第11話 魔界を牛耳る三大組織の一つだ

 テトラと険悪なムードになり、それからは一言も発さずに帰宅した。

 留守番メンバーに挨拶もせず、テトラはすぐに自室へ籠城してしまう。あからさますぎる態度にザラメもコムギも疑問を呈した。気にするなって方が無理だ。

「ど、どうしたの? テトラさん」

 説明が面倒だし話したくない気分だったので、俺は適当に濁す。

「何だお前等、喧嘩でもしたか?」

 コムギがあっけらかんと聞いてくる。直球だな。そんなにわかりやすく、俺は不貞腐れていただろうか。

「ユキヒラ君とテトラさんが喧嘩?」

 ザラメは思わず口に手を当てた。俺だって驚きだ、こんな事態が起こるなんて、夢にも思わなかった。初めての喧嘩だ。

「そっか、喧嘩かぁ……二人とも凄いね。羨ましい」

 嫌な気分なだけなのに、何が凄くて羨ましいんだかわからない。

 じっくりこの気持ちに整理をつけたい所だけど、これから仕込みを兼ねた料理教室だ。下僕には落ち込む暇すらないらしい。

「あ、そうそう、喧嘩といえばな」

 コムギはクルミの背中を叩く。クルミは出発する前の無表情と違って、いつも通りの無表情だった。

「クルミも喧嘩したんだとさ、彼氏と」

「え? 彼氏?」

 クルミに? まさか、最近あっている友達っていうのがそれか?

 コムギのパワーワードにクルミが飛びつき、首を横に激しく振る。クルミの顔は見る見るうちに紅潮していた。

「ちがう」

 一丁前に照れている。目まぐるしい成長だ、感慨深い。年の離れた妹が色恋に目覚めるたらこんな気分なのかもしれない。

「コムギお姉ちゃんが仲直りの方法を教えてやったんだよな?」

「主に助言したの、私だよ……」

 ザラメは苦笑いしながら、手柄を奪ったコムギへ呟く。だろうな、コムギがアドバイスできるとは思えない。

「まぁテトラとお前は大人なんだし、頑張れよ。じゃ、早速だけど料理を教えろ」

 コムギは清々しいくらいに他人事を前面に押し出した。まぁ、実際他人事だけども。

「その前に、ちょっと話しておきたいことがあります」

 直接コムギには関係ないが、ザラメとクルミには言っておかねばならない。決闘と、その後のテトラ弁当の話を。

 俺から話す事ではないけど、今のテトラの様子では周知がかなり遅れてしまうからな。


       ※


 決闘の話はさほど驚かれなかった。むしろ「殺し合いじゃなければ、どんな料理勝負だろうか」と肯定的な始末だ。

 とにかく決闘を受けないって考えは端からない。

「そ、それで決闘相手は誰なの?」

「確かバールなんとかって名前です」

「えっ、まさか、バールゼーブ?」

「あぁ、多分それです」

 問いに俺が答えると、ザラメは「えー!」と体全体から出したような声を上げた。やっぱり有名なのか?

「そんなに凄いんですか、そのバールなんとか」

 コムギは指を三本立て、俺に見せながら険しい顔をした。

「凄いなんてもんじゃねぇぞ。魔界を牛耳る三大組織の一つだ」

「三大……」

 魔界がどれだけ広いのか知らないけど、世界の上位に君臨する事の凄さは想像に難くない。申し込まれた時のテトラの動揺にも納得いく。

 ザラメはここぞとばかりに名乗り出た。

「負けたら、ウチに来ればいいよ。部屋はいっぱいあるし」

「はは、そうですね」

「あっ、真面目に聞いてない」

 しょんぼりするコムギをしり目に、コムギは三本の指を一本にして俺の眼前へ持ってきた。

「そもそも勝ちゃいいんだよ。お前の腕なら大丈夫だろ、なんたって私の師匠なんだから。人間の癖によ」

 コムギはカラカラと笑いながら俺の背中を叩く。存外痛い。

 勝てばいいとは簡単に言ってくれる。でも仮に決闘に負ければ、どの道テトラとは永遠に離れ離れになるだろう。

 それを思うと背中から思い切り魂を引き剥がされるような、即死を垣間見るゾッとした感覚がする。

 やっぱり決闘なんてせずに別の道を探して欲しい、と思ってしまう。

 やるとしても、今回の料理勝負だってどうせ俺がやるのだろう。職員食堂料理長の次は世界規模の組織と勝負なんて、最初のボスからラスボスまですっ飛ばしたかのようだ。

「ユキヒラ君、ファイトだよ」

 ザラメは眉をぐっと逆立て、ふんわり笑う。漁夫の利を狙っていそうなあなたに言われても、さほどやる気は出ないな。味方がいるだけマシだけど。

 味方といえば、ザラメとクルミに頼みたいことがあったんだ。

「とりあえず明日も早いですし、仕込みしますか。それでその後、ザラメさんとクルミさんにお願いしたいことが。コムギさんの特訓の件で」

 二人して首をかしげる、こうしてみると姉妹のようだ。目をパチパチとさせているのはコムギも一緒だった。

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