第29話・ぼくの決断

 広大な場所に無数の打ち上げ台。

 何万体ものアンドロイドがカプセルに詰め込まれ、ロケットに搭載されてその時を待っている。

 ぼくはそんな何万体のうちの1体。

 兄弟たち。

 宇宙に打ち上げられ、そのまま宇宙ゴミと化して朽ちていくものがほとんどだろう。

 彼らがそこまでして手に入れようとしているものは、ほんとうに人類にとって明るい未来をもたらしてくれるものなのか。

 ぼくにはわからない。

 それについていくら考えたところで、ぼくに正解が導けるわけがない。

 ぼくはただひとつの目的のために創られた何万体もの兄弟たちのうちの1体でしかないのだ。

 でもぼくは記憶を持っている。

 これから起きることを知っている。

 これからぼくがするはずの恐ろしいこと、

 宇宙を駆け巡るあの宇宙海賊たちに起こることも。

 ぼくが彼女たちと過ごした日々。

 それはぼくにとってかけがえのないもの。

 愛することを知った。

 無数に創られたアンドロイドのうちの1体でしかないぼくが、愛することを知った。

 ぼくには彼女たちのために為さねばならないことがある。

 彼女たちにこれからどんな困難が待ち受けているのか、ぼくにはわからない。

 だけど、少なくともぼくを拾わなかったら起きなかったであろう災いについて、ぼくは知っている。

 ぼくが拾われなくとも、ほかのぼくが拾われてしまうのかもしれない。

 だからぼくは、ぼくたちを殲滅する。

 一体残らず破壊する。

 ぼくはぼくの記憶をすべてのぼく、兄弟たちと共有し始めている。

 ぼくの記憶が波のように、打ち上げを待つぼくの兄弟たちに広がっていく。

 彼らはぼくたちが互いに通信しようとするなんて思いもしていなかったに違いない。

 その結果ぼくたちが次々と自己破壊しようとすることも。

 ぼくの記憶が遥か彼方の打ち上げ台まで届く。

 その時が来た。

 やがて、彼方の打ち上げ台から徐々に砕け散り残骸が空を漂い始める。

 爆破はどんどん加速して、やがてあたりはぼくらの残骸で溢れんばかりになる。

 ユリ船長・ドクター・ママ・サオリ・ザジそしてリナとルル。

 彼女らの航海がこれからもその目的に向けて順調に平和に続きますように。

 愛する人がずっと幸せでありますように。

 ぼくはコマンドを呼び出す。


緊急事態発生>機密漏洩防止措置>自己破壊プログラム>起動 


 彼女たちの乗る海賊船が颯爽と宇宙を駆け抜ける姿を思い描きながら、ぼくはカプセルのなかで目を閉じた。



        >Shut down

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンチェインド・ベイビーズ  宇宙海賊少女とぼく 藤嶋空 @exrdjaxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ