第14話

「インタビューしてもいいですか?」

 大量の花束と格闘していた悠生に、ある女性記者が近付いて来た。


「ええ」

 係の人に花束を預け、ようやく落ち着いた彼は、襟元を正して向き直る。

「この度は、大賞受賞おめでとうございます」

「有り難うございます」

「『風の色』素敵なシーンですね。光の粉が舞い降りてくる感じが」

「苦労しましたよ」

 一年前の事を思い出して、悠生は軽く微笑んだ。



「それで、モデルの浅緒久深さんなんですが」

 核心に迫ったのか、女性記者の言葉に熱がこもる。

「天才バイオリニストと、新鋭写真家の接点は、何だったんですか?」


「夢、ですね」



 半年前に、久深は兄と感動の再会を果たす。  

 この前彼女がくれた絵葉書には、ウィーンの消印が付いていた。


「浅緒さんとは、今後のご予定は?」

 記者はどうしても二人をゴシップ記事にしたいらしい。


 そんな思惑を知ってか知らないか、悠生は穏やかな口調で答えた。

「いつか、逢う事になるでしょうね」

「いつか、とは?」

「同じものを追い続けている限り、人は出会えるものですよ」



 彼はふと、風吹橋の伝説を思い出す。



「・・・お互い引き合い、合わさって、結ばれる」

 訳の分からない顔をした記者に向かって、目配せをしながら言葉を続けた。



「そう、風のように、また」




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風のように、また。 黒珈 @take_k555

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