第11話:『インテリ』『終末』『死刑』

 Cosy catastrophe.

 心地よい破滅。

 文明の崩壊した終末の世界において、滅びを受け入れ、ささやかな共同体で精神的に満ち足りた生活を送ること。



 俺がその言葉を知ったのは、ちょうど三人組の武装集団を殺したあとだった。

 彼らはどうやら先日俺が食料を奪っていったことを根に持っていたようで、ご丁寧にもわざわざ図書館で待ち構えていたのだ。意外とインテリな奴らだと思った。しかし「死刑だ!」などと声高に叫んで飛び出して来たところを見ると、やはり馬鹿なのかもしれない。どちらにしろ頭を撃ち抜くとすぐに静かになった。人間なんてそんなものだ。


 死体の身ぐるみを剥いでいると、血だまりの傍に一冊の本が落ちているのが目に留まった。

 館内にはいくつもの本が散乱しており、全てが長年の雨風に晒されるか、もしくは先ほどの抗争の煽りを受けて、無残な紙切れと化している。にも関わらず、その本だけは、妙に綺麗なままだった。表紙こそ擦れて読めないものの、何か内に秘めたる神聖さが今も残っているように思えた。

 俺は本を手に取り、あてどなくページを開いた。すると、ある文言が俺の目に飛び込んで来たのだった。


『Cosy catastrophe――』



 俺は本を閉じる。そして、まだ温かく滑らかな血だまりに本を投げ入れた。

 表紙が汚れ、ページとページの間には血が染みわたっていく。これで、そこらの凡百と同等に成り下がった。

 俺は辺りに散乱している本の中からよく燃えそうなものを適当に見繕って袋に詰め込む。袋を担いで、俺は図書館を出た。

 倒壊したビル群の隙間、道と呼ぶには荒れすぎた大地を踏みしめて、俺はねぐらへの途につく。


 ――心地よい破滅なんてものが、もしあるとすれば。


 およそ一八〇日ぶりに見かけた人類を殺そうが、俺は何も感じなかった。

 他者を殺し、腐った水を啜り、わずかな文明の名残に齧りつきながら、俺は生きていく。

 破滅してしまった感情こそが、今は心地よい。



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感想・振り返り


『終末』が先行であとの二つのお題をむりやり入れた感じ。

 コージーカタストロフィは実際にある創作ジャンルで、けもフレや少女終末旅行などが当てはまる。人退もギャグ寄りだがおそらくここに含まれる。個人的に好きな作品が多い。

 この後は主人公が謎の少女たちと出会って、本の通りにささやかで安寧のコミュニティを作ろうと奮闘するほのぼの展開が始まります(妄想)。

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