第五話 図書館は棚からぼたもち
お宝回収を始めて二時間ほど経過すると、大分宝物庫内も片付き始めた。
この二時間は仕分け作業と休憩の繰り返しだった。俺が宝物庫内の物を動かすときは《念動魔法》を使用しているのだが、当然のように魔力を消耗する。そして異世界のテンプレでは、魔力は使えば使うほど増えるという常識がある。この世界もテンプレ通りなのか知らないが、動けないのならば休むしかないのだ。そして今がその休憩時間なのだ。
さっきまで箱の中身をぶちまけ空き箱を作り、作った空き箱に種類ごと丁寧に仕分けしていた。そこでふと視線を上げると、二時間前とは違ってすっきりしていたのだ。
最初の汚部屋が徐々に片付いてきたことに感動する。気分が良いついでに宝物の確認をしよう。
俺のスキル【異空間倉庫】の容量は十種類。
一つは緊急用に空けておきたいから、使える枠は全部で九枠のみ。そのうち二つは埋まっている。一つは財布。もう一つは全ての硬貨が入った金庫である。ということは、残る枠は七枠となる。
ここで悩むのが、足が着きそうな武具類である。いかにも教会のために作ったと思われる物は使えない。置いていくしかないのだろうが、フルプレートアーマーを探すという新たな問題が発生する。さらに、もう一つの問題がある。
それは、聖剣の存在だ。
掃除を兼ねた宝物回収作業中に見つけたのだが、インチキ宗教っぽい教会が持っているような物だから偽物だと思っていた。しかし効果は本物で剥き出しの刃に近づいただけなのに、感電したかのような痛みと刃物で斬りつけられたような痛みが襲ったのだ。魂になっても痛覚は健在のようだ。
このときになってようやく本物だと気づく。何故剥き出しのまま放置されているのか疑問だが、柄は真っ白で金細工があしらわれていて、綺麗な青い刃のバスタードソードである。
聖剣が何故問題になるかというと、天敵になりそうな武器を置いていく理由がない。それに《念動魔法》を使えば持てるのだ。聖属性を使えることはたぶんないだろう。もしものときのために持っておきたいが、一番足が着きそうな武器である。
三十分くらい悩みに悩んだ結果、すぐ捨てられるように箱でまとめず一枠使って持っていくことにした。他の武器は巨大な箱に詰めて行く。
そしてまとめ終わった内訳は、財布、金庫、宝石と装飾品、鉱石と金属、武器庫、聖剣、フルプレートアーマー、両刃のポールアックス、収納袋である。
後半三つは世を忍ぶ仮の姿を装うための変身セットだ。フルプレートアーマーは一番地味な銅色の物を選んだ。何故地味かと言うと、他は全て教会の紋章なのか太陽のような柄が刻まれていたからだ。
つまり、地味というか消去法である。街に行ったら下取りに出して別の物を買う予定だから、それまでの繋ぎとして使えれば十分ということだ。
宝物庫に着いて約三時間、ついに片付けが終わった。残った物は絵画や彫刻などの美術品や、太陽の柄付き鎧や装飾品、何に使うか分からないガラクタや毛皮などである。ガラクタは気になる物だけ収納袋に詰め込み、毛皮はボロボロだったから放置だ。欲しい物を好きなだけくれたお礼に、絵画を壁に飾ったり鎧や装飾品を並べたり、整理整頓しながら綺麗に展示しておいた。これで欲しい物がすぐに見つかるはず。……あればだけど。
さて、宝物庫でやることは終わった。次は図書館で情報収集をしよう。身分証、仕事、通貨の三つについては絶対に知りたい。出来れば地図も欲しい。生活水準やスキルについても知りたい。言い出したらきりがないため、さっさと図書館に行くことにした。
《透過魔法》で宝物庫から出て無人の図書館に移動する。図書館では本を探すため遅い方がいい。俺は《透過魔法》を解除して、ふよふよと図書館の中を動き回る。探す本は『レガシル』の常識についての本である。
歴史についての本は探していない。どうせ太陽教会が世界の中心であると主張しているだけの本である。さっきパラ読みした一冊に書かれていたため、二度と探そうとは思わない。
それよりも教会の職員は整理整頓ができないようで、本のジャンルもサイズもバラバラでイライラする。地球で漫画やラノベを買って本棚にきっちりしまっていた俺は、本棚やコレクションだけは整理整頓したい派なのだ。どうでもいいけど、部屋は年頃の男の子並みの汚部屋だ。
図書館はあまり広くなく、小学校の図書館くらいの規模。これくらいならば整理整頓してあげようと思い、全ての本を本棚から取り出す。この光景を客観的き見ると、ポルターガイスト現象が起こっているように見える。人間のままだったら気絶しそうな状況だ。
本を取り出した後、本を探しながら仕分け作業を行い、気になった本だけをよけてジャンルや作者、サイズに気をつけながら戻していく。約二時間ほどで本棚の整理整頓のバイトは終了した。バイト料は本棚から出てきた誰かのへそくりだ。それも十人分である。良いことはするものだ。
へそくりの中身だけ財布に移し、入れ物は元の場所に戻して置いた。当然そのまま戻さず、中身が入っているようにゴミを詰め込んだ。そのゴミはボロボロの毛皮をちぎった物だ。
へそくりを使おうとしたときの落胆と、宝物庫の毛皮の所持により盗難疑惑が浮上するだろうが、十人も容疑者がいれば大丈夫だろう。これでもしものときは捜査を撹乱させられるだろう。
イタズラを終えたため、さっそく読書を始めることにした。
よけておいた三冊の本を順番に読み始めると、香典代わりにもらった【言語】スキルが機能したのか、すらすらと読め、あっという間に三冊の本を読み終えた。
一冊目の本は簡単な職業案内だ。名前と簡単な説明しか書かれていない冊子で、もはや本と呼んでいいものか疑問に思う。
【守護者ギルド】
モンスター討伐などの雑用。野蛮。
【職人ギルド】
生産系。師弟制。理不尽。
【商業ギルド】
様々な商売。詐欺師。
【農業ギルド】
野菜作り。重労働。
大まかに分けて四つらしい。身分証の発行も行っているようだ。それにしても職業案内のくせに説明が適当の上、一言ずつ悪口が書かれている。結局教会が何を言いたいかというと、教会ほどいい職業はどこにもないということである。
というのも、三歳になると加護を受けられるらしいのだが、そのときに十人に一人の確率でスキルが与えられる。スキルは努力次第で身につくため、もらわなくても差別されたり人生が終わったりするわけではないようだ。ただ、最初から『素質』が分かっていることと、上達速度が速いだけである。
そして教会は加護を受けさせる代わりに、スキルの有無を確認させている。スキルがあれば貴族や金持ちなどの例外を除き、全ての三歳児を親元から離し、強制的に教会の職員にするらしい。
これらのことから予想すると、あの職業の説明書きは他の職業に興味を持たせないようにするための洗脳教育の一環である。洗脳の結果、教会の職員はもれなくスキル持ちで、教会はエリート集団なんだと言いたいのだろう。
それはさておき、職業案内の内容の薄さに衝撃を受けたが、職業案内の冊子から分かったことは三つ。一つ目は冒険者ギルドがないこと。二つ目はモンスターがいること。三つ目は守護者ギルドが冒険者ギルドの代わりの可能性があること。
結論、守護者に俺はなる。
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