第14話 妬いてくれたら

 部活が終わって、俺は一目散に外へ出た。今日も柚月さんは部活を見ていてくれたのだろうか。それともとっくに帰っていたりして?

 前回待っていてくれた場所かなと思っていたが、今日は体育館を出たら目の前に柚月さんが立っていた。斜めに俺を睨みつけている。あれ、本当に怒っていらっしゃる?

「柚月さん、お待たせ。」

努めて笑顔でそう言った。

「琉久、昼休みのあれ、なんだよ。」

やっぱり。

「あれって?」

「とぼけんなよ。偶然あそこにいたって言い張るつもりか?」

ああそうか。何をしたかよりも、わざとだろうと言って怒っていらっしゃるわけね。

「ごめんなさい。つい、友達にそそのかされて。」

「は?意味が分かんないな。何をしたかったんだ?」

「それは・・・。いや、俺は偶然を装って柚月さんに会いたかっただけなんだ。そしたら、あいつが急にあんな。」

つい、嘘をついた。やきもちを焼かせようとしたなんて、いくらなんでもまずいだろう。

「あの子に頼んだのか?キスしてくれって?」

「違う違う違う!そんなことするわけないじゃん。」

「じゃあ何か?たまたま俺が通りかかった時にあの子はお前にキスしたのか?それとも、いつでもどこでもあんな事をしているのか、お前たちは?」

体育館の入口の前でもたもたしていたので、他の部員たちがどやどやと出てきてしまった。柚月さんはそれを見て、俺の腕を引っ張って歩くように促した。ちょっとでも触れてくれるのは嬉しい。ドキドキする。このまま腕を組んで歩きたいなあと思っていたら、本当にそのまま、ちょっと腕を俺の腕に引っかけたまま、柚月さんは歩き続けた。

しばらく黙って歩いて、それから柚月さんが唐突に言った。

「琉久、他の奴とあんまりベタベタするなよな。」

「うん。」

俺はニヤニヤが止まらない。やきもち効果あったではないか!隆二に感謝だな。そして三倉にも。ジュース3本じゃ安いくらいだ。

 俺の腕に引っかけてあった柚月さんの手をさっと握って、手をつないだ。そして、少し引っ張って俺の方に引き寄せる。離れていると後ろから手をつないでいるのが丸わかりなので、くっついていた方が分からないだろうと思ったのだ。けれど、柚月さんは手を振りほどき、

「こら、調子に乗るな。」

だそうだ。そこまではダメなのか。でも、柚月さんの顔を見たら、機嫌が直ってにこやかな顔をしていた。今はそれで充分かな。やきもちを焼いてくれたって事は、やっぱり俺の事が好きって事なんだし。

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