第3話 バレー部に入部
入学後、俺は早速バレーボール部に入部した。そこそこ強い部で、女子マネージャーもいた。経験者なのですぐに練習に参加させてもらい、今や背の高い方になった俺はブロックやスパイクの練習に精を出した。
俺は、柚月さんがきっとバレー部にいるものだと思っていた。まだ病気が治っていないなら、休んだりしながらも時々部活に出てくるのではないか、と毎日期待していた。しかし、4月が終わろうとしているのに、一度も柚月さんは部活に来ない。どうやら柚月さんはバレー部にはいないらしい。しばらく認めたくなかったけれど。
「レシーブ!行くぞ!」
バレー部のコーチで大学生の中里悠理さんが、ボール出しをしてくれる。この人、セッターだった人で背が低いけれど、めちゃめちゃ顔がきれいでイケメン。だが、出すボールは鬼だった。右へ左へはもちろん、大きく後ろへ出したかと思えば、自分のすぐ近くにポトンと落とし、かと思えば近くにいるのに思いっきり顔にぶつけてくる。上手くレシーブ出来れば交代だが、出来ないともう一回となり、前へ後ろへ飛び込んだり、顔に当たっても更に打たれる。ああ、鬼だ。ハードだ。
「悠理ちゃん、顔可愛いのにえげつないなあ。」
先輩の誰かが、いつもそうつぶやく瞬間である。それでも、俺は食らいつく。この練習は何だか燃える。俺はもしかしたらMかも。
「よーし、琉久いいぞ!」
やった、ほめてもらった。
レシーブ練習が終わると、女子マネージャーたちが悠理さんの所へ飲み物とタオルを持って駆け付ける。まあね、あんなお人形みたいな顔してたら、女子にはモテますよね。
「マネージャーは誰のためにいるのだ?俺たち部員のためではないのか?」
と、やはりいつも誰か先輩から愚痴が聞こえてくるのだった。
「妬くな妬くな、悠理ちゃんと俺たちとじゃ顔の造りが違うんだから。」
と、笑いながら俺の正面に腰かけるのは、2年生のエース諸住隼人先輩だ。この人は、試合になると黄色いポンポンを持った女子生徒たちからキャーキャー言われるという噂だ。まだ実際に見た事はないけれど。モテるだけに、余裕の笑顔だ。
「なあ?琉久。」
と言って俺の方を見た諸住先輩は、俺を手招きした。俺が隣に座ると、肩に腕を回してきた。
「琉久、お前も悪くないな。」
「は?」
諸住先輩は俺の顔を覗き込む。先輩こそ悠理ちゃん(背が低いので、ついつい皆ちゃん付け)に引けを取らないくらいのお顔では。
「次!スパイク練習始めるぞー。」
悠理ちゃんが叫ぶ。俺たちは急いで前衛と後衛に分かれてコートに入った。
「もっと高く!」
スパイクを打つと、悠理ちゃんにいつも言われる。高く飛べ、と。
部活が終わって片付けをし、着替えをしてやっと体育館から出てくる時、女子マネージャーたちも更衣室から出てきた。
「琉久、お疲れ!」
1年の女子マネージャー、相田真希が俺のところへ小走りにやってきた。何となく一緒に帰る。同じ部に入ると分かったら、いきなり「私の事は真希と呼んで、琉久!」と親指を立ててウインクしてきたツワモノだ。他にも1年の女子マネージャーは2人いるが、諸住先輩目当てなのと、悠理ちゃん目当てなのと、分かりやすい感じだった。真希に限っては良く分からない。バレー経験者ではあるらしい。
「琉久はさあ、どうしてうちの高校に入ったの?バレーの実力だったらもっと他の私立の強豪校とか狙えたんじゃないの?経済的な理由で都立?」
真希はそう聞いてきた。やっぱり聞かれるよな。先輩を追いかけてきたなんて、冗談にしかならない。バレーの強い先輩ならまだいいけれど、今のところ柚月さんがバレーをやっている形跡はないし。
「うーん、それはね。ある人を追いかけて来たのだ。」
「え?それって先輩?それとも同級生?好きな人って事?」
真希は畳みかける。冗談で笑い飛ばすつもりだったのに、思ったよりも食いついてきて面食らう俺。
「えっと・・・先輩。これ以上はノーコメント!」
俺はそう言って走り出した。他のバレー部の1年のところへ合流する。真希はまた別のマネージャーの所へ戻って行った。みんな駅へ向かっているので同じ方向へ歩いているのだ。危ない危ない。変な噂が立ってしまったらまずい。真希が言いふらすとも思えないけれど。
それにしても、柚月先輩はどこにいるのだろう。これはもう、2年生の教室まで探しに行かないとだめだな。早く会いたいよ、柚月さん。
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