第19話 現状一番使えないやつだぞ。


「わ、わ、私が決闘に!? むむむ無理です!」

「ちょっと待て! 私はテトラ弁当ですらないぞ!?」

 二人は慌てふためき、同時にわちゃわちゃとテトラへ抗議する。予想通りの反応なのだろう、テトラはカッカッと乾いた声であざ笑う。

 俺も正直かなり不安だ。ザラメはスイーツだけはかなり上達したが、普通の料理はまだまだのレベル。

 コムギはそろそろ火に近づけるかな、という論外のレベル。クルミが出るよりは希望があるけど……。

「安心しなさい、戦力には入れてないわ。数合わせよ」

 バタバタしていた二人がピタリと止まる。そもそもテトラが無謀な勝負をけしかけるはずもない。

「私とユキヒラが先に勝てばいいのよ」

 要は二回勝てばいい、つまり俺とテトラで無双する脳筋らしい筋書きである。

 結局、俺自身は絶対に負けられないのは変わらないって事ね……。でも久しぶりに、テトラのマジ料理が見られる。

「後は心理戦ね、戦う順番をどうするか」

 二人が少し落ち着いたからかテトラは紅茶へ手を伸ばす。が、先ほど飲み干した事を思い出して手を止めた。

 こっちを見る、そして少しだけ躊躇してから何も言わずに手を引っ込める。

 俺も、あえて紅茶を淹れには行かない。

 つい意地の張り合いになってしまった。

「心理戦? お前等が先に出て終わりだろ?」

「あんたらがそこそこ料理上手ければね。そんな単純じゃないのよ」

「ふーん?」

 コムギは自分の頭で考えることをしない。責任がないと分かった時点で、もうどうでもよさそうな振る舞いだ。

「ユ、ユキヒラ君は、それでいいの?」

 俺は自分を落ち着かせるように紅茶を啜った。

「采配は任せます。俺は旨いものを作るだけです」

「ひゅー、人間の癖に格好いい事言うじゃん」

 コムギが下手くそな口笛を吹く。揶揄されているのか、本当に関心したのか、半々くらいの言葉に感じた。と言うかお前は人の事を褒めている場合か? 現状一番使えないやつだぞ。

「当日までに考えて置くわ。各自、能力を莫大に向上しておく事、以上。解散」

 テトラは清々しいくらいに無茶を言い切り、席を立つ。リビングを出るのに、テーブルの配置上どうしても俺の横を通る。

 俺はカップを持ち上げ視界を塞いだ。昨日の今日でほとんど会話もしてないし、喧嘩はまだ白黒付いていない。

「腕、大丈夫なの」

 通り過ぎ様、テトラは簡単に問いかけてきた。

 俺はカップを落としそうになった。まさか話しかけられるとは思わなかったから。

 傷は治っても、痛みだけは覚えている。腕が千切られそうになった戦慄が脳裏に蘇り、ゾクリとする。

 現実味がないから遅れて来るな、こういう衝撃は。

「一応」

「そう」

 まるで興味がないとでもいう風に返ってくる。

 一言だけ残し、部屋を出て行くテトラを目で追いかける。せめて助けてもらったお礼くらいは出来たはずだが、俺は声をかけることができなかった。

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