第5話:『タヌキ』『ホッチキス』『高気圧』

 僕には特殊な能力がある。


 相手のステータスのうち一つの項目をランダムで選択し、開示させることができるのだ。脳内で強く念じることで発動し、視界に映る相手の頭上にその情報を表示させる。

 僕はこれを、ステータス開示リクエスト能力と呼んでいる。


 ……すごいって言われたい。しかし実のところ、全く役に立たない能力だ。


 問題点は主に二つ。


 一つ目は、ランダム性だ。年齢とか、好きなスポーツとか、見えるステータスはしょうもない項目がほとんど。小学生のプロフィール帳みたいだ。


 二つ目は、内容のいい加減具合だ。『趣味:テレビを観ること』なんてありふれたやつはもう見飽きたし、特技や将来の夢では堂々と『特になし』と書かれてあることが実に多くてうんざりする。中身のない現代人たちめ。


 ちなみに、LVや使用魔法といったファンタジーなステータスが見えたことは一度もない。悲しくも極めて現実的な世界観なのだ。


 このステータス開示リクエスト能力――略してステリク――は、誰に対しても、何度でも発動することができる。とは言っても前述の問題点があるから、面白い情報が出ないかと繰り返し発動したところで、大抵の場合は徒労に終わる。


 そんなわけで暇つぶしになるかどうかすらも怪しい僕の特殊能力:ステリクだが、稀に当たりとも言える変わった事例がある。いくつか紹介しよう。


 まずは、当時中学三年生、同級生の狐塚ゆかりさん。不真面目な男子生徒を叱る姿が印象的だった、真面目な女の子。ふと彼女にステリクを発動して見えたものは、


『最近のマイブーム:タヌキグッズ集め』


 名前負けなのか、勝ちなのか。どっちだろう。


 次は、町ですれ違った、知らない女子高生。制服姿で歩いているだけなのにとても凛然とした立ち居振る舞いで、見るからに只者ではないと肌で感じさせた。黒髪ロングの美人だった。他意はないけど、すぐさま僕はステリクを発動。すると、


『得意武器:ホッチキス』


 僕は足早に立ち去った。深入りしない勇気。

 

 最後は、当時小学四年生、隣のクラスの仲田牧弘くん。我の強い天然パーマで、アフロと称して過言ではない髪型だった。明るい性格の彼は、むしろそれを誇りとしていた。ステリクを使うと、


『あだ名:爆弾高気圧』


 見た目のまんまだ。っていうか知ってた。僕も呼んだことあるし。ちなみに最近気づいたのだが、正しい気象用語は爆弾低気圧。高気圧に対して爆弾とは言わないのだ。色んな意味で小学生らしいあだ名だった。


 いつかこの能力よ役に立て! そう願いながら、今日も今日とて僕の日常は平和に回る。



『このお話への感想:                       』



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感想・振り返り


 羅列でお題を消費するのはやや卑怯な気がする。

 急にメタっぽいオチをつけるのは嫌いではない。

 転校生の美少女に『運命の人:○○(主人公)』と表示されてラブコメ展開、通りすがりの怪しいやつに『今週の殺害人数:4人』と表示されてサスペンス展開、みたいな話の広げ方どうでしょう。ってかもうありそう。

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