第7話「ほら、こうなりますよ」
「駄目に決まってんでしょ」
テトラはコムギの泊めてほしいという要求をばっさりと切り落とした。
今、リビングにはテトラ、ザラメ、クルミ、そしてコムギが集まっている。仕込みを終えた俺達はとりあえず集まり、茶をしばいていた。
「頼むよ。いいだろ」
「あんたにそこまでする義理がないわ。見返りもないし」
俺は義理や見返りはどうでもよかった。それより、帰らずにわざわざ泊まりたいってはどうしてなのか。追い出すのは簡単だが、そこがひっかかる。
「もしかして何か理由があります?」
俺の質問に対し、羽毛を掴まれた鶏のように体を跳ねさせる。どうやら図星らしい。つっこんで質問して良いか分からず、俺は黙っていた。コムギは気まずそうに肝胆を開いた。
「あー実は、店がアレなんだ。差し押さえられた」
差し押さえ……。
「コムギさん、ウチみたいに店と家が一緒だったんですか?」
「察しが良いな、人間」
つまり家賃が払えなくなって、借金の担保に取られたってところか。
「あんた今、宿無しの文無しって訳ね。本当、よくお金借りられたわね」
「住んでいる場所をここだって言ったら、貸してくれたぞ」
俺とテトラが同時に目線を躱す。そんなザルな審査があってたまるか、何でもありになってしまうぞ。
と思ったけど「テトラ弁当」だから許可が下りたのだろう。金貸しはこじつけでいいから、なんとかウチと接点を持つために貸したかったんだ。マジで厄介なところから借りてたんだな、こいつ……。
「事情は分かったけど、無理な物は無理よ。部屋が開いてないもの」
テトラは冷徹だ。泊まるにしてもプライベートな空間はない。寝るとしらこのリビングくらいか。幸いソファーは広くて柔らかい。
「部屋? 部屋ならこの人間を追い出して、そこを私が使えばいいだろ?」
普通の悪魔ならそう言う思考回路になるよなと俺は思いつつ、テトラに加えザラメにも睨みつけられ、コムギは不思議そうな顔をして委縮する。そろそろ学習したらどうだお前は。
「ザラメ、あんた泊めてやりなさいよ。一人でしょ」
「嫌です。人間以外は招かないって決めてますから」
珍しくザラメは強気に応えた。テトラはその態度に少しムッとしたようだが、ザラメの真剣な顔を見て追撃はしなかった。ザラメは真面目な表情を崩し、パっと明るくなる。
「そうだ、ユキヒラ君がウチに泊まって、その間コムギさんが部屋を借りれば?」
「却下ね。下僕がサキュバスに犯されるのは許せないわ」
「サキュ……!? 心外です! ちょっと悪戯するくらいです」
ザラメは頬を膨らませて抗議する。でもちょっとはするのかよ。
こいつって酔っぱらうと相手に薬を盛るくらいだからな、俺としても二人きりでザラメの家だけは勘弁してほしい。なんとかしてコムギをウチに匿うしかない。
「もう泊めるしかないですよ、テトラさん」
「なんでよ」
テトラの尻尾は不機嫌にうねる。変に肩入れしていると思われたのか、一気に不機嫌になってしまった。俺は急いでコムギへ質問する。
「コムギさん、もしここに泊まれない場合、どうするつもりですか?」
「そうだなぁ、仕方ないから金を借りて、宿屋に泊まる。風呂入りてーし」
「ほらテトラさん、こうなりますよ」
俺はプレゼンでもしたかのように、テトラの様子を伺う。単純な奴の行動パターンは読みやすい。そして今までの話を聞いていると、この街でコムギが借金すれば、金貸しがウチに取り立てる可能性がある。
テトラは腕を組み、器用に舌打ちと溜息を同時に行った。
「あんたが寝るのはこのリビングよ。何をするにも私の許可を取る事、いいわね」
「泊まっていいって事か? テトラ、ありがてぇ!」
コムギは神でも拝むように合掌した。相手は悪魔だけど。
「あと泊める条件として、あんたが店を立て直した後は向こう一年間、月の売り上げの七割をウチに献上する事。いいわね」
「わかった!」
「いやそれ、また営業停止になりますから……」
わかっちゃダメなとこだぞ、そこは。
ふと黙っているザラメを見ると、何かの呪いを送るような顔をしてコムギを睨みつけている。クルミはそんなザラメをなだめるように、頭を撫でていた。
これから少しの間コムギが泊まることになる訳だが、まぁ、テトラがいるから大丈夫だろう。多分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます