第56話 ここで負ければ、実質決闘に負けたような物だ。

 さっきと同じように理事会のメンバーが現れ、席に座る。テトラ達は言われた通り料理を理事会の前へ取り分けて行く。

 魔界料理と聞いて、俺や、ヤトコなど、他のメンバーも相手の料理が気なっているらしい。そわそわして皿の中を覗こうしている。ヘイゼルはそれを察してか、食べ始める前に拡声器役の悪魔を傍へ呼び寄せた。

『皆さん、そんなに気になるなら近くで見てもいいですよ』

 真っ先に足を踏み出したのはカロテだった。流れに乗ってバールゼーブが円卓へ進む。俺達もシュトレイトーも全員、円卓へ集まった。

 ヘイゼルは拡声器役の悪魔を一度下げる。

「折角なので料理の説明を各自してもらっていいですか?」

 ヘイゼルは最初にウチの料理を指さす。テトラは自身に集められる視線をうざったそうに手で掃った。

「あの眼みたいな実、臭みが強かったから香辛料を多めにしてオーブンで火を通したわ。ソースの味はイスターがベース。眼球の実ディアボラ風ソテーね」

 その場にいる悪魔達はパリパリになった実と赤黒いソースを眺め、見事「料理」へと変わり果てた原生生物に何人かが小さく唸り声をあげた。

 テトラの沈黙は説明が終わった事を意味していた。次に呼ばれていたのはシュトレイトーのバトラだ。

「次は私ね。まずこの食材、原生生物はアルラウネの亜種。ゴマ油で素揚げにして軽く塩とスパイスを振っただけ。この種類は火を通す時間によって花弁の色が変わるの。面白いでしょう?」

 確かに、他の料理に比べて色彩のレパートリーが飛びぬけていた。小さな花弁の一つ一つが赤橙黄緑青藍紫、全てを網羅して皿を飾っている。皿に花が咲いたようだ。

 盛り付けのセンスも当然あるけど、見栄えだけで言ったら普通の料理ですら負けてしまうくらい。

「これは素晴らしい、まるで絵みたいだ」

 声を出して絶賛したのは赤い髪が目立つ悪魔、カルダだ。肘を曲げて両手を上げ、わざとらしく驚いた真似をする。誰も口には出していないが確かにそれくらい綺麗だろう。見た目だけで言えば抜群にこれが勝っている。

「最後は俺か」

 バールゼーブ、エンバクの番だ。一度咳払いをしてから、一度原生生物の檻を顎でしゃくる。

「切り開いて表面積を多くとる為にスライス、下味を染みこませている間に手製のガラムマサラを即席で作った。そいつを塗してこれの旨みを一番閉じ込める調理法、鍋を使って燻製にした」

 さっきからカレーっぽい香りがしていたのはエンバクの料理だったか。説明から想像するに、旨みをたっぷり閉じ込めたカレー風味の燻製肉と言った所か。

 三品とも本当にただの料理であの禍々しい生き物達から変化したとは到底思えなかった。完成品だけを見るなら全くゲテモノ料理ではない。

 ヘイゼルが拡声器役の悪魔を再び呼び試食の合図を送る。

 まともな料理に見えても最初の一口は全員が躊躇っていた。

 最初はカルダが動いた。躊躇なくまずはバトラの料理を口にする。揚げた花にしか見えなかった物からジャリと咀嚼音が聞こえ、未知の料理を想像させる。

「これは魔界料理の中でも間違いなく美味しい。味は相変わらず独特だが、悪くない」

 カルダは簡単に批評を述べ「さぁどうぞ」と皿の前に手を広げる。理事会はそれぞれのペースで料理を食べ始めた。

 理事会ですら食べる事に慣れていないこの魔界料理。もしかしたらちょっと不利か?

「そろそろ皆さん席に付いてくださいね」

 ヘイゼルの一声で、俺達は自分たちのキッチンへ散っていく。

 この戦況が一番不味いと分かっているのは本人なのだろう。今まで見た事がないくらいテトラの顔は角番に立たされていた。

『それでは、札をあげて下さい』

 食器は下げられ、一回戦と同じように勝敗を決める三種類の札が理事会の前に置かれていた。実力が拮抗しているのだろう、未だに判断できていない様子のメンバーもいる。

 これで負けた場合……シュトレイトーが勝つとそれでもう終了、バールゼーブが勝っても、俺とザラメが勝たないといけない。ここで負ければ実質決闘に負けたような物だ。

 ヘイゼルの増長された声が俺の鼓膜を貫いてくる。

『シュトレイトー二票、テトラ弁当三票、バールゼーブ四票。二回戦は、バールゼーブの勝利となります』

 会場が沸く。

 恐らく誰が勝っても盛り上がった事だろう。

 しかし俺達にとっては、会場と真逆になる反応になってしまった。

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