#20000

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 幼い頃から恐れられていた。

 怖い。何を考えているか分からない。近寄り難い。

 周囲の人間にはそんな風に見えていたようだ。

 それでも、僕は変わった。

 僕には、何よりも大切な使命がある。



 高校の授業を終え、僕は霧島と共に部室へ向かっていた。右手には大きめの紙袋を提げて。


「おいソーマ、何だその袋?」


 霧島が僕の手元を覗き込みながら言った。


「勧誘のビラだよ。もっとメンバーを増やさないと、活動の規模を広げられないだろ?」


「あー、まあそうだけど、俺らの活動って青春真っ只中の連中にはなかなか興味持たれないんだよなあ。なんつーか、渋すぎるっつーの?」


「確かにな……。でも、だからって何もしなかったら、未来は変えられない。やれる事を少しずつでも、やっていかなきゃいけないんだ」


 僕がそう言うと、霧島は苦笑いしながらため息をついた。


「やれやれ、ソーマさんには逆らえませんな。しゃーねぇ、俺も本気出すとすっか」


「ありがとう、霧島」


 部室前に到着し、扉のドアノブを握る。ドアに貼りつけられたプレートには「社会学研究部」と書かれているがそれは建前で、実質は世界規模の戦争を未然に阻止するための平和的活動を行っているグループだ。通称、「ミスティルテイン」。活動内容に対してやや物騒な名前ではあるが、僕の尊敬する人物の名前にあやからせてもらった。


「どうした、入ろうぜ」


「ああ、すまん」


 霧島に促され、ドアを開ける。既に入室していた部員が一斉にこちらを向く。


「部長、お疲れ様です」


「お疲れ様。みんな早いな」


「俺はここの活動に誇りを持ってますから!」


「私もです! 今日も頑張りましょう!」


 部員は、僕と霧島を含めて十名。まだまだ頼りない団体だが、少しずつでも歩みを前に進めていれば、それはいつか必ず大きな力になるはずだ。


「ありがとう、みんな。今日はメンバーの増員を目的に、勧誘活動を行おうと思う。対象は学校内に限定しない。これからは生徒以外の人たちにもアプローチしていこう」


「はい!」


 部員達の威勢のいい返事が聞こえた。

 慌ただしく動き始めた部員達を眺めていると、霧島が僕の肩に手を置いた。


「ソーマ、お前ホント、変わったよな」


「そうか?」


「ああそうさ。子供の頃は、冷酷で冷静で最強で、こいつ実はサイボーグなんじゃねぇかとよく思ったもんだよ」


「ははっ、サイボーグか」


「それが今や平和活動団体の部長だろ? お前、変わったよ。ものすごくいい意味でな。……やっぱり、あれがきっかけなんだろ?」


「……そうかもな」


 僕がまだ小学生だった頃に、ヤドリギが何の知らせも無く数日帰ってこなくなった事があった。何かあったのかと気にはなったが、探すあても連絡手段も無かった僕は、ただ待つしかなかった。


 一週間経ち、二週間経ち、一人で生活する日々に慣れ始めて来た頃、ヤドリギは突然帰って来た。

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