あと一時間ほどで完全に日が昇るだろう。つまり、さっさと出国しなければいけないということだ。


 さらば、クズ共。お小遣いをありがとう。いってきます。



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