【創作エッセイ】トマト嫌いがその味を語るように

トマト嫌いがその味をよく語るように

ぼくはコミュニケーションについて語る



 昔から、「壁を作っているね」と言われる人間だった。その原因は種々あれど、まあ一番大きいのはあれかなと思い当たる節もありつつ、一応そんなつもりはなかったので心外な指摘である。

 しかし高校で修学旅行の際にそんなことを言われ、大学で後に誰かからそう言われていたとまた聞きした。大学院でも同じようなことを言われるという始末なので、ぼくの本意不本意はともかくとして、ぼくが壁を作っているらしいのは確かのようだ。

 教師にも、医者にも、カウンセラーにも、そして両親にも言われる。

 内に籠るな。

 外に開け。

 多くの人間と言葉を交わせ。

 それは一般論では正しくとも、ぼくとしては苦手だし嫌いだからやりたくないのだが、それゆえにぼくにはこうした会話一般、コミュニケーションについて理想というか、あるべき姿が見えてくる。


 例えば、好きな食べ物の話をする時はとりあえず「好き」と言っておけばいいのに対し、嫌いな食べ物について語る際は「どこが嫌いか」を克明に語る必要が生じる。「好き」は適当に「好き」で繋がれるが、「嫌い」はその一言で繋がれない。同じことはコミュニケーションについても言えて、ぼくはコミュニケーションが嫌いで苦手であるがゆえに、その本質と意義とをよく理解できていると自負している。少なくともコミュニケーションが「好き」で、誰かと話すこと繋がることが「好き」な連中よりは、コミュニケーションの本質を掴めているはずだ。


 コミュニケーションとは他者を変える行為だ。他者を粘土細工に例えるならば、その一言はときに別の粘土としてその人に張り付き形を変える。また別の一言はヘラの一撫でとして模様を描きもするし、あるいは粘土をごっそりそぎ落とすかもしれない。そしてコミュニケーションとは、これを両者の間で繰り返す行為に他ならない。ゼロ距離インファイトでの、精神の削り合いと癒し合い。何気ない一言に救われもするし傷つきもする。それがコミュニケーションだ。


 しかしどうやら世間一般のコミュニケーション観は違うらしい。そんならお前の認識の方が違うんだろうと指摘されかねないが、ぼくは自身のコミュニケーション観にだけは絶対の自信を持っていて、だから世間(少なくともぼくの周囲)の認識が間違っているとだけは断言できる。

 彼らは決して、自分の粘土細工をさらさない。ぼくの粘土細工だけをさらさせて、それを玩具に遊びたいのだ。


 これを投稿する頃には二月にもなっていようという時分に初詣の話をぶり返して悪いが、袋緒花緒生誕の大きな一因であるだけに避けて通れない話である。

「内に籠るな」

「人と話せ」

「誰かに相談しろ」

「言葉を交わせ」

 おおよそ両親は一般的な意味でそのようなことを、帰省したころから言い出していた。それほどぼくは周囲から殻に籠るタイプに見えているらしい。殻を破ったところで素早さが二段階上昇して即座に自死するだけだから今のところ破る気はないが。

 閑話休題。ゆえにぼくは言葉を紡いだ。かなりネガティブで、両親に向けてこそではないが他者に対する攻撃性の高い言葉を。聞いた母は泣き、「そういうことを言うな」と言った。


……………………は?


 率直に言ってその時の感想はそれしかない。中学から小説を書き、文学系の大学に進学し、あけましておめでとうから三十一音が心からポロポロあふれるぼくが、たった一言発せられる感想である。実際は心で思っただけだが。

 母には、自身の粘土細工を加工される覚悟などなかったのだ。それはおそらく父も同じだろう。兄二人も同じだろう。ぼくの周囲の人間も同じだろう。

 しかしぼくという心の粘土細工は加工したくて今日もヘラを振う。そりゃ、自分の粘土細工は隠しますよ。コミュニケーションとは、嬉しいも楽しいも、悲しいも苦しいも共有する行為だと思っていたのに、どうやら周りの連中は、ぼくの苦しいは共有してくれないらしい。お前たちの苦しいを、ぼくは幾度も汲み取ったのに。


 あとの経緯は【連作短歌】「新年ファミレス」と「はつもうで」に詳しい。

 家に帰ったぼくは「死にたくない」を連呼して、殻を作り直してようやく閉じこもり、残ったひび割れからこうしてみなさんに三十一音、たまにちょっと多めの言葉を届ける次第。

 フクロウでなくヤドカリだったか。ヤドカリの方がまだ、活き活きとしてるけど。

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