第2章 とある魔王の勢力事情

第1話「邪魔するぞ!」

「邪魔するぞ!」

 バン、と壊れんばかりに扉が悲鳴を上げる。勢いよく扉を開け叫びながら店頭へ現れたのは一名の悪魔だった。

 見た目は十代後半くらいの女の子で、赤みがかった長い茶髪を後ろで結んでポニーテールにしている。

 俺はこれから配達へ行くとタイミングだった。開店直後に大声で入って来たお客様を見て、ザラメはきょとんと呆気に取られている。

 店頭販売は使い捨ての数量限定弁当で、日によっては十個も売れない。それでも多少の利益にはなるので一応は続けている。

 客はほぼ常連客だ。買っていく悪魔は大体顔なじみだが、いつも店番をしているザラメの様子から常連ではないらしい。

 と言うか、店に入って「邪魔するぞ」ってなんだよ。

 入店してきたその悪魔はおかしな行動を始める。本来店側が下げるべき頭を、思い切り下げたのだ。普通のお辞儀ではなく足を開き中腰になって膝に手を付きながら頭を下げる。ヤクザの挨拶めいている。

 勢い余ってポニーテールがふわりと宙に舞い彼女のうなじが露になった。

 そして一言、床に向かって叫んだ。

「弟子にしてくれ!」

「……は?」

 俺とザラメは全く同じタイミングで言葉を重ねた。言葉の意味が分からないし、何処かと場所を勘違いしているのでは?

 俺は面倒事にしか思えないその悪魔を追い返したい気持ちでいっぱいだった。

 今度はどんな理不尽がやってきたんだ。

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