第47話 下僕冥利に尽きます

「じゃあ、揃った事だし始めようかしら」

 店頭の裏にあたる生活スペースに、テトラ、ザラメ、クルミ、ヘイゼル、ステビア、そして俺の六人が集まった。さすがに慣れたけど、改めてコスプレパーティーか何かと思ってしまう。尻尾や羽がない俺の方が浮いている始末だ。

 酒で少し喉を潤し、俺は鍋の蓋を開けたり取り皿を分けたり下僕らしく仕事にかかる。ザラメがさりげなく手伝ってくれ、それを真似してクルミも皿を置いたり飲み物を持って来たりした。速攻食いに走ると思ったが、手伝い優先とは成長したな。

「お家、結構大きいんですね。お弁当屋さんだから、もっと小さいのを予想していました」

 ヘイゼルはハムとチーズを口に放り、部屋をまじまじと眺めながら言う。ジョッキ一杯あった酒は既になくなっていた。あなたも相当キメるお方なんですね。

「店頭とか厨房が入ってるからそう見えるだけよ。暮らす分には普通の家と変わらないわ」

 テトラはつまらなそうに吐く。無駄に広いとでも言いたげだ。

 クルミとステビアはフードファイトでも強いられているかのように食べまくっている。それを見て、ヘイゼルとザラメは呆れたような苦笑をする。

 ……平和だ。


       ※


 その後も何だかんだあったが、何事もなくお開きとなった。

 大量に飲んだがヘイゼルは殆ど酔っておらず、逆に満腹で動けないステビアを助手席に乗せて帰って行った。切腹するサムライのようなステビアの顔は一生忘れない。

 ザラメもほろ酔いのまま元気に帰宅し、クルミは食べ疲れて既に上の部屋で眠っている。

 賑やかだった部屋も、ソファーで酒を飲むテトラと洗い物をしている俺だけになった。最初はどうなる事かと思ったが、結構楽しかったので少し寂しい気分だ。

 空間を占めていた流水と食器同士が当たる音も、やがては止む。大量に洗い物があったせいで指が若干ふやけている。

「ユキヒラ。ちょっと来て」

 洗い物が終わるのを待っていたのだろうか、俺がタオルを片付けているとテトラが声をかけて来た。話を聞くために向かいのソファーへ。俺は少し前に淹れたコーヒーを一口飲んだ。温くなっていて美味しくない。

「どうしたんですか?」

 テトラは呼んでおいて一向に話さないので、こっちから話しかけてみる。興味のない美術館に来たように、テトラの目線は定まらなかった。

「私、とある魔王の娘なのよ」

「……またいきなりですね」

 雰囲気から普通の事じゃないと思ったが、それにしても突拍子すぎた。事前にカルダから魔王云々と聞いてなかったら混乱していたと思う。

「次期魔王という役職として育った私は、つまんない生き方してたわ。だからまぁ、あんたと、ついでにザラメも、よく私なんかについて来れてると思う」

 話が壮大過ぎて何が言いたいのかわからず、適当な相槌を俺は返す。

「ちっ、察しなさいよ。ありがとうって言ってんの。悪魔の軍勢より、あんたとザラメを従えている方が楽しいわ」

 成程、目を合わせないのは照れ隠しか。

 同一人物とは思えない振る舞いをしている。双子の姉妹と言われたら信じてしまうくらいに。

「なら良かった。下僕冥利に尽きます」

「うっさいばか。微塵も思ってないくせに」

 テトラはやっとこっちを見る。多分酔っているのだろう、顔がちょっと赤い。それに素面でこんな話をする訳がなかった。お酒の力を借りるとは、どこぞのヤンデレ悪魔と一緒だなと思う。

「私の事教えたんだから、あんたも教えなさいよ」

「何をですか?」

 と、しらばっくれてみる。話をしそびれたから、ずっと気になっている事だろう。別にわざわざ、身の上話をしなくても聞けば答えたのに。

「毒殺したって話、聞かせて」

 少しだけ心臓の鼓動が早くなる。

 俺は冷静を装い、コーヒーをもう一度口にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る