二 危なすぎる福袋

「――どれどれ、どんなお宝が出てくるのかな~」


 そして、家に帰ると早速、袋を開け、苦労して手に入れたブツの中身を確認する。


「ヒュ~! こいつは大当たりだぜ!」


 中から出て来たのは、某幾何学模様の散りばめられたブランドのハンドバッグや、「C」が二つ重なったようなマークのサイフ、やはり某高級イタリアブランドのスカーフなどなど、どれも一目でお高価たかい品だとわかるものばかりだった。


 これならば、フリマアプリで売っても軽く1万円以上は稼げるだろう。どうやら俺の賭けは間違っていなかったようだ。


「…………いや、でも待てよ?」


 だが、明らかに買った値段以上の価値はあると思われる品物を前にして、俺はふと、ある疑念に捉われる。


 福袋だからって、こんなうまい・・・話がそうあるもんだろうか? いくらなんでも、これほどのサービスをしていては商売成り立たない気がする。なにやらちょっと胡散臭そうな外国人経営のお店だったし、これはやっぱり、全部真っ赤なパチもんだとか……。


 そうした疑惑に取り憑かれた俺は、スマホ片手にホンモノとニセモノを見分けるためのポイントをネットで検索しつつ、先ずは一番大きなハンドバッグから粗探しをし始めた。


 とりあえず生地やプリントをネット映像の本物と見比べ、縫い目なども細かく眺めてゆく……。


「うーん…今んとこ、これっていう証拠はないようだけど……んん?」


 ところが、意外や確実にニセモノと判断できるようなものは何も見当たらず、もしや、正真正銘、ホンモノの高級ブランド品なのではないか? と再び思い直し始めながら中を弄っていたその時。


 俺は、そのバッグの底が二重になっていることに気づいた。


 底に一枚、周囲と同じ革を張った板のようなものが敷いてあるのだが、なんだか妙に厚く、ただの底敷きのようにも思えない。


「ブランド品ってみんなこんな風になってんのか? よっと……なっ!?」


 不審に思い、隙間に指を突っ込んで持ち上げてみた俺は、その裏にある本当の底の上に、ニセモノかホンモノかなどもうどうでもよくなるような、そんな些末な問題など遥かに凌駕するものスゴく不穏なものを見つけた。


 それは、5㎝四方の透明なビニール袋に、真っ白い粉の入ってるものだった。しかもそれが6袋、底一面に整然と敷き詰められている。


「えっと、先ずは落ち着いて、この状況についてじっくり考えてみよう………」


 俺は目頭を押さえてマッサージしながら、慌てず焦らず、今、目の前で起きた出来事を冷静に考察してみようとする。


「俺の目がどうかしてるか、まだベッドの中で初夢でも見て寝惚けてないんだとしたら…………これってガチでヤバイやつだろ!?」


 だが、この俄かには信じがたいようなトンデモない出来事に、とてもじゃないが冷静にいることなどできなかった。俺は思わず叫び声を上げると、まるでお化けでも見たかのようにバッグから跳び退く。


 無論、こうしたものと無縁な俺には、それが覚せい剤なのか麻薬なのか詳しいことはわからないが、ともかくもこの絵面はテレビなどで見たことのあるアレに間違いない。


「あ、そうだ…………」


 不意に手に持ったスマホのことを思い出した俺は、この〝白い粉〟についてちょっと調べてみることにした。


 台所に行ってハカリを持って来ると、バッグから小袋を取り出して総重量を測ってみる。そして、ネットを牛してあれこれまた検索してみるに、どうやら一番安い種類の〝ヤク〟だったと仮定しても、末端価格1千万円下らない代物のようだ。


「値段の10倍どころか1000倍の代物が入ってる、超お買い得な福袋だったってことか……」


 俺のような庶民層とは無縁なその高額お値段に、驚くというよりも呆れ返ってしまい、部屋の真ん中に突っ立ったまま、しばし呆然と佇んでしまう。


「…………って、それどろこじゃなかった!」


 しばしの後、そんなポカンとしてる場合じゃないと気を取り直した俺は、どうしてこんなありえない事態になっているのかを確かめてみることにした。

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