第4話:『レモン』『大都市』『消費税』

 笑顔になるのが苦手だと言う人がいたら、私は笑顔の得意な人を代表して答える。



 笑顔って、勝ち戦なんだよ。

 どんなに大袈裟でも、ささやかでも、相手の笑顔を嫌がる人なんていないと思う。つまりね、絶対に負けないってこと。あなたは幸せなときに思いっきり笑って! そうしたら、あなたの笑顔を見た誰かには、きっと幸せが伝わります。うん、私が保証します。

 こうやって巡り巡っていくんだから、幸せって無限のエネルギーじゃないかな。元々あるっていうか、私たちみんなで生み出してる感じ。かっこいいよね! だからね、笑わないのは損なわけなんです。うんうん。


 零式のピロシキさん、それでもやっぱり苦手だなーって思ったら、せめて損しないために笑うのはどうでしょうか? それくらいビジネスライクでもいいんだって、私は思います。笑顔に消費税はかからないのです。じゃんじゃん、やっちゃってくださいね。

 えっ!? いやいやいや待ってください! 私のはビジネスじゃないですってば! 作家さんひどいよー!

 もー。さて以上、みなさまに真心から笑顔を届ける――ここ重要ですからね――西園翼のふつおたコーナーでした!



 ラジオの収録を終えた私は、スタジオのビルの中で、友達と落ち合った。


「おつかれ、翼。調子よさそうじゃん」

「そっちもおつかれさま、みるるん」


 友達の名前は、雪野美琉。あだ名は、みるるん。私と同じ声優さん。今日はたまたま同じスタジオで仕事が入っていたから、仕事終わりに一緒に夕飯を食べる約束をしていた。


「これあげる。風邪引かないようにね」

 そう言ってみるるんが渡してくれたのは、レモンの飴ちゃんだった。

「ビタミンCかな」

「そういうこと」

「ありがとっ」

 嬉しいから、笑う。私の幸せがみるるんに伝わりますように。


 声優って、不思議だ。

 さっきのラジオでは笑顔の大切さを説いてしまったけれど、声優の私がそんなことを言うのは矛盾してるのかもしれない。私の笑う声が、聞いている人みんなの中で正しく笑顔に変換されるといいな。

 ……なんて願望で終わってたら、みるるんに叱られちゃう。だって、それをしっかり実現させるのが声優なんだから。声優って、不思議で大変。でも、がんばろう。


 電車に揺られていると、ここが大都市東京なんだって実感する。夜でも景色一面が電気で明るいし、人がたくさんいる。電車に乗る人たちの表情は、ほとんどが仮面を被っているみたいに暗くて無機質なものばかり。

 私はみんなを笑顔にしたい。だから、アニメも吹き替えもラジオも歌も、全部がんばるんだ。

 ね、みるるん。



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感想・振り返り


 書いてる最中の手応えはいまいちだった。

 声優のストーリーにせずに、「笑顔に消費税はかからない」辺りのテーマを掘り進める形にしてもよかったのではなかろうか。

 昨今の声優さんは顔出しの仕事が多い。その点に触れるのは、ここでは冗長になりそうなのでやめた。


 あとから読み返すと、我ながら案外好きかもしれない。

 純粋で元気な女の子が主人公で百合っぽい雰囲気っていうのがいい。

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