第11話 道中
「なっなんだあの生き物?!」
迫ってくる生き物をみてレンは思わずそう叫ぶ。先頭の方には少女が乗っておりこちらに手を振っているのだが、大変申し訳ないことにその子の登場より先に、あの見たことのない生き物の方に反応してしまった。
「あ!カレンだ!おーい!」
アイリスはそう言って手を振り返している。なるほど、彼女はカレンと言うらしい。そうこうしている間にカレンと二頭の謎生物が到着した。
「アイリス様ぁ~、心配したの~。いくらアイリス様でも一人で突撃するなんて無茶なの~・・・」
到着するなり謎生物から飛び降り、アイリスに駆け寄って彼女の手をとりそう言った。
「あははー、ごめんってば。心配しないで、私は大丈夫だよ!」
アイリスは相変わらずの調子で答えている。
「またそんなこと言って~。・・・?あなたは誰なの~?」
カレンがやっとこちらに気づいたらしい。
「おっと失礼、俺はさすらいの旅人フジミヤ・レンっていうんだ。レンでいいよ。アイリスには奴隷になりそうなところを助けてもらってな。何やら手伝って欲しいって事だったんでこうして一緒にいるんだ。よろしくな!」
そう言ってにっこりと笑い、親指を立てる。
「私はカレンっていうの~。この子はルー。よろしくなの~。」
カレンは丁寧にお辞儀をしている。すごくおっとりした感じで身長はレンより低く、薄い緑色の髪と猫耳が特徴的な女の子だ。肩には、何やら翼の生えた毛むくじゃらの可愛らしい生物を乗せている。あぁ、また聞きたいことが増えてしまった。なんだこいつらは!
「カレンはね、テイマーなんだよ!たくさんの生き物と友達なんだ!」
「テイマー?っていうと、生き物を飼い慣らして訓練するあれか。へえ、格好いいな。」
「だいたいは合ってるの~。ありがとなの~。」
「で、聞きたいんだがまずルー?はどんな生き物なんだ?」
自己紹介もそこそこに、レンは周りの謎生物たちについて質問し
「この子は私の使い魔なの~。とってもいい子なの~。」
「・・・・・・」
レンが聞きたかったのはその生物の立ち位置ではなく、種類といったとこなのだが、とりあえずもう使い魔ってことで一旦は置いておこう。
「じゃあこっちのやつは?」
そう言って二頭の謎生物を指差す。こういった生き物がこの世界にはたくさんいるのだろうか。羽毛に翼、そしてダチョウよりも逞しい足を持っている。
そこだけみると鳥類だが、頭はダチョウより大きいうえに毛におおわれ、レンの頭くらいなら噛み砕けそうなほど立派なくちばしがある。体は竜のような固い鱗で覆われていた。少し違うが、その姿はかつて地球上に存在した、恐鳥類と呼ばれるものたちによく似ている。
「その子達は
「なるほどな、竜鳥か。でも、近くでみるとやっぱり近寄るのが少し恐いな・・・」
大人二人くらいなら簡単に乗せられそうなサイズである。頭は良いらしいので、よほどのことをしなければ大丈夫だろうが、ここまででかいとちょっとした恐怖すら覚える。これだけ不思議な生物たちがいるのであればドラゴンなんかもいたりするのだろうか。ふとそんなことを考える。
「さあ、自己紹介は済んだ?早速行くよ!」
そう言ってアイリスが竜鳥に飛び乗る。続いてカレンも自分の竜鳥に飛び乗った。そうしてしっかりと手綱を握る。
「ほらレン、早く!」
そう言ってアイリスがこちらに手を差し伸べてくる。
「え?ちょ・・・っ!まだ心の準備ってやつが・・・」
「大丈夫!ほら、しっかりつかまって!」
そう言ってたじたじなレンを引き上げ、自分に掴まるよう促す。もうなんか色々いっぱいいっぱいだった。
「よし!それじゃあしゅっぱーつ!」「なの~」
「いや、本当に待ってくれってば!ねええエェぇぇ!」
世界が変わるとはこういったことを言うのだろうか。次々に景色が過ぎ去っていく。いや本当にめちゃくちゃ速い。自転車より絶対速い。マジで助けてくれ。日本にいた頃には馬にすら乗ったことのないレンである。鳥に乗ることなどできるはずもない。なんとか振り落とされまいと食らいついてはいるがこれがなかなか難しい。
しかし、本当に振り落とされることはなかった。不思議な感じだ。最初こそきつかったものの、この超短期間で体が慣れたとでもいうのだろうか。レンが自分で運転したことのある乗り物といえば自転車くらいなので感覚がそれに似ていたのだと無理矢理に納得することにした。
「おおー!初めて竜鳥に乗ったにしては筋が良いねっ!」
アイリスが嬉しそうに笑いながらこちらを見る。頼むから前を向いてくれ。
「初めて乗った人はだいたい振り落とされるの~。レン、後ろに掴まってるだけだけどすごいの~。」
横でカレンがそう言っている。褒められると悪い気はしない。
「まあ俺の実力をもってすればこんなものかな!ていうかお前ら、振り落とされる可能性があったのかっ?!」
二人ともばれたかー、という風な顔をしている。洒落にならねえ。これ確実に、落ちてたら死んでたよね?末恐ろしい女たちだ。
「弁護士を呼んでくれ。お前らを訴えてやる・・・」
「無駄口叩いてると舌を噛むの~。」
「え、いや・・・!オイ、だから・・・だからちょっと待てえェェェェッ!」
果てしなく青い空の下、レンの悲鳴が高らかに響いたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「死ぬとこだった・・・割とマジで・・・」
夕闇が迫る頃、レンたち一行はセタ国境の町外れ、屋敷前の物陰にいた。庭には見張りがおり、並大抵のことでは突破できそうにない。しかし戦う前からレンはもうぐったりである。竜鳥とやら、確かに移動は速い。しかしこの生き物に慣れていないレンにしたら軽く絶叫マシーンだ。何度天国行きを覚悟したことか。三途の川を10回渡ってもお釣りが来るくらいではなかろうか。いや、それだともう死んでるわ。
「レンは大げさだなぁ」
ケラケラとアイリスが笑っている。お前・・・。
「そういえばまだ作戦を聞いてないな。どうすれば良いんだ?」
ノコノコとついてきておいて何だが、敵のボス、つまりこの地方の人身売買の首領をやっつけるということ以外何も知らない。
「戦力を分散したくないから3人で動くんだけど、ここの見張りに見つからないように裏手から屋敷に入るよ。それからできるだけ交戦を避けて首領を倒す、これが作戦だよ!」
一見まあまあなことを言っているように聞こえなくもないが、何一つ具体的なプランは出てこなかった。これで良いのだろうか。先が思いやられる。そもそも最低一人(つまり俺)は非戦闘員なのだ。
「アイリス様、そもそもレンは戦えるの~?」
「いやー分かんないけど、人が一人でもいた方が良いかなーと思って・・・」
アイリスのその受け答えに、カレンはやれやれといった表情である。俺だって流石にまさか3人で敵の懐に潜り込むとは思ってもみなかったよ。
「悪いが、戦えるか戦えないかで言えばNoだな!」
「なんでついてきたの~。」
お決まりの笑顔にサムズアップ。正直剣道はやっていたものの、それが実際の戦場で役にたつとは思えなかった。カレンはため息を吐く。
「とりあえず自衛のためにこれは渡しておくの~。足手まといにならないよう気をつけるの~。」
そう言って細身の剣と袋を渡してきた。これは何だろうか。
「その袋の中には魔法石が入っているの~。それを使って詠唱すれば、少しは魔法が使えるの~。」
「おお!こういうの待ってたんだ!すげえ便利なアイテムだな!」
そう言って袋を開けてみる。中には白色の石が5つ入っていた。
「流石カレンは準備が良いね!」
「時間がなくてそれだけしか買えなかったの~。それがあれば魔法が使えない人でも少しは使えるようになるの~。でも上等じゃないから、使える魔法に限界があるし、使い捨てなの~。」
つまり今のところ魔法が使えない俺のためのドーピングということだ。何にせよあまり実感はないがまた命を懸けることになるのだ。切れる手札は多い方がいい。
「十分だよありがとう。そういえば詠唱は何て言えば良いんだ?」
カレンにお礼を言い、そう訪ねる。なんだかんだで呪文を教えてもらい損ねるところだった。あぶないあぶない。
「それは光属性の魔法石なの~。だから、どういう形で使うかをイメージしながら『ラディア』って唱えるの~」
「なるほど光魔法、一応適性がある魔法だな。ラディア、ラディア、ちゃんと覚えられるかな・・・」
竜鳥が静かに、心細そうに鳴く。
「心配してくれてるのか?大丈夫、戻ってくるさ。」
そう言ってレンは二頭の竜鳥のくちばしを撫でる。たった数時間背中に乗せただけの相手を心配してくれるとはなかなか慈悲深い生物だ。
「さあ、行こうぜ!」「おー!」「なの~。」
静かに気合いを入れて一歩を踏み出す。セタ国境でのサバイバル開始だ―――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます