第4話 やっと会えた
昼休み、弁当を食べ終えた俺は、いつもなら教室の机に突っ伏して寝ているところだが、今日は意を決して2年生の教室がある階へと階段を昇って行った。廊下をうろうろすれば、もしかしたら柚月さんに会えるかもしれない。1年生は2階、2年生は3階に教室がある。3階には図書室や美術室がある。もし何かあったら、図書室に行く振りをすればいい。
3階へ上がった。話し声がそれなりににぎやかなのは、1年生の廊下と変わりがない。さて、柚月さんは何組なのだろう。1組から順に覗いて行くしかないか。
「あれ?琉久じゃん、何してんだ?こんなところで。」
そうだった。当然バレー部の先輩に出くわす可能性は高いのだった。そして、なぜここにいるのかを問われるのは必定。図書室に行くと言える状況にあれば良かったのだが、今図書室とは反対方面に歩いて行こうとしていた俺。1組から順にというのが迂闊だった。図書室は5組の向こう側にあって、階段は3組の前にあるので。
「えっと、その。」
俺が言葉に詰まっている間に、バレー部の先輩が何人か集まってきた。
「琉久、どうした?」
「誰に用なんだ?」
そこへ、諸住先輩がやってきた。
「琉久!俺に会いに来たのか?」
なんでそうなるかな。諸住先輩はもしかして自意識過剰?
何となく騒がしくなったので、2年生の女子たちも教室から顔を出してこちらを注目している。ひそひそキャッキャと女子らしい内緒話があちこちで咲き始めた。
ふと、誰かが近くで立ち止まった。視線を感じてそちらを振り向くと、ああ、そこに太陽があったかと思うほど眩しい人がいた。俺は、先輩たちから首に腕を回されてがんじがらめだったけれど、動きを止めてその眩しい人をじっと見た。
「・・・もしかして、琉久?」
「・・・柚月さん?」
やっと、会えた。
柚月さんは髪が伸びていた。バレー部は坊主頭の学校も多いくらい、髪が短いのが基本だ。それは、体の一部がネットに触れるとネットタッチの反則を取られるので、ブロックをした時などにネットに触れないよう、髪の毛も短くしておかねばならないからだ。だから、中学時代は柚月さんも髪が短かったが、今は耳が少し隠れるくらいに長めだ。
綺麗だ。前はかっこいいと思っていたけれど、筋肉が落ちたのか、少し細くなって、綺麗になっていた。そして、背が低くなっていた。
「琉久、大きくなったなあ。」
柚月さんはそう言いながら、目を細めるようにして笑った。そうだ、柚月さんが小さくなるわけがない。俺が大きくなったのか。
「柚月、琉久と知り合いなのか?」
諸住先輩が柚月さんに聞いた。え?この二人は名前で呼ぶ仲なのか?
「うん、中学の後輩だよ。」
柚月さん、俺の事ちゃんと覚えていてくれたんだ。俺は感動で胸がいっぱいで、何を言ったらいいのか分からなかった。中一の頃となんも変わってないな、俺。
「そうか、琉久はバレーを続けてるんだな。」
バレー部の先輩と一緒にいるので、柚月さんはそう合点したらしい。
「うん。あの、柚月さんは・・・。」
俺が聞くと、柚月さんはちょっと寂し気に笑った。
「俺はもうバレーは辞めたんだ。今は美術部だよ。」
「美術部!?・・・そうなんだ。」
「え?柚月って、バレーやってたの?」
諸住先輩が驚いた声を出した。
「そうですよ。柚月さんはそれはもう、ジャンプが高いのなんのって。」
俺が言うと、諸住先輩が、
「そうか、柚月と琉久は同じ中学で同じバレー部だったのか。ふうん。」
と言って顎に手を当てた。何か考え込んでますね、その仕草は。
「じゃあな、琉久。」
柚月さんはバレーの話にいたたまれなくなったのか、さっさと歩いて行ってしまった。ああ、やっと会えたのにこれだけなんて。また会うにはどうしたらいいんだ。けれど、諸住先輩と親しい事が分かったわけだから、部活中に何か情報を聞き出せるかもしれない。と、何我が部のエースを利用しようとしてんだ、俺。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます