第23話「汚い花でも燃える様子は綺麗だね」
※今回はザラメとクルミ視点です。(三人称で書いてます)
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テトラとユキヒラが旅館を探しているころ、クルミは車の中で目を覚ました。遠くに見える露店街を発見すると、ザラメを叩き起こし一目散へかけていった。
クルミが露店のものを食べては移動、食べては移動を繰り返すので、ザラメはトラブルにならないようお金を払いながらクルミを追う。
ザラメは目を回しながら、底なしの胃袋に驚愕するばかりだった。
「クルミちゃん、そろそろ戻らないと……うぅ、ユキヒラ君たち、どこいったんだろう」
「あれもたべたい」
「ど、どれだけ食べるの……はい、クルミちゃん」
クルミは渡された焼きそばを嬉しそうな顔で眺める。くんくんと鼻をならし、三日ぶりにあり付いたご飯のようにがっつき始めた。
ザラメは口をいの字にして目を細める。
「見てるこっちが胸焼けする……」
「つぎ、あれがいい」
「ちょ、ほんとに怒られちゃうよ。あ、前見て歩いてっ」
焼きそば片手にクルミは歩き出す。ザラメの言葉など耳に届いていなかった。
「っあ、クルミちゃん!」
クルミは前を見ずに歩き出したせいで、通りの悪魔とぶつかってしまった。持っていた焼きそばが地面に転がり、クルミの体がそれに続く。不意な衝撃は小さな体を簡単に倒れさせ、綺麗にめかし込んでいた服が土埃で汚れた。
「だ、大丈夫、クルミちゃん!?」
ザラメは急いで駆け寄り、クルミの肘や背中に着いた埃を払う。クルミは何が起こったのかわからず、きょろきょろと周りを見渡した。やきそばが落ちているのを発見した。
次いでぶつかってしまった相手を確認したが、言葉を発したのは相手の方が先だった。
「いてぇな、どこ見てんだ」
ぶつかったのは金髪の悪魔だった。ドスの聞かせた声を出し、二人を睨みつける。ぶつかる相手が悪かった、とザラメは覚った。
「どけ、そっちのガキに言ってんだ」
「きゃっ!」
体で覆うようにしてクルミを庇っていたザラメは、絡んできた悪魔から乱暴に払いのけられる。ザラメが激しく地面に叩きつけられた。
「ザラメおねえちゃん」
クルミはザラメの痛がる表情を見て、心の奥がざわついた。
金髪の悪魔は地面に落ちている焼きそばを踏み潰し、クルミにその足の裏を見せる。
「服と靴が汚れたんだけど。弁償してくれよ」
クルミは踏み潰された焼きそばと、地面で痛そうにしているザラメを交互に見た。生まれて初めて感じる沸々とした感情と、敵という概念を知る。
「……ひどい」
「あ? なんだって?」
クルミの視線がどこにあるか確認し、金髪の悪魔はもう一度焼きそばを踏み潰す。
「酷いのはどっちだよ、先に迷惑かけたのはそっちだろーが」
金髪の悪魔はクルミの胸倉をつかんで手繰り寄せた。ザラメはクルミが乱暴されると思い立ち上がろうとするが、恐怖で腰が抜けてしまい動けない。
「クルミちゃん!」
金髪の悪魔は大きく腕を振り上げる。しかし、その振り上げた腕はすぐ横を歩いていた別の男悪魔に当たってしまった。
「ちっ、邪魔だ! どけ!」
金髪の悪魔は腕の当たった悪魔に愚痴を吐き、クルミに暴行を加えるためもう一度振りかぶる。が、その腕は振り下ろされない。
「邪魔? 失礼だね君は」
金髪の悪魔にどけ、と言われた悪魔がその腕が動かないように掴んでいた。その悪魔は背が高く、烈火のような赤い髪をしていた。
「せっかく人間に会えてトキめいていたのに。台無しだよ」
「は? 何いってんだテメェは」
割り込んで来た赤髪の男悪魔に、クルミもザラメも目を奪われる。
金髪の悪魔はクルミを離しターゲットを変えた。赤髪の悪魔が絡んで来た事によりことが大きくなり、野次馬が次々と現れた。ザラメは今のうちにと思い、自分の服を掃うのも忘れクルミの元へ駆け寄った。急いで手を引いて二人から距離を取る。
睨み合っていた末に金髪の悪魔が赤髪の悪魔に殴り掛かった。拳が届く瞬間、ザラメは反射的に目を瞑ってしまった。
バシ、という鈍い音が耳に届く。
しかしその後に予想できる転ぶ音がしない。ザラメが目を開くと、二人の距離は変わっていなかった。
赤髪の悪魔は相手の殴打を片手で受け止めている。
「野蛮だなぁ」
握られている拳が、ギシ、と鳴る。
「っ! テメ、離せっ!」
金髪の悪魔が痛がる様子を見て、赤髪の悪魔は無言で嗤う。
突如、掴んでいる方の手に光が宿り、赤く光り出した。周囲の悪魔達は赤く輝いた物が炎である事に気が付く。
二人を中心に大気の温度が上昇し、ザラメとクルミの髪がなびく。
その場に居る全員が熱風を感じた時、聞こえて来たのは金髪の悪魔の悲鳴だった。
「あ゛ぁあ゛!やっ……めろ゛っ、、、!」
金髪の悪魔は必死には離れようともがくが、赤髪の悪魔がそれを許さない。出した炎は徐々に相手を取り込み、腕から順にゆっくりと焦げていく。
金髪の悪魔は徐々に体が焦げていく激痛に、言葉にならない叫喚を残しながら白目を剥いた。
「汚い花でも燃える様子は綺麗だね」
赤い髪の悪魔は、つまらなそうに金髪の悪魔の最後の瞬間を見届けた。炎の勢いは止まらず、熱風は飛び火し、周囲のものを徐々に燃やしていく。
街中に突然現れた暴力に周囲の悪魔達は一目散に逃げ出した。
「く、くく、クルミちゃん! わ、私達も逃げよう!」
圧倒されていたザラメは周りの喧騒で我に返る。ザラメは、ぼうっとしながら焼きそばを見ているクルミの手を引き、すぐに熱風から遠ざかる。
歩幅以上の速度で手を引かれるクルミは、引きずられるように走り出した。
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