第14話 「相変わらず口の減らないブタね」

※今回と次回は三人称です。


―――――――


 配達のため病院に降り立ったテトラは、溜息をついた。

 元気が出ない理由がユキヒラと喧嘩をしている事だと、本人が気づくことは決してない。

 ユキヒラと同じくテトラも昨晩の事を思い返していた。首の周りを触り、物足りなさを感じる。

(大人げなかったな……)

 そんな気持ちを抱かせた下僕がいつもならいる位置に、本日初めて配達に同行する悪魔が居る。

 近くに居るコムギを見て、テトラはいつもより大きい舌打ちを零した。コムギは腰に手を当て、不機嫌そうな悪魔へ向き直る。

「ブスっとしてんなーテトラ。だから下僕に嫌われるんだぜ?」

 コムギの何気ない一言にテトラの尻尾がビクンと反応する。清ましたつもりでいるのは本人だけで、その口角は少しだけ引きつっていた。

「何よそれ。あいつ私の事、そんな風に言ってたの?」

「いや言ってねぇけど、あの人間の雰囲気で私がそう思っただけ」

「はぁ。二度と憶測で物を話さないで。挽肉にしてから炭になるまで焼き殺すわよ」

「な、なんだよ。そんな怒んなよ」

 コムギはテトラの殺意から逃げるように、弁当の準備を始めた。


       ※


 テトラ達はこども病棟から、そして既にクルミは弁当を持って精神科病棟へ向かっていた。普段はユキヒラが荷物を引いているので、台車を乱暴に扱うクルミが少し心配になる。

(クルミ、やけに急いで行ったわね。何かしら)

「おいテトラ、行かないのか?」

「待って。入る前に、まずは守衛に声をかけなさい。勝手に入ったら大きな豚にシメられるわよ」

「ブタ?」

 逸るコムギに追いつき、テトラはこども病棟おなじみの窓口へ顔を出す。

「毎日来てるんだから顔パスにならない訳?」

 テトラは守衛窓口の向こうに佇む、体格の良い猪型の悪魔に不満を零した。その悪魔を見て、コムギは「でけぇ」と動物園で像を見る子供のように話す。

「申し訳ありません、どちら様でしょうか。ご自身が有名人だと勘違いされているのでは?」

「相変わらず口の減らないブタね」

 窓口に対応したのは守衛課の長、ステビアだった。

「新しい従業員様でしょうか?」」

 ステビアは通行許可証を二つ渡し、コムギに目配せしながら言う。テトラは面倒そうに肩を竦めた。

「ちょっと違うわ。ま、色々あってね」

「左様ですか。……お待ちください、テトラ弁当様」

 テトラ達が病棟へ入ろうとした時、ステビアは声をかけた。

「本日、配達の後、お時間宜しいですか?」

 テトラは彼女に呼び止められる心当たりなど一つしかない。間違いなくヘイゼル、つまり病院が関わっている。

 思いつく限り面倒事しかないお誘いだったが、今は都合が良いとさえ思った。あまり、家に居たくない気分だ。

「たまにはブタとのデートも粋狂でいいわね」

「それでは業務を終え次第、以前の会議室にてお待ちください。デートの待ち合わせは、そこで」

 テトラは手をひらひらとさせて病棟へ消えて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る